伊崎 武正

日本在住。エッセイやリライト、翻訳、日記などをupしていく予定なのでよかったら読んでく…

伊崎 武正

日本在住。エッセイやリライト、翻訳、日記などをupしていく予定なのでよかったら読んでください。

最近の記事

『時間を哲学する』

「過去はどこへ行ったのか」 過去とは知覚できる物理的事象などではなく、現在において語られることによって初めてその姿が立ち現れる意味的事象である。 「昨日は暑かった」と「いま」我々が語るとき、その「昨日」も「暑かった」という現象もどこにもない。想起しているし、温度計を映した証拠の動画もあるし、と反論するかもしれないが、それは「いま」我々が語っているだけなのである。 時間を空間上に並列させられた線のように捉えるのは誤りだ。過去は今我々が語ることによって現出するだけであり、過去その

    • 映画「恋愛小説家」As good as it gets

       マンハッタンに暮らす恋愛小説家メルビンは売れっ子だが偏屈で、暴言を吐き散らかすので周囲からは良く思われていない。そんな彼はカフェのウエイトレス、キャロルに恋をしている。なんとか距離を縮めたいが口が悪いのが災いして関係は進展していかない。ある日彼と同じマンションに住むゲイの画家が強盗に襲われて心身ともにボロボロになったうえ一文無しになってしまう。絶縁状態の彼の両親に一緒に金を無心しに行くことになってしまったメルビンはキャロルを誘って3人で旅に出る。 メルビンが執筆活動をして

      • 言葉摂取の近況報告

        良質な言葉たちと接触することは健康に良い食事を摂るのと同じだとはよく言われることだが、それをわかってはいてもジャンクフードに手が伸びてしまうのは怠け者のさがだろう。かくいう私もその一人だ。 もう中年なのでTikTokこそ見ないものの、Twitterやその他のSNSでの発信、某掲示板での書き込み、Youtubeの素人配信などジャンキーな「摂取」ばかりしてしまう。 もちろんプロの発信でなければ価値はないなどと狭量なことを言うつもりはない。親近感の湧くような「近所の女の子」的視点は

        • 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』に見る距離感の適切さあるいはメタファーとしての料理たち

          主人公の男性社員二谷は、芦川という先輩社員となんとなく交際していた。彼女のか弱さや可愛らしさに惹かれてはいたが、手料理や手作りの菓子を振る舞ったりするわりには頭痛や花粉症などですぐに早退してしまう様子をやや冷めた視線で見ることもあった。芦川の後輩である女性社員押尾はそんな彼女に誰よりも苛立ちと嫌悪を感じている。押尾は芦川と正反対のタイプの、いわゆる「デキる女」だ。ある日二谷と二人で飲みにいった押尾は、いっしょに芦川に「いじわる」をしないかともちかける−−−−−。 社内の日常

        『時間を哲学する』

          深遠なことを言おうとしたら、「おさゆき」みたいになってしまいました。

           眼科の検査はいつも口頭でどう見えるか答えるので非効率的だし不確かだなあと思っていた。だが、どう見えているかは本人にしかわからないからそうするしかないのだと気づいた。本人の脳波を計測しても「どう」見えているかは本人が口頭で答える以上に正確には言語化できないだろう。本人の頭の中に潜入してどう見えているかを第三者が見る、などということはできないのだから。もちろん、眼科医が診て光に反応しているかどうかで視力があるかどうかくらいは判定できると思う。しかし何が、どう見えているか、何色に

          深遠なことを言おうとしたら、「おさゆき」みたいになってしまいました。

          映画「コンタクト」感想

          (完全ネタバレ) 科学者のエリー・アロウェイは地球外生命体との接触を夢見てアレシボ天文台で研究を重ねていた。しかしプロジェクトに将来性を感じないという天文学者らによって研究予算を打ち切られてしまう。窮地に立たされたエリーだが、富豪スポンサーの援助のもとでニューメキシコに超大型干渉電波望遠鏡群を設立することができた。宇宙からの電波信号を待機する日々だったが、ある日ヴェガ星からメッセージを受信する……。 人間にとって未知なる存在というのは究極的には自分以外の他者である。 決して

