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エフ=宝泉薫
2019年7月2日 20:35
「何、やってんだ!今、俺が出したの、万札だろ?釣りがこんだけって、ぼったくりバーかよ?」お客さんの怒号。わけがわからなくなり、どこで間違えたのか、必死に考えるけど・・・そこに、追い打ちをかけるように、「だいたい、あんた、そんな体でよく食べ物屋で働けるね。正直、こっちは見てるだけで、食欲無くすんだよ。ファミレスにいるより、病院で寝てたほうがいいんじゃね?」その言葉で、ますます
2019年7月6日 17:49
待ち合わせ場所に行くと、なみちゃんはもう着いていて、文庫本を読んでいた。まだ15分前なのに。相変らず、律儀だなぁ。でも、表情とか、態度とか、やっぱり元気がない。それは、店を選ぶときにも感じられた。何も食べたくない私が、「お昼どきだけど、お腹すいてないんだー。ここなら、お茶だけでもいいし、軽い食事もできるから」と、カフェに誘ったら、「いいよ。私も最近、食欲なくってさぁ」た
2019年7月9日 16:17
約二ヶ月ぶりのキャンパスは、秋の空気。あり得ないレベルだという今年の残暑も、寒がりになった私には、十分すぎるほど涼しい。まわりの子たちはほとんどが、まだ夏の格好で、私もノースリーブにミニスカというスタイルだけど、上には秋物のジャケットを羽織り、念の為、膝掛けも持ってきた。冷房の効きすぎた電車の中では、それでも寒くて。そういえば、このあいだ、なみちゃんに言われたっけ。「体脂肪が少
2019年7月11日 21:03
「あのままじゃ、死んじゃうよー」忘れたジャケットを取りに、サークル室の戸に手をかけた瞬間、そんな言葉が、耳に飛び込んできた。聞き覚えのある声。私の天敵の子だ。ギクッとして、戸から手を離し、耳を澄ませると・・・「やせすぎ」とか「病院」とか「拒食症」とか、断片的に聞こえてくる。どうやら、私のことを、あの子と部長さんが話してるみたい。その場に、入っていく度胸はさすがになかった。
2019年7月15日 09:54
「先生! 大丈夫? 起きて!」遠くのほうから、聞こえる声。重たいまぶたをあけて、その声のほうに目を向けると、彩華ちゃんの顔が、ぼんやり見えた。あれ、どうしちゃったんだろ。そっか、家庭教師に来てたんだ。それで、小テストをして、答え合わせをするまでのあいだ、「先生、徹夜明けだって言ってたよね。少し横になって、仮眠したら?」と、彩華ちゃんに言われ・・・10分ぐらい、寝ようと思
2019年7月17日 08:15
そうだ、以前、伯母についた嘘で逃げることにしよう。信用してもらえるように、頭の中で文章を組み立て、心療内科のカウンセリングにかかってることや、もう少し食べて、体重を増やしたほうがいいこと、それでも、栄養剤などで最低限の体力は維持できてるので、今の体型でもなんとかやっていけてること、などを説明した。体重についても、彩華ちゃんのおばあちゃんの身長を聞いた上で、「これでも、30キロは
2019年7月21日 08:58
彩華ちゃんの涙に負けて、いやいや、口にしたワッフル。おいしい!ワッフルって、こんなにおいしかったっけ?それに・・・なんだか、懐かしい。久しぶりに、こういうもの、食べたからかな。なんていうか、全身がふわふわと甘ーい空気に包まれたようで、子供時代に戻ったみたいな、不思議な気分。大げさじゃなく、夢の中にいるのかも。「先生、おいしい?」「うん、おいしいよー。こんなおいしいワッフ
2019年7月22日 08:40
思わず、商品の入ったショウウインドウを覗き込むと、「いらっしゃいませ!」店員の女性の、大声がして、我に返った。私ってば、何やってるの?あさっての朝に、あのワッフルを食べるまで、絶食するって、決めたのに。こんな誘惑に、負けてる場合じゃないのに。店員の女性に向けて、首を何度も横に振り、あわててそこから逃げ出す。変な客だって思われただろうけど、構わない。あのまま、あそこにいて、バニラ
2019年7月25日 20:14
ワッフルの一件は、まるで地震だった。食事をコントロールして、やせていくことで得た自信は、ズタズタに崩れ、心の中は、瓦礫の山。しかも、一週間近くたった今も、余震が続いている。四六時中、食べ物のことが頭から離れず、突然、お菓子やアイスが欲しくなる。太りそうな食べ物は、一生食べないって決めたのに。でも、お菓子やアイスはなんとか我慢できた。問題は、ふだんの食事。カロリー計算に合わせて
2019年7月27日 08:13
早速、自分のこと、いろいろ書いたら、今度はすぐにレスが来て、「すごーい、今の私より、やせてるんじゃない?食べてる量も、少ないし。意志が強いんだなぁ。なんか、うらやましくなっちゃった。でも、それだけ一気に体重落とすと、いろいろつらいでしょ」「意志が強い」と言われたのが誇らしくて、と同時に、「つらいでしょ」という気遣いが、涙が出そうになるほど嬉しくて。この人なら、私のこと、わかってく
2019年7月29日 11:13
目が覚めたら、パソコンの電源が入れっぱなしになっていた。そうか、私、消さずに寝ちゃったんだ。大学、行かなきゃ。でも、時計を見ると、午後三時を回ってる。今から行っても、意味ないや。・・・不思議なことに、ショックより、ホッとした思いが強い。大学に行くのは、往復するだけでもしんどいから。とりあえず、パソコンをいじりかけ、あわててストップ。あの書き込みは、しばらく見たくない。スレ
2019年7月31日 06:36
「わぁー、おいしそう」社交辞令まじりに声をあげながら、具を確認すると、たしかに低カロリーっぽい。きのこや野菜が中心で、肉も卵も入ってなくて。これなら少しは食べられるかな・・・その安心は、ひとくち食べた瞬間、感激に変わった。「おいしい!」思わず口にした言葉に、自分でもびっくり。お米系の料理で、こんなにおいしく感じたのって、いつ以来だろ。「ホント? よかったぁ。きっと、お腹すい