遠藤周作『白い人』

遠藤周作『白い人』を再読した。

第二次大戦中、自らの醜さを自覚した男と厳格にキリスト教を信仰する神学生が、宗教および思想に向き合う姿勢の違いから対立を深めていく。ドイツ占領下で後者はついにナチの拷問の場にまで追いつめられる。

人間の心底にぐつぐつとたぎる負の感情や、第二次大戦時のフランスを生々しく浮かび上がらせる描写は圧巻である。

白い肌、肉欲、醜さ、正義、これらの表象が作中何度も現れては消えまた現れる。灯火のように明滅するそれらと見え隠れする過去の記憶は、我々に原罪から逃れることなどできないことを暗示しているかのようだ。主人公がもつ加虐の悦びは誰しもが多かれ少なかれもつものかもしれない。時代は1930〜40年代、場所はフランスとなってはいるが現代日本で読んでもふと思い当たる普遍性をもった震え上がるほどの怪作である。

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