          映画「コンタクト」感想

          古典の価値は「情報」にあるのではない

           以前、下記のようなツイートをした。 ”古典を解説した佐藤優の本に純理があったのはいいが、良さがあまり紹介されていない気が。歴史的な位置付けとか、アインシュタインの相対性理論によってその空間/時間論が崩れたとかそれはどちらかというとどうでもいい。立花隆との対談を想起しているのかな。橘玲の悪本を私は思い出した” ↑確か立花隆との対談本で、立花はカントを全く評価していないというようなことを言っていた気がする。後の時代にアインシュタインの相対性理論によって、非ユークリッド幾何学

          古典の価値は「情報」にあるのではない

          Pride and Prejudice精読9

          “But you forget, mamma,” said Elizabeth, “that we shall meet him at the assemblies, and that Mrs. Long promised to introduce him.” “I do not believe Mrs. Long will do any such thing. She has two nieces of her own. She is a selfish, hypocrit

          Pride and Prejudice精読9

          Pride and Prejudice精読8

          Chapter 2 M r. Bennet was among the earliest of those who waited on Mr. Bingley. He had always intended to visit him, though to the last always assuring his wife that he should not go; and till the evening after the visit was paid she had

          Pride and Prejudice精読8

          Pride and Prejudice 精読7

          “You mistake me, my dear. I have a high respect for your nerves. They are my old friends. I have heard you mention them with consideration these last twenty years at least.” Mr. Bennet was so odd a mixture of quick parts, sarcastic humour,

          Pride and Prejudice 精読7

          Pride and Prejudice精読6

          “You are over-scrupulous, surely. I dare say Mr. Bingley will be very glad to see you; and I will send a few lines by you to assure him of my hearty consent to his marrying whichever he chooses of the girls; though I must throw in a good wo

          Pride and Prejudice精読6

          Pride and Prejudice

          “My dear, you flatter me. I certainly have had my share of beauty, but I do not pretend to be anything extraordinary now. When a woman has five grown-up daughters, she ought to give over thinking of her own beauty.” “In such cases, a woman

          Pride and Prejudice

          Pride and Prejudice精読4

          “How so? How can it affect them?” “My dear Mr. Bennet,” replied his wife, “how can you be so tiresome! You must know that I am thinking of his marrying one of them.” “Is that his design in settling here?” “Design! Nonsense, how can

          Pride and Prejudice精読4

          Pride and Prejudice精読3

          “Why, my dear, you must know, Mrs. Long says that Netherfield is taken by a young man of large fortune from the north of England; that he came down on Monday in a chaise and four to see the place, and was so much delighted with it, that he

          Pride and Prejudice精読3

          遠藤周作『白い人』

          遠藤周作『白い人』を再読した。 第二次大戦中、自らの醜さを自覚した男と厳格にキリスト教を信仰する神学生が、宗教および思想に向き合う姿勢の違いから対立を深めていく。ドイツ占領下で後者はついにナチの拷問の場にまで追いつめられる。 人間の心底にぐつぐつとたぎる負の感情や、第二次大戦時のフランスを生々しく浮かび上がらせる描写は圧巻である。 白い肌、肉欲、醜さ、正義、これらの表象が作中何度も現れては消えまた現れる。灯火のように明滅するそれらと見え隠れする過去の記憶は、我々に原罪か

          遠藤周作『白い人』

          Pride and Prejudice精読2

          “My dear Mr. Bennet,” said his lady to him one day, “have you heard that Netherfield Park is let at last?” Mr. Bennet replied that he had not. “But it is,” returned she; “for Mrs. Long has just been here, and she told me all about it.” Mr.

          Pride and Prejudice精読2