21.『下山⑦~一日の終わり~』

奇跡的に杉内の親父さんと会う事が出来た僕達は、ハイエースの荷台に揺られキャンプ場に到着した。そこでは杉内の弟とお姉さん達が僕達を待っていた。向こうも心配していたと思うが、僕も杉内のお姉さん達の安否を心配していたので、お互いの無事を喜ぶ。

顔を合わせた瞬間、今日一日どのような経験をしてきたのかそれぞれが猛烈に語りだす。杉内のお姉さん達は、ずっとセカンドステージにいたそうだ。セカンドステージはメインステージとは違い、地面が砂利だった。その為、あれ程の雨でも地面が水溜りになってしまう事もなく、比較的過ごしやすかったそうだ。

それが原因なのだろう。面白い事に杉内のお姉さん達は「電気グルーヴ最高!」とか「エイフェックスツインが家から出てこなかった」とか、専らライブの感想が中心なのだ。それに比べて僕達は、「バス発着所が物凄い状況だった」とか「終演後、ステージ上に倒れてる人たちが運び込まれていた」とか、状況説明が中心。つまり、「どちらのステージにいたか?会場までの交通手段は何だったか?用意してきた装備はどれくらいのレベルだったか?」等により、あの日のフジロックの感想は全く違ったものになるのだろう。

その点、「半袖短パンビーサン履き、送迎バス、メインステージから動かず」という状況だった僕達は、参加者の中でも最悪のケースを辿ったのかもしれない。

ようやく心底ホッと出来る環境に身を置く事が出来た上、冷え切った体も暖まったので、強烈な眠気が再び襲ってきた。まだこの時点では雨足も強く、せっかくのキャンプ場だがテント箔は到底無理だった。

借りたタオルケットに包まって車の荷台に横になる。この時をどれほど待ちわびたか。もう朝も近い。明日(というか既に今日)の二日目は、一日目の経験を活かし少しペースを抑えて見る事にしよう。

ほんの何秒かで僕と杉内は深い眠りに落ちてしまった。

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