見出し画像

何かに打ち込んで「色んな問題」から逃げたかった

「何かひとつのことに打ち込みたい。夢中になれるものがほしい」と強く思い続けてきた。

僕はそういう人生に憧れているのだと思っていたのだが、もしかしたら違うのかもしれない、とふと気づいた。

もしかして、じぶんはたんに

「複雑なことを考えたくない」

だけだったんじゃないだろうか。


画像3


夢中になれるものがある人の、人間関係を省みず没頭する姿をカッコいいと思っていた。部活に没頭しすぎてテストの成績がわるい主人公。男女関係にも興味がない。でもそんな真剣な姿に見惚れるヒロイン。そんな構図が「カッコいい」のだと、マンガやアニメからインストールしてきた。

何かに夢中になることはカッコいい。

そう信じると同時に、その裏側に

夢中になれるものがあれば、それ以外のことを考えなくていい(許される)。

という免罪符のようなものを見出していたのかもしれない。


歳をとるにつれ、考えなくちゃいけないことがどんどん増えていった。

ひとつのことに没頭する主人公像からどんどん離れていくのが不満だったし、現実的で多種多様な問題について考えるのがすごくめんどうだった。

そんな中、成功者といわれる人が語る「お金を沢山稼いで、問題はお金で解決しよう」という話は、どこか嫌悪感をいだきつつも、そのシンプルさに魅力も感じた。

お金の管理が苦手?だったら人にお金を払って代わりに整理してもらえばいい。

運動が苦手?だったらお金を払って個人トレーナーに指導してもらえばいい。

パートナーの関係性が良くない?だったらお金を払って、良質なカウンセリングを受ければいい。

お金があればたいていの問題は解決できる。だから細々とした問題に向き合う前に、まずはさっくりとお金を沢山稼いじゃおうよ!

「お金を稼ぐ」ことに夢中になればいいんだよ。ほら、それって君の憧れた、主人公みたいじゃない?

画像4

当時の僕は「たしかにそのとおりだ」と思った。たくさんお金を稼ぐために、たくさん仕事をしよう!  と考えた。

でも長い時間、はたらき続けるにはその仕事を好きじゃなきゃダメだ。

それじゃあまずは、好きなことを見つけなきゃ。

うーん……だめだ。そこまで好きになれそうな仕事が見つからない。いや、好きなだけでいいならいくつか候補はある。でも「たくさんお金が稼げて、かつ、好きになれる仕事」がなかなか見つからない。

いったん「たくさんお金を稼ぐ」という条件からは離れよう。お金があまり稼げなくてもいいから、まずは好きになれる仕事を見つけよう。好きなことさえみつかれば、夢中になれることさえみつかれば……

ほかに余計なことを考えなくていい。夢中になってやっていれば、いつかうまくいって、お金も入ってくるようになるだろう。みんな認めてくれるだろう。

カッコいい主人公たちは、みんなそうだったじゃないか。


僕が「夢中になれること」を見つけたかった本当の理由は、そういう生き方がカッコいいから、とかじゃなかった。

「考えること」から逃げたかったんだな。


2020年、いつも以上に人と会わず家の中で淡々とすごす日々のなかで、たぶんそんなことにぼんやりと気づいたんだと思う。


画像2


そして、ようやく僕は考えることにしたんだと思う。ひとつひとつ、ちゃんと向き合うことにしたんだと思う。


でも、いざ向き合うったって、考えなくちゃいけないことは膨大にある。

だったら毎日少しずつ向き合っていくしかない。1日3分だけでもいいからやってみよう。向き合ってみよう。

「毎日、すこしずつやる」昔から知っていたありふれたタスク管理だったが、効果は絶大だった。

もちろん、たった3分じゃなにも解決しない。メモ帳を開き「何から始めたらいいんだろう」と一文だけ書いて終わることもある。

でもそれで十分だった。

問題は解決しなくても、ほんの少し前に進んだという実感、向き合えたという達成感、そして不思議な開放感に満たされた。

しばらく使っていなかった筋肉に、血液が流れ込むような感覚だった。

痛む筋肉を避けて慎重に身体を動かすように、多くの問題を避けてきた。

当然、そのような動き方を続けていれば身体は歪む。問題を避け続ければ、人生も同じように歪んでいく。

痛みと向き