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長期経営計画のすすめ Ⅳ 企業戦略_一次長期計画 1. 長期ビジョンを決める

方針策定、現状分析を終え、いよいよここから長期経営計画の策定に入ります。現状分析と同様に企業戦略から策定していき、大枠を策定したところで、事業戦略の策定に移り、最終的に企業戦略を仕上げるという進め方になります。

より実務的なイメージをもっていただくために、前半はケーススタディを記述し、後半にポイントを記述していきます。


1.ケーススタディ

設定

明智「この会議から長期経営計画の策定に入ります。まずは企業戦略における長期ビジョンを検討していきます」
前山「長期ビジョンは長期計画の中で肝になる部分です。社長、専務が腹落ちする言葉を創りあげていきましょう」
社長「今の社長は私だが、長期ビジョンは事業承継を見据えて専務の思いを優先したい」
専務「はい、そのつもりです。ここまでの社長が築かれてきた大切な部分は踏襲したいとも思ってますので、ぜひ率直なご意見お願いします」
明智「以前の現状分析を振り返ります。わが社はタイトルとしては"経営理念"を用いています。「輝ける働く場の提供」という言葉は社名のディライトにつながっており、事業の通じて多くの人に輝ける働く場を提供したいという社長の思いが反映されています。MVVの定義に当てはめると、ミッションに該当する要素になります。下記のMVVで策定していく場合、ビジョンとバリューを新たに策定することになります。またビジョンと整合性をとるためにミッションにあたる経営理念の見直しも必要かもしれません。」

社長「私が作った経営理念にこだわることなく、0ベースで検討してほしい」
前山「では、ビジョンから検討していきましょう。観点は3つあり、1つ目は4~10年程度かけて取り組むべき内容であること、2つ目は社会への影響が大きくビジネスとして成り立つこと、3つ目は社員がそれに取り組みたいという意欲が沸く内容であることです」
専務「では私から提案します。ビジョンは【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】です。わが社はこれまで多くの方へ、輝ける働く場を提供してきました。そのことにより、医療従事者の皆さんはいきいきと活躍され、その結果、患者さんへの質の高い医療サービスの提供につながったと思っています。しかし、今もなお、看護師や医師など医療従事者の不足は長年解消されておらず、さらに偏在が加速しています。働き方改革はどの業界よりも遅れており、このままだと日本において等しく医療を受けることが難しくなるでしょう。私はこのことに大きな危機感を抱いています。今の当社の人材紹介というサービスは、限られた方へ輝ける働く場を提供できますが、医療業界全体をより良く変化させることができない。よって長期経営計画において、【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】をビジョンとし、この大きな社会課題に対して長期的な視点で取り組んでいきたいと考えています。」
専務「またミッションは 【輝ける働く場の提供】、バリューは 【意志・信頼・謙虚】を提案します。」

(この後、活発な議論が行われ、専務が提案した内容にて決定する)


2.ビジョン策定のポイント

ビジョン策定の3つのポイントは前述のように、
①4~10年程度かけて取り組むべき内容であること
②社会への影響が大きくビジネスとして成り立つこと
③社員がそれに取り組みたいという意欲が沸く内容であること
です。

【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】というビジョンは、短期間で解決するテーマではなく、①の観点は十分満たしています。②の観点においても医療業界は以前に紹介したメガトレンドや成長市場に該当しており、大きな企業成長が期待できます。

③においては、社員自身やその家族は、健康で活き活きと暮らすこと望んでおり、取り組みたいという意欲が沸く内容になっており、3つのポイント押さえたビジョンになっています。長期ビジョンの決定は企業ドメインの決定に繋がります。その具体的な内容については、次回の「企業ドメインを決める」で紹介していきます。


3.ミッション策定のポイント

ミッションはビジョンを実現する方法となります。ケーススタディでは【輝ける働く場の提供】という言葉がこれまで使われてきており、今後も同じ言葉を専務が提案しました。

ミッションは事業内容と繋がります。人材紹介を通して、より輝ける働く場を提供するというのがこれまででした。今回の専務の提案は、これまでの人材紹介事業のみを更に成長させるという意思表示ではなく、医療業界全体を輝ける働く場にしたいという思いがあり、言葉としては同じですが、解釈を大きくすることを選択しました。

ビジョンを実現する方法は多岐にわたります。【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】というビジョンであれば、受診料を下げる観点や医療施設を増やす観点、医療技術を上げる観点や、薬や医療機器の品質を高める観点など様々あります。ミッションを決めなければ、社員は自由な発想で取り組むことができますが、反面、限られた経営資源の中で推進力を持って物事を前に進めることができずに、結果としてビジョンに近づかないということに陥ります。

【輝ける働く場の提供】という言葉は、一定の制約を与えながらも、いくつかの観点が生まれていくることが予測される内容です。その具体的な内容については、次々回の「事業ポートフォリオを決める」で紹介していきます。


今回は以上となります。次回は「Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画 2.企業ドメインを決める 」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 人的資本を分析する
8. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める    ←今回
2. 企業ドメインを決める ←次回

3. 事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を決める
5. 新規事業・M&A戦略を決める
6. 一次業績計画を策定する
7. 一次投資枠を設定する
8. 全社一次要員計画を策定する
9. TOPマネジメントを決定する
10. 企業戦略を事業戦略に展開する
11. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書を紹介させてください。



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