何処までもやせたくて(46)続・ネットの友達


早速、自分のこと、いろいろ書いたら、今度はすぐにレスが来て、
「すごーい、今の私より、やせてるんじゃない?
食べてる量も、少ないし。
意志が強いんだなぁ。
なんか、うらやましくなっちゃった。
でも、それだけ一気に体重落とすと、いろいろつらいでしょ」

「意志が強い」と言われたのが誇らしくて、と同時に、
「つらいでしょ」という気遣いが、涙が出そうになるほど嬉しくて。
この人なら、私のこと、わかってくれる。
悩みにも、しっかり答えてくれるはず。

「はい、正直いうと、少しつらいです。
いろいろ質問したいんですが、聞いてもらえますか」
「もちろん、いいよー。
私なんかで、よければ。
ただ、これからちょっと出かけるんで、返事はそれからでいいかな」

彼女は2、3時間ほど、留守にするという。
よし、そのあいだ、頭の中を整理して、最近のつらいことをメモしてみよう。

寒くてなかなか眠れないこと、寝てるときに足が吊ること、
背中にヘンな毛が生えてきたこと、ちょっとぶつけても痣になること、
嘘ばかりついちゃうこと、食べ物のことが頭から離れず、勉強が手につかないこと、
たまに心臓が痛くなること・・・

他にもいっぱい出てきて、簡単に10コを超えてしまった。

「こういうつらいことがなくなれば、もっともっとやせられるのになぁ」

そんな本音もまじえ、彼女のスレッドに書き込むと・・・

彼女は、すべての悩みに丁寧かつ的確な答をくれた。

それらは全部、急激なダイエットが原因らしい。
ってことは、ダイエットをやめない限り、このつらさからは解放されないのか・・・

「とりあえず、これ以上は体重落とさないほうがいいよ。
普通の人から見れば、うちらって十分やせてるんだから。
そのうち、つらい状態にも慣れてくるしさ。
もし、倒れて入院ってことにでもなったら、あり得ないほど太らされるんだよ。
それよりは、今の体型、キープできたほうがいいでしょ」

これ以上やせないほうがいい、って言葉は、耳にタコができるくらい聞かされてきたのに、
なぜか腹が立たず、むしろホッとした。
彼女は、こうも言ってくれたから。

「うちらって、なんか、似てるね。
理想の体型になるために、つらくても頑張ろうとしてるところとか。
誰に何と言われようと、やせていたいんだよね。
これからも、いっぱい話したいなぁ。
また、来てくれる?」

私だって、同じ気持ち。
いや、それ以上に、出会いに感謝したい気分。
2コ上のお姉さんみたいな友達が、できた。
なみちゃんも、1コ上のお姉さんみたいな友達だけど、
なみちゃんに言えないようなことが、この人には言える。
何よりも、私がなりたい自分、を認めてくれてる。

「もちろん、来ます。
これからも、いろいろ教えてください」

パソコンを閉じてからも、安らかな気持ちが続いて、
その夜は、過食衝動も起きなかった。

翌朝、体重を計ると、28.6キロ。
よかった、減ってる。
早速、彼女に報告しなきゃ。

・・・あれ?
私と彼女のやりとりで終わってたはずのスレッドに、誰かの長い書き込みが。

「バッカじゃない、この二人。
20キロ台の体重、ホメ合って、それを維持する方法、教え合って。
それって、一緒に死のうね、って言ってるようなもんじゃない。
だったら、死ねば? って感じだよね。
まぁ、バカが二人死んだところで、私は困んないけど。

でも・・・
荒らしだと思われたくないので、マジメに言います。
あなたたちは、自分の将来について考えてますか。
そこまでやせた体で、何十年も幸せに生きていけると思ってますか。
社会、とまでは言わないけど、誰かの役に立てると思いますか。

たしかに、自分の人生、どう生きようと自由かもしれません。
ただ、おそらく長くはないだろうあなたたちの人生が終わったとき、
悲しむ人たちが、確実にいます。
親や兄弟、友達・・・
なかでも、親が取り残されたときの悲しみを想像したことがありますか。

私は、大事な友人を拒食症で亡くしました。
ショックのあまり、後を追いたくなりました。
友達でもこんなに悲しいのに、これが自分の子供だったら、と、
彼女のご両親の気持ちを考えたら、いたたまれませんでした。

それでも、二人で自殺したいなら、勝手にしてください。
そのかわり、一瞬でもいいから、自分の親の気持ちを考えてからにしてください。
お願いします」

さっきまでの安らかな気持ちはどこかへ行ってしまい、
また、こみあげてくる不安。
抑えても抑えても、どんどんこみあげてくる。

どうしよう、親のことなんて、一番考えたくないのに。
そのまま、不安に呑み込まれ、心も体も動かなくなった。
地震のあと、大きな津波に襲われたみたいに。

だからかな、息が苦しい。
ちょっと横になろう・・・


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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