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何処までもやせたくて

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2019年7月の記事一覧

何処までもやせたくて(37)ガリガリな脳

「何、やってんだ!
今、俺が出したの、万札だろ?
釣りがこんだけって、ぼったくりバーかよ?」

お客さんの怒号。
わけがわからなくなり、どこで間違えたのか、必死に考えるけど・・・

そこに、追い打ちをかけるように、
「だいたい、あんた、そんな体でよく食べ物屋で働けるね。
正直、こっちは見てるだけで、食欲無くすんだよ。
ファミレスにいるより、病院で寝てたほうがいいんじゃね?」

その言葉で、ますます

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何処までもやせたくて(38)なみちゃんの受難

待ち合わせ場所に行くと、なみちゃんはもう着いていて、文庫本を読んでいた。

まだ15分前なのに。
相変らず、律儀だなぁ。
でも、表情とか、態度とか、やっぱり元気がない。

それは、店を選ぶときにも感じられた。

何も食べたくない私が、
「お昼どきだけど、お腹すいてないんだー。
ここなら、お茶だけでもいいし、軽い食事もできるから」
と、カフェに誘ったら、
「いいよ。私も最近、食欲なくってさぁ」

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何処までもやせたくて(39)寒すぎる九月

約二ヶ月ぶりのキャンパスは、秋の空気。
あり得ないレベルだという今年の残暑も、
寒がりになった私には、十分すぎるほど涼しい。

まわりの子たちはほとんどが、まだ夏の格好で、
私もノースリーブにミニスカというスタイルだけど、
上には秋物のジャケットを羽織り、念の為、膝掛けも持ってきた。
冷房の効きすぎた電車の中では、それでも寒くて。

そういえば、このあいだ、なみちゃんに言われたっけ。
「体脂肪が少

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何処までもやせたくて(40)勝ち組?負け組?

「あのままじゃ、死んじゃうよー」

忘れたジャケットを取りに、サークル室の戸に手をかけた瞬間、
そんな言葉が、耳に飛び込んできた。
聞き覚えのある声。
私の天敵の子だ。

ギクッとして、戸から手を離し、耳を澄ませると・・・
「やせすぎ」とか「病院」とか「拒食症」とか、断片的に聞こえてくる。
どうやら、私のことを、あの子と部長さんが話してるみたい。

その場に、入っていく度胸はさすがになかった。

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何処までもやせたくて(41)彩華ちゃんの涙

「先生! 大丈夫? 起きて!」

遠くのほうから、聞こえる声。
重たいまぶたをあけて、その声のほうに目を向けると、
彩華ちゃんの顔が、ぼんやり見えた。

あれ、どうしちゃったんだろ。
そっか、家庭教師に来てたんだ。

それで、小テストをして、答え合わせをするまでのあいだ、
「先生、徹夜明けだって言ってたよね。
少し横になって、仮眠したら?」
と、彩華ちゃんに言われ・・・

10分ぐらい、寝ようと思

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何処までもやせたくて(42)続・彩華ちゃんの涙

そうだ、以前、伯母についた嘘で逃げることにしよう。

信用してもらえるように、頭の中で文章を組み立て、
心療内科のカウンセリングにかかってることや、
もう少し食べて、体重を増やしたほうがいいこと、
それでも、栄養剤などで最低限の体力は維持できてるので、
今の体型でもなんとかやっていけてること、
などを説明した。

体重についても、彩華ちゃんのおばあちゃんの身長を聞いた上で、
「これでも、30キロは

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何処までもやせたくて(43)食欲と絶交するために

彩華ちゃんの涙に負けて、いやいや、口にしたワッフル。

おいしい!
ワッフルって、こんなにおいしかったっけ?

それに・・・
なんだか、懐かしい。
久しぶりに、こういうもの、食べたからかな。
なんていうか、全身がふわふわと甘ーい空気に包まれたようで、
子供時代に戻ったみたいな、不思議な気分。
大げさじゃなく、夢の中にいるのかも。

「先生、おいしい?」
「うん、おいしいよー。
こんなおいしいワッフ

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何処までもやせたくて(44)続・食欲と絶交するために

思わず、商品の入ったショウウインドウを覗き込むと、
「いらっしゃいませ!」
店員の女性の、大声がして、我に返った。

私ってば、何やってるの?
あさっての朝に、あのワッフルを食べるまで、絶食するって、決めたのに。
こんな誘惑に、負けてる場合じゃないのに。

店員の女性に向けて、首を何度も横に振り、あわててそこから逃げ出す。
変な客だって思われただろうけど、構わない。
あのまま、あそこにいて、バニラ

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何処までもやせたくて(45)ネットの友達

ワッフルの一件は、まるで地震だった。

食事をコントロールして、やせていくことで得た自信は、ズタズタに崩れ、
心の中は、瓦礫の山。
しかも、一週間近くたった今も、余震が続いている。

四六時中、食べ物のことが頭から離れず、突然、お菓子やアイスが欲しくなる。
太りそうな食べ物は、一生食べないって決めたのに。
でも、お菓子やアイスはなんとか我慢できた。

問題は、ふだんの食事。
カロリー計算に合わせて

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何処までもやせたくて(46)続・ネットの友達

早速、自分のこと、いろいろ書いたら、今度はすぐにレスが来て、
「すごーい、今の私より、やせてるんじゃない?
食べてる量も、少ないし。
意志が強いんだなぁ。
なんか、うらやましくなっちゃった。
でも、それだけ一気に体重落とすと、いろいろつらいでしょ」

「意志が強い」と言われたのが誇らしくて、と同時に、
「つらいでしょ」という気遣いが、涙が出そうになるほど嬉しくて。
この人なら、私のこと、わかってく

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何処までもやせたくて(47)優しいなみちゃん

目が覚めたら、パソコンの電源が入れっぱなしになっていた。

そうか、私、消さずに寝ちゃったんだ。
大学、行かなきゃ。

でも、時計を見ると、午後三時を回ってる。
今から行っても、意味ないや。

・・・不思議なことに、ショックより、ホッとした思いが強い。
大学に行くのは、往復するだけでもしんどいから。

とりあえず、パソコンをいじりかけ、あわててストップ。
あの書き込みは、しばらく見たくない。
スレ

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何処までもやせたくて(48)なみちゃんの怒り

「わぁー、おいしそう」

社交辞令まじりに声をあげながら、具を確認すると、たしかに低カロリーっぽい。
きのこや野菜が中心で、肉も卵も入ってなくて。
これなら少しは食べられるかな・・・

その安心は、ひとくち食べた瞬間、感激に変わった。
「おいしい!」
思わず口にした言葉に、自分でもびっくり。
お米系の料理で、こんなにおいしく感じたのって、いつ以来だろ。

「ホント? よかったぁ。
きっと、お腹すい

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