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なぜ2020年まで『少年ジャンプ』だけが二次創作の供給元だったのか?

腐女子と切っても切り離せない存在なのが二次創作。
これまで数多くのコミックが出版され、さらにそれらを題材とした二次創作が多く生み出されてきました。
その中でも特に人気を誇っていたのがいわゆる「ジャンプ系」の漫画といっても過言ではないでしょう。

しかし、そんなジャンプ系も2020年の『呪術廻戦』以降、腐女子に人気のある作品が少なくなっているような気がしませんか?

今回はその理由を検証・解説していこうと思います。

少年雑誌の文化的傾向の比較

まずは『少年ジャンプ』とその他少年雑誌との傾向の違いについて見てみましょう。

集英社『少年ジャンプ』

エンタメ路線で売れる作品をあの手この手と目先を変えて作り出す商業重視の傾向。最近は「ジャンプ+」が活況を呈します。
『キャプテン翼』『聖闘士星矢』時代から狙わずにキャラ執着が描かれ、腐女子受けできるカルチャーが浸透してました。しかし最近はチームメイト、ライバル、敵に必要以上の関心や執着を寄せないキャラクターが多くなっているようで、ウェブトゥーンの主役的な個人主義路線になったといえるかもしれません。自分で制御できない特定キャラへの感情を「クソデカ感情」といいますが、そんな気持ちを心に抱くキャラの登場が少なくなったためか、腐女子受け漫画が減っているような気がします。

講談社『週刊少年マガジン』『月刊アフタヌーン』

男社会や男子の内面を描くことを中心に据え、あえて女性人気を避ける傾向にあったのですが、近年は方針転換。『ブルーロック』『WIND BREAKER』は女性読者を意識した展開がうかがえます。
当初のグロ、鬱展開で女性向けとは思えなかった『進撃の巨人』が腐女子人気を獲得。これはエポックメイキングな出来事でした。人気キャラのリヴァイは別雑誌『ARIA』でスピンオフ展開が行われ、その手法は『ブルーロック』にも受け継がれています。
ただこれまで腐女子人気を得た作品は、途中で人気キャラが登場しなくなったり、いきなりの最終回を迎えたりしています。それが原因なのかわかりませんが、ジャンプ系作品と比較して腐女子離れが早い傾向にあります。

小学館『週刊少年サンデー』『ビックコミック』

「サンデー」作品はラブコメが若干多めでバラエティ豊か。しかし、伝統的に汗の匂いがする群像劇が少なく、二次創作がされにくい傾向です。
『ビックコミック』系や休刊した『IKKI』など鬱、グロありの前衛的作風の漫画が多数生み出されています。
しかし、もっとも腐女子がハマる作品が多い雑誌は幼児向けの『コロコロコミック』という歴史があります。

秋田書店『週刊少年チャンピオン』

比較的自由なレギュレーションなのか異色作品が定期的に生まれています。
しかし、プロモーションやコンテンツ運営にそれほど手をかけられないためなのか、コンテンツの展開持続力が他紙と比べて弱めかもしれません。

本当にジャンプ作品の二次創作は多いのか?調べてみた

2024年5月5日  スパコミ31出展 ジャンル数とサークル数

2024年5月5日  スパコミの出展数。全7041サークル
注)出展サークル数10以下のものは除外

スパコミ31の出展サークルの出版社別 人気作品ジャンル

スパコミ31出展ジャンル 雑誌・ジャンル別

女性向け同人即売会国内最大手であるスーパーコミックシティ(通称:スパコミ)の直近の出展サークルを調べたところ、半数以上が集英社の作品でした!
ジャンル別の詳細を見ても、ジャンプ系作品の層の厚さが分かります。

スパコミ31の人気ジャンル アニメ化された時期

スパコミ31出展ジャンル 初アニメ化時期
緑 2020年以降
赤 2010年代
灰色 2010年以前

また、人気ジャンルは必ずといっていいほどアニメ化していることがこの表から分かりますね!
10年以上(中には20年超の作品も!)人気の第一線にいる作品が多く、二次創作が盛んなジャンル=息が長い印象です。

アニメ化が多いからジャンプ系二次創作が多いのか?

ジャンプ系漫画に腐女子が惹かれると言われる要素はこのように言われることが多いです。

  • アニメ化が多い

  • イケメンキャラ

  • 能力・必殺技 

    確かにアニメは多そうですが、果たして本当にそうなのでしょうか?
    上の表はウィキペディアを参照に作成した各出版社のアニメ化本数です。
    (3大出版社に関しては少女漫画レーベルを含めず、少年、青年、幼児向け漫画対象に算出し、続編や映画については本数に含めておりません。)

    アニメ本数はKADOKAWAや講談社、小学館が上回っており、ジャンプ系作品が特別多いわけではないようです。

ジャンプ系はイケメンが多いから二次創作されるのか?

