片手袋研究家

片手袋研究家

最近の記事

『富士山麓俺は泣く』目次

1.『フェスって何なんだ!』 2.『レディングが日本にやってくる!』 3.『常に一歩先をいっている奴』 4.『山をなめてた当時の僕』 5.『怒声』 6.『サマーキャンプ』 7.『サード・アイ・ブラインド』 8.『ザ・ハイロウズ登場!!!~月光陽光~』 9.『フー・ファイターズ~不味い飯~』 10.『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』 11.『ザ・イエロー・モンキー(1)』 12.『ザ・イエロー・モンキー(2)~悲しきASIAN BOY~』 13.『レ

    • 番外編『実は僕達、雑誌の表紙を飾っていた!』

      お久しぶりです。前回、最終回を執筆してから約一年ぶりに更新致します。 当ブログは僕が高校生の時に体験した、第一回フジロックフェスティバルでの経験を詳細に綴る目的で立ち上げました。その目的は拙いながらもなんとか達成し、もう書ける事は何も残っておりません。 しかし、おかげさまで更新を終了してからも結構な数のアクセスが日々あります。毎年フジロックの季節が近づくと、情報を検索していてたまたまこのブログにたどり着く人がいるみたいです。 あの伝説的なイベントは、伝説であるが故に様々

      • 28.『最終回~その後~』

        1998年。東京有明で行われた第2回フジロックフェスティバル。前年と違い後ろの芝生で座りながらゆっくりライブを楽しむ僕の横に、杉内はいなかった。 97年のフジロック以降、僕と杉内は全く会わなくなった。仲が悪くなったわけじゃなくて、ただ何となくそうなっていった。大方の予想を裏切り二回目の開催が発表された時、僕は迷わず杉内を誘った。しかし今となっては理由を忘れてしまったが、杉内からの答えはNoだった。 結局僕は別の友人を誘い、一回目に味わった困難が信じられない位近い場所(僕も

        • 27.『全ての終わり?』

          電車の路線図を見ると、時間は掛かるが案外簡単に東京へ戻れそうだ。 バスとはうって変わって、ぎゅう詰めの電車内に乗り込む。しかしそのおかげで今度はこの汚い格好も目立たない。なぜなら僕と同じような格好をした奴が腐る程いたからだ。何も事情を知らない地元の人達は、突然汚い格好をした奴らが何百人も乗り込んできた事にさすがに驚いただろう。 車内のいたるところで、昨日の出来事を興奮気味に語り合う声が聞こえてくる。僕だって話したいのだが、大人しく立っているしかない。杉内ははもういないの

        『富士山麓俺は泣く』目次

          26.『静寂』

          気合いを入れて二日目に臨むつもりだったが、僕のフジロックフェスティバル1997は唐突に終わりを告げた。無念さと若干の安堵を胸に、帰宅を決意した僕だった。 しかし冷静になって考えてみると、どうやって帰ればいいのか、さらに今いる場所がどこなのかも良く分からない。取り敢えず人のいる場所へ行こうと、先程のコンビにまで戻る事にした。 車を追いかけて猛ダッシュで走りぬけた道をトボトボと引き返していると、バス停があった。路線図を見てみると、河口湖駅まで行ける様だ。よく分からないが、そこ

          25.『急げ!』

          「本日のフジロックフェスティバル二日目は、昨日の台風による会場へのダメージが激しい為、中止となりました」 僕は何が何だか分からず、暫くその場で立ち尽くしてしまった。フラフラとその警察に近寄り、 「…それ、それ、本当ですか?」 と弱々しく尋ねる。 「はい」 そっけない答えが返ってくる。周りにいる人達も驚きを隠せない様子だ。 (どうしよう?) 必死に頭を働かせる。 (杉内達と別れてからまだ十分位しか経っていない。国道が若干渋滞していた事を考えると、車はまだそれほど

          25.『急げ!』

          24.『衝撃』

          完全に体調を崩してしまった杉内は家族と東京に帰り、僕は一人で二日目に参加する事が決まった。 今日もライブの開始は10時頃だ。昨日は台風直撃の最中、真っ暗な道を歩いて下山したのでよく分からないが、会場まで到着するのに2時間は見ておいた方が良いだろう。だとすると、既に時間に余裕はない。早速、キャンプ場を後にすることにした。 杉内の親父さんの車に乗り込み出発したが、恐らく一日目だけで帰るフジロックの観客の車なのだろう。国道がそこそこ渋滞している。中々前に進まない車内で僕は昨日の

          23.『固い意思』

          二日目に単独で参加する事を決意した僕だったが、問題は山積みだ。 まず、そもそもどのようにして会場にたどり着くか?という問題。会場に直接乗り入れて駐車出来るのは、一日目と同様に事前に申し込んだ車だけ。当然杉内の親父さんの車は申し込んでいないので、僕は昨日と同じく送迎バスを使うしかない。 しかし昨日から状況が改善されたとも思えないので、送迎バスは恐らく昨日と同じような混乱を招くだろう。怒号飛び交うバス車内、イエモンへのブーイング、帰りのバス発着所の惨劇。僕は音楽を楽しみに来た

