何処までもやせたくて(42)続・彩華ちゃんの涙


そうだ、以前、伯母についた嘘で逃げることにしよう。

信用してもらえるように、頭の中で文章を組み立て、
心療内科のカウンセリングにかかってることや、
もう少し食べて、体重を増やしたほうがいいこと、
それでも、栄養剤などで最低限の体力は維持できてるので、
今の体型でもなんとかやっていけてること、
などを説明した。

体重についても、彩華ちゃんのおばあちゃんの身長を聞いた上で、
「これでも、30キロはあるんだよー。
おばあちゃんとは、10センチ以上も身長が違うから、同じくらいに思えたのかな。
いくらなんでも、20キロ台はありえないでしょ」
サバを読むことも、忘れずに。

「ホント、かなぁ・・・信じてもいいんだ・・・よね?」

まだ納得しきれてはいない彩華ちゃんを振り切るために、
「うん、大丈夫だから。
それよりも、さっきの答え合わせ、しようよ。
彩華ちゃんこそ、受験に向けて、これから大事な時期なんだしさ」

先生の顔をして、話題を変えた。

「そうそう、彩華ちゃんさえよければ、30分か1時間ぐらい、延長しよっか。
私のせいで、今日は全然、勉強できてないもんね」
「うん、それは別にいいんだけど・・・」

まだ、何か言いたげな雰囲気。

「どうしたの?」
「延長するかわり、先生、あれ、食べて!」

視線の先には、休憩時間のために用意されたお菓子。
最初のうちは、ショートケーキとかだったけど、私が基本的に食べようとせず、家に持ち帰るので、
最近は、日持ちのするクッキーとか、そういうものが多くなってる。
今日は、袋に入ったワッフルだ。

「先生、いつも、家で食べるから、って言って持ち帰るけど、本当に食べてる?」
「・・・・・・」

痛いとこを、突かれた。
でも、帰る途中で捨ててる、なんて、口が裂けても言えないし。

「あのさ、先生、さっき、お医者さんに、
もっと食べて体重増やさなきゃダメ、って注意されたって言ってたよね。
なのに、どうして、食べないの?
私が前に、勉強なんてしたくない、って言ったら、
生きていくために必要なことなんだから、今は我慢して、やったほうがいい、って言ってたじゃない。
食べることって、勉強以上に、生きていくために必要なことでしょ。
なのに、どうして・・・」

彩華ちゃんのお説教、少し鬱陶しいな。

でも、それよりも、頭の中は他のことでいっぱい。
これって、200キロカロリーはあるよね。
こんな遅い時間に食べたら、絶対太るよね。
それでなくても、自己ベストから今、1キロ近く増えてて、
その分、おなかがぽっこリしてるのが、イヤで仕方ないのに。

うん、やっぱり、持ち帰ることにしよう。

と、思って、彩華ちゃんの顔を見ると、
また、目から、大粒の涙が。

どうしよう。

・・・どうやら、この場を乗り切るには、食べるしかないみたい。
食べたくないけど、お腹も全然すいてないけど。
これ以上、彩華ちゃんを悲しませないために。

そのかわり、明日は絶食。
いや、自己ベストに戻せるまで、もう、何も食べない。
そうだ、これを食べた罰だと思って、その分、また、ダイエットを頑張ればいいんだ。

「うん、わかった。
食べるから、もう、泣かないでね」

清水の舞台から飛び降りるような気分で、
ワッフルを手に取り、ビニールを破る。

こんなに甘そうで、カロリーの高いもの、いつ以来だろう。
もしかしたら、かなりおいしかったりするのかな。

でも、食欲に負けたんじゃない。
彩華ちゃんの涙に負けただけ。
自分に必死に言い聞かせながら・・・


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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