何処までもやせたくて(45)ネットの友達


ワッフルの一件は、まるで地震だった。

食事をコントロールして、やせていくことで得た自信は、ズタズタに崩れ、
心の中は、瓦礫の山。
しかも、一週間近くたった今も、余震が続いている。

四六時中、食べ物のことが頭から離れず、突然、お菓子やアイスが欲しくなる。
太りそうな食べ物は、一生食べないって決めたのに。
でも、お菓子やアイスはなんとか我慢できた。

問題は、ふだんの食事。
カロリー計算に合わせて、決めた分だけ食べる、ってことができない。
二ヶ月前から、主食のかわりにしている豆腐も、
一丁まるごと食べてしまう。
以前は、一食につき四分の一丁ずつって決めたら、その通りできたのに。

カリウム補給の目的で、一日150ccずつ飲んでた野菜ジュースも、
気がついたら、二倍、三倍と飲んでしまってる有様で。
カロリーや糖分まで、摂り過ぎるようになってしまった。

さっき測った体重は、29.7キロ。
ここ三日で、2キロ近くも増えてる。

このペースだと、一ヵ月後には、50キロだ。
そんなの、堪えられない。
30キロ台になるのも怖くて、絶対、許せないのに。

とにかく、ズタズタになったダイエット生活を立て直さなきゃ。

でも、今日は、彩華ちゃんの家庭教師に行く日。
どうしよう、また、何か食べさせられる。
もう、地震はこりごりだよ。

やむを得ず、昨日から考えていた計画を実行に移した。

「もしもし。あ、そうです、私です。
じつは、大学の関係でどうしても外せない用事ができてしまって・・・
申し訳ないんですが、今週の授業、明日かあさってに変更できませんか?」

彩華ちゃんのお母さんは、そばにいたらしい彩華ちゃんと少し話したあと、
「じゃぁ、あさってでいいかしら。
えっ。そんな、気になさらないで。
先生にだって、ご都合があるでしょうし。
今回が初めてでしょ、先生からの変更なんて。
以前、うちの都合で変更していただいたこともあったし、
どうか、気になさらないでね」

ホッとした反面、ものすごい罪悪感。
どうしよう、また嘘をついちゃった。
こうなった以上、あさってまでに納得できる体重にして、いい授業をしないと。
そのためには、今日はもう、何も口にしちゃいけない。

そうだ、パソコンを開いてみよう。
気を紛らわすためもあるけど、
過食を防ぐ方法が、何かわかるかもしれない。

「ダイエット」「過食」「30キロ」・・・いくつかの単語で検索するうち、
三十分ほどして、気になるサイトが見つかった。

「過食に負けない、モデル体重からのダイエット」
と、題されたそのスレッドの主は、大学三年生。
驚くことに、30キロ台以下の体重を、二年以上維持しているらしい。
身長は156センチだから、私より低いけど、それを差し引いてもすごいことだ。

書き込みのなかには「きもい」「死んじゃうよ」「頭、おかしいんじゃない」なんて、
心ないものも少なくなかったけど、過食に負けてないというだけでも、尊敬に値する。
しかも、ダイエットやカロリーの知識がハンパない感じだし。
思い切って、話しかけてみることにする。

「はじめまして。ダイエット中の大学一年です。
最近、過食衝動がすごくて。
二年もキープ、なんて、すごすぎます。
体調、大丈夫なんですか。
このスレッド見て、これからいろいろ勉強するつもりですが、
お話もできると、嬉しいです」

しばらく、他のサイトをのぞいて、戻ってくると、こんなレスが。

「ありがとう。
私も、お話したいなぁ。
差し支えなければ、今の身長体重とか、どれくらいの期間で何キロやせたとか、
最近の食事内容とか、教えてもらえると、話がしやすいです」


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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