          23.『固い意思』

          22.『二日目の始まり』

          良くも悪くもそれまでの人生で最も劇的だったフジロック一日目を終え眠りについた僕達だったが、朝七時頃には目が覚めてしまった。ほんの数時間しか眠れなかったが、それでも体は昨日よりだいぶ楽になっている。流石に筋肉痛で節々が悲鳴を上げているが、どうやら風邪も引かなくて済んだようだ。 車から出てみると小雨がぱらついていたが、殆ど気にならない程度になっている。こんなのは昨日に比べれば天国だ。時折晴れ間も見え始めたので、僕も杉内も昨日から履いているビチャビチャのズボンを外に干した。僕もま

          22.『二日目の始まり』

          21.『下山⑦~一日の終わり~』

          奇跡的に杉内の親父さんと会う事が出来た僕達は、ハイエースの荷台に揺られキャンプ場に到着した。そこでは杉内の弟とお姉さん達が僕達を待っていた。向こうも心配していたと思うが、僕も杉内のお姉さん達の安否を心配していたので、お互いの無事を喜ぶ。 顔を合わせた瞬間、今日一日どのような経験をしてきたのかそれぞれが猛烈に語りだす。杉内のお姉さん達は、ずっとセカンドステージにいたそうだ。セカンドステージはメインステージとは違い、地面が砂利だった。その為、あれ程の雨でも地面が水溜りになってし

          21.『下山⑦~一日の終わり~』

          20.『下山⑥~デウス・エクス・マキナ~』

          ようやくたどり着いた道の駅だったが、雨風が凌げる場所は僕達と同じように歩いて下山した人達で既に埋め尽くされていた。 僕達はヘロヘロと屋根など何もない花壇のような場所に倒れこんでしまった。一旦座ってしまうと、もう動けない。もう雨に濡れたってなんだって良い。とにかく眠りたい。うつ向いたまま、僕は目を閉じた。しかし、そこで寝るなんてとんでもない話である事にすぐ気が付いた。 ライブ中もそうだったが、歩いて体を動かしている時はまだしも、座り込んで動きを止め静かにしていると寒さが尋常

          20.『下山⑥~デウス・エクス・マキナ~』

          19.『下山⑤~ナイト・オブ・ザ・リビングデッド~』

          「やったぞ!」 細い山道から大きな国道に出た瞬間、僕達は歓声を上げた。遂に山を下ることが出来たのだ。しかし…。全く見覚えの無い場所だ。喜んではみたがそもそも僕達が目指していたのは国道ではなく、朝のバス発着所なのだ。 「なんだここ?」 杉内が久し振りに口を開けた。 「お前のせいで訳わかんねーとこに出ちまったじゃねーか。どうすんだよ?」 何だコイツ? 「お前にも判断を仰いだじゃねーか!なに僕だけのせいにしてんだよ!」 危うく反射的にそのような言葉が口から出かけた。し

          19.『下山⑤~ナイト・オブ・ザ・リビングデッド~』

          18.『下山④~セブンイレブン良い気分~』

          混沌としているバス発着所を横目に、朝バスで通ってきたと思われる道を下り始める。 幸い僕達と同じ判断を下した人達が、何千人という単位で徒歩による下山を始めていた。とりあえずこの人達に着いて行けば、全く訳の分からない所に出てしまう、ということは避けられそうだ。 暫く歩いてみてすぐに気付いた。細い山道は下山する観客の車で大渋滞になっている。これでは上でいくら待っていてもバスが来ないはずだ。歩く、という選択は正しかったのかもしれない。 しかし、「歩道」というものは無いに等しく

          18.『下山④~セブンイレブン良い気分~』

          17.『下山③~混沌と決断~』

          僕達は公衆電話を後にし、再びバス発着所に向けて歩き出す。発着所までの道のりで目にする光景は悲惨極まりなく、僕達の足取りと心はどんどん重くなる。考えてみれば食事だって、フーファイターズの時に雨でベチョベチョの「何か」を食べたのが最後なのだ。急速に腹も減ってきた。 しかし、なんとか発着所に通じる階段に戻ってきた。先程の高台から再び下を見下ろしてみると、やはり行列は全然解消されていない。もう何かを考える力もなくなってしまい、暫くボーっとその行列を眺めていると怒号のようなものが聞こ

          17.『下山③~混沌と決断~』

          16.『下山②~繋がらない電話~』

          ※念の為、いま一度この時の前提条件を書いておくと、僕は半袖短パンビーチサンダルというふざけた格好、気候は台風九号直撃という状況です。 そして「~らしい」という表現が頻出しますが、あの時は自分達がどういう状況に置かれているのか知るすべが無かった為、全部憶測で判断して行動するしかなかったのです。 では前回からの続きを。 帰りのバスへ乗る為の長蛇の列を見て乗車を諦めた僕達。取り敢えず杉内のおじさんと連絡を取る為、バス停から再び公衆電話があるライブ会場へ向けて歩き始めた。 途

          16.『下山②~繋がらない電話~』

          15.『下山①~ビーサンを呪う~』

          観客にとっても(恐らく)レッチリにとっても不本意な形でライブは終わってしまった。しかしレッチリの圧倒的な存在感、「ここまで耐えてこられたんだ」という観客の達成感により、会場は「完全燃焼」という空気に支配されていた。 僕も杉内もライブ終了後しばらく放心状態となっていたが、悪くなる一方の天候が僕らを現実へと引き戻した。この時確か、既に夜の十時頃になっていたと思う。 「さあ、帰ろう」 会場を後にする周りの人が皆、口々にレッチリの凄さや今日のベストアクトなどを興奮気味に語ってい

          15.『下山①~ビーサンを呪う~』