何処までもやせたくて(48)なみちゃんの怒り


「わぁー、おいしそう」

社交辞令まじりに声をあげながら、具を確認すると、たしかに低カロリーっぽい。
きのこや野菜が中心で、肉も卵も入ってなくて。
これなら少しは食べられるかな・・・

その安心は、ひとくち食べた瞬間、感激に変わった。
「おいしい!」
思わず口にした言葉に、自分でもびっくり。
お米系の料理で、こんなにおいしく感じたのって、いつ以来だろ。

「ホント? よかったぁ。
きっと、お腹すいてたんだね。
空腹は最大の調味料っていうし。
あとさ、泣いたあとに食べるごはんって、めちゃくちゃおいしかったりもするよね」

そういえば、この快感、子供の頃に母親に叱られたあと、
涙と一緒にかきこんだ五目ごはんの味に似てるかも。
それに、昨日のお昼以来、固形物を食べてないことも事実だし。
でも、そういう条件を差し引いても、この上品なうす味はかなりのレベルじゃないかな。

「なみちゃんって、料理も上手なんだ。
私が男だったら、絶対、お嫁さんにしたいタイプだな」

これは社交辞令でも何でもなく、心からの本音。
可愛くて、優しくて、頭もよくて、それに何より、生まれつき華奢な体型で。
私みたいにダイエットしなくてもいいところとか・・・ホント、うらやましい。

結局、恥ずかしいほどのスピードで、自分の分を食べ終わってしまった。

「おかわり、あるよ。
よかったら、食べて」
「うん、せっかくだから、もうちょっといただこうかな」

毒を食らわば、の気分で、思わずそう口にしたあと・・・

あれ? なみちゃんの分がほとんど減ってない。

「どうしたの?
全然食べてないじゃない」
「えっ。・・・うん、相変らず、食欲なくってさ。
無理して食べても、気持ち悪くなって戻しちゃったりするから、
あんまり食べられなくて・・・」

そっか、それでますますやせたんだ。
それにしても、食べたあとに戻すなんて、ちょっと病気っぽくない?
私、これまでに何度も吐こうと努力したけど、苦しくてできないもの。
大丈夫なのかな・・・

「お医者さんに診てもらったりしないの?」
「あ、診てもらったよ。
そしたら、内臓とかにはまったく問題がなくて、
精神的なものから来てるんじゃないか、って」
「もしかして、電車でのことが影響してる、ってこと?」

「うん、最近、何かショックを受けることがなかったか、って聞かれたから、
詳しくは言えないけど、思い当たるふしはあります、って答えといた。
・・・まぁ、だからさ、そろそろ立ち直れるはずなんだよ。
電車に乗る駅と路線を変えたら、例の人にも会わなくなったし、
とにかく、35キロは切らないようにしないと」

ってことは、今、それぐらいの体重なんだ。
一時は私と、10キロ以上違ってたのに、もう、5~6キロしか差がないなんて。

「だったら、頑張って食べなよ!」

自分でも驚くほど、強い口調。

なみちゃんもその勢いに圧されたのか、
「えっ・・・うん、そうだね・・・雑炊が駄目なようじゃ、どうしようもないし。
よしっ、一気に平らげてやるか」
わざと乱暴な口調で、自分を鼓舞するようにして、スプーンを雑炊に突っ込んだ。

よかった、食べてくれるんだ。
なみちゃんの最近の状態、可哀そうだけど、自分だけ食べないなんてずるい。
私と違って、やせたいわけじゃないんだしさ。

食べ終わるのを見届け、
「じゃあ、残りも半分ずつ分けようよ!!」
何も言わず、うなずくなみちゃん。

十数分後、目の前に、空のお椀が二つ並んだ。
私の食欲はまだ満ち足りてはいないけど、
最終的に、同じ量を食べた形になったことには、満足。

「おいしかったぁ、ありがとね。
なんか、すっごく元気になれた気がするよ」
「こっちこそ、背中押してくれて、感謝してる。
一歩前に進めた感じだよ」

でも・・・
その直後、なみちゃんは顔をゆがませ、
「ゴメン、ちょっと失礼するね」

まさか・・・


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