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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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2024年3月の記事一覧

現実から解き放たれたフォルムと色彩

現実から解き放たれたフォルムと色彩

ポーラ美術館で初めてアンリ・マティスの「リュート」を見た時、正直その良さは分からなかった。パースを無視したダイナミックな線と、大胆に置かれた強烈な色彩に、私は戸惑いさえも覚えた。なんて自由すぎるのかと。自由すぎて脳が追いつかない。でも決して複雑なことはしておらず、むしろ簡略化されたその絵になぜか心が引っ張られる。美術館を見終わったあと、気になって調べたくらいだ。だけど当時の私は、その絵に引っ張られ

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戦わない勇気

戦わない勇気

ギターとキャリーバッグを担いで、バスへと乗り込んだ。運転手さんにゆっくりでいいですよ~と言われる。久しぶりの大荷物に私は手こずっていた。こんなに重たかったっけ。今回の荷物はまだ少ない方で、これよりもっと重い荷物を担ぎながら全国を飛び回っていたなんて信じられない。あの頃は重さなんかよりも、世界が広がっていくワクワク感の方がまさっていたのだろう。伊東駅でお土産を買うと店員さんに、たくさんありがとうござ

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言葉になる前の音に耳を傾けながら

言葉になる前の音に耳を傾けながら

カーカーカーというカラスの鳴き声で目が覚めた。時計を見ると朝6時前。ここ最近は目覚ましの音ではなく、朝日と共に鳴き始めるカラスの声で起きることが多い。お前はニワトリか!二度寝しようと思っても、スヌーズみたいに何回も繰り返すもんだから目が覚めてしまう。でも、目覚ましの音でびっくりして起きた時のような不快感はない。自然界の音だからかな。伊東に来てからは、自然の音に耳を傾けることが多くなった。特に文章を

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天国に生まれた私たちは

天国に生まれた私たちは

家にいながら好きな時間にドラマや映画を楽しめる。本を読まなくてもYouTubeで誰かが分かりやすく解説してくれている。お店に行かなくてもネットで注文すれば次の日には欲しいものが届く。どんなに遠い世界の果てでも写真や動画で見ることができる。お店の口コミを調べればハズレを引くリスクを下げられる。100円均一でだいたいの生活用品は揃えられる。500円払えばおいしい牛丼を食べられる。スマホを開けばすぐに誰

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小さな街の小さな物語たち

小さな街の小さな物語たち

もうすぐ冬も終わりだなあと思いながら、ふとスーパーで目に入った大根。そういえば、今シーズンは煮物を作っていない。出汁の染み込んだあの味を想像した途端に食べたくなり、半分に切られた大根を買った。煮物は出来上がるまでに少し時間がかかる。調味料を適当に鍋の中へとぶち込み、ダラダラとYouTubeを見ながら待つ。このダラダラとしている時間が最高に無駄で楽しい。スーパーの惣菜コーナーで大根の煮物を買ってしま

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