何処までもやせたくて(41)彩華ちゃんの涙


「先生! 大丈夫? 起きて!」

遠くのほうから、聞こえる声。
重たいまぶたをあけて、その声のほうに目を向けると、
彩華ちゃんの顔が、ぼんやり見えた。

あれ、どうしちゃったんだろ。
そっか、家庭教師に来てたんだ。

それで、小テストをして、答え合わせをするまでのあいだ、
「先生、徹夜明けだって言ってたよね。
少し横になって、仮眠したら?」
と、彩華ちゃんに言われ・・・

10分ぐらい、寝ようと思ったんだっけ。

でも・・・
時計を見ると、もう、授業の終了時刻。
ってことは、1時間以上も寝てたってわけ?

「ごめんね。でも、起こしてくれてよかったんだよ」
「うん、あのね、声はかけたんだ。
でも、先生、ぐっすり眠ってて。
すごく疲れてるみたいだから、あと10分、そっとしておこうと思ったのね。
で、また声をかけたんだけど、やっぱり起きなくて。
それでさ、肩を・・・」

突然、口ごもる彩華ちゃん。
何か言おうとしてるのに、言葉が出てこないみたいで、
かわりに、目から涙が溢れ出した。

「肩をゆすってみたんだけど・・・」

荒い息をして、何度もしゃくりあげながら、懸命に何か言おうとしてる。
どうしたんだろ。
私、何か、ひどいことしちゃったのかな。

「落ち着いて、話してみて」
私がそう言うと、少し動揺がおさまった。

「うん、ちゃんと言うね。
先生の肩をゆすって起こそうとしたんだけど、あまりにも細くて、薄くて。
こんなの、あり得ないと思って。
でね、おばあちゃんのこと、思い出したんだ。
去年の夏に、ガンで死んじゃったおばあちゃん。
最後はガリガリにやせて、体重も20キロ台に落ちちゃって。
肩とか触ると、骨しかなくて。
でも・・・
先生の肩、おばあちゃん以上だもの。
このままじゃ、死んじゃうんじゃないか、って、そう思い始めたら、涙が止まらなくなって・・・」

また涙が溢れ出し、激しく嗚咽しながら、
「もう、起こすどころじゃなくなって、さっきまでずっと泣いてて」

たしかに、彩華ちゃんの目、ちょっと腫れぼったくなってる。

「大丈夫だよ、私、全然元気だから。
安心して!」

つとめて明るく言ったのに、それをさえぎるように、
「全然元気、には見えないよ!
先生、少し前に体重聞いたら、30キロ台って言ってたよね。
あれ、嘘でしょ。
20キロ台までやせたおばあちゃんよりやせてるのに、
そんなに体重あるはずない!
先生、もしかしたら、拒食症なの?
拒食症って、死んじゃう病気なんでしょ。
私、先生のこと、大好きだから。
もし、そんなことになったら・・・」

途中から、彩華ちゃんの目がまともに見られなくなった。

人一倍、のんびりした明るいキャラなのに、この世の終わりが来たみたいな深刻な顔で、
嘘を責めるような、それでいて、心から思ってくれてるのがわかる顔で、
私をじっと見てるから。

どうしよう。
私が元気なこと、彩華ちゃん、どうしたら、わかってくれるの?


#小説 #痩せ姫 #拒食 #ダイエット



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