ついでジャンプ漫画はイケメンが多い
という説を見ていきます。

こうして上の画像2つを比較すると、初見の方はどちらのグループにイケメンが多いのか判然としないのではないでしょうか。

ジャンプ漫画に限らず、日本の少年漫画のベースは、仲間を巻き込んで敵や困難を撃破していくストーリー展開となっています。
実はその過程において、キャラクター同士の執着が描かれるかどうかが腐女子人気の鍵を握ります。けしてイケメンだから人気が出るわけではありません。

主人公が他人に執着しないタイプは本人のレベルアップや成長、作品の主題描写に重点を置いた展開が主になっているため、他キャラとの関係性の深読みができる材料が少なく、二次創作されにくい傾向にあります。

さらにいうと2024年に映画化もされた漫画『ゴールデンカムイ』があります。ここに登場するキャラは猛者という出で立ちが多く、上品に思えないギャグも目立ちますし、お世辞にもイケメンが多いと言えません。が、腐女子人気が高いのです。
時折見られるゲイ漫画的な描写もその要因ですが、登場人物の他キャラへの執着がすさまじく、それが腐女子心を捉えたといっていいでしょう。

また商業BLでも新潮社から発売された『蛍火艷夜』はビジュアルが青年漫画向けであったもののBLアワード有識者部門で2位になったという功績もあり、執着感情の強さは、時としてビジュアルを凌駕することがあるということが分かります。

ジャンプ系は必殺技や熱い展開があるから人気なのか?

スポ根系のバレー漫画というジャンルは同じでも二次創作の数に圧倒的な差が出ている例もあります。

主人公のレベルアップ、成長のために強大な敵の登場が少年漫画に求められますが、腐女子に人気が出る場合、その敵は単なるゲームのラスボス的な存在ではなく、愛憎、嫉妬、憧憬といった感情をぶつける相手として描かれています。
勝負の決着よりも、敵、ライバルへの感情の決着をつけ、さらにチームメイトと関係性が強化することに重点が置かれる漫画は、腐女子受けする可能性が高いといえそうです。

以上のことから、ジャンプ漫画に腐女子が惹かれる要素は必ずしも正しくないということが立証できました。

  • アニメ化が多い →KADOKAWAや講談社、小学館が上回る

  • イケメンキャラ →少女漫画雑誌、スクエニ系のほうがクセのない正統派

  • 能力・必殺技  →現実的な試合に近い「ハイキュー!!」が人気

なぜ『呪術廻戦』以後ジャンプ系から人気二次創作ジャンルがでないのか?

ジャンプ本誌では2020年『呪術廻戦』アニメ化以降、腐女子に大ヒットする作品が約4年間出ていません。
これはこれまで切れ目なく腐女子向けヒット作を生み出してきたジャンプからするとあまりに空白期間が長すぎる状況…。

かわりに『ジャンプ+』がアニメ作品の発信地になりつつあるものの、こちらも腐女子に大ヒットする作品が輩出されていません。

一体なぜなのでしょうか?

自分の課題は自分で解決!他人に依存しない自律的なキャラが仇に

思うに、現在のジャンプ作品はキャラ同士の関係性よりも自己のレベルアップを重視しているのではないでしょうか。
仲間からの助けやヒントを得て課題解決する自律的な主人公像が描かれることが多く、他人を介さずに感情の自己処理、能力アップができており、特定のキャラへ愛憎入り混じったアンビバレントな感情に行動を支配されることが少なくなっているように感じます。

最近アニメ化され一般人気の高い『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『マッシュル-MASHLE-』でもキャラ同士の執着表現が少ない、あるいは見られない傾向にあります。

とはいえ、これまでジャンプ系作品が紡いできた系譜が途絶えてしまったわけではありません。

現在アニメ放映中の『忘却バッテリー』では、序盤こそキャラ同士の因縁や愛憎があまり描かれていないものの本誌50話以降から要圭が覚醒し、ギャグテイストが少なくなっています。
主人公とバッテリーを組む葉流火に心境の変化があったり、兄弟の確執などにも焦点が当てられるなど、放送終了後、アニメ2期からブレイクの可能性もあるかもしれません。

また、各漫画賞を獲得した『ダイヤモンドの功罪』でも凡人、秀才、天才といった対比が残酷に描かれ、主人公の才能によってポジションを追われるチームメイトの心情や野球以外の人間の心情描写が丁寧に描かれていました。
一方本誌では現在、主人公よりもチームメイトたちの人間模様に興味が向かいつつあり、その関係の中に主人公がどう絡んでいくのか注目です。

『ヒカルの碁』のようにライバルが出現して関係性を構築するか、それとも観察者的な立場のままなのか……。主人公に比肩するキャラが現れれば、大人気漫画となる可能性も孕んでいます。

野球漫画で腐女子人気を獲得したのは『おおきく振りかぶって』『ダイヤのA』を掲載した講談社のみでした。
もしかすると集英社から腐女子人気の高い野球漫画が初めて生まれるかもしれませんね。

まとめ 腐女子向けエッセンスの高い作品は息長く愛される

特定の相手へ愛憎入り混じった恋愛、友情という概念とは少し異なる、アンビバレントな執着感情に支配されているキャラ(相手への思いが一方的でもOK)が登場する作品は腐女子人気が高く、冒険漫画、スポーツ漫画、格闘漫画にそうした関係が多くなっています。

信頼からの執着、確執からの執着、殺意から執着などいろいろありますが、執着対象キャラがいないと自分の存在価値さえも見失う依存状態に陥るほどの関係が好まれます

2010年代は作品を腐女子目線で見る行為が出版社から嫌がられることが多く、イナゴのように短期でコンテンツを食い散らかしていくという見方も支配的でした。
しかし長く安定的な人気を得ている作品を見ると、もれなく腐女子が好きな作品ということが分かります。そしてその要素は決して制作者側がイメージするような「媚びる」内容ではありません。

上記のエッセンスを持つ漫画が、必然的に腐女子ならず一般にも愛されているのです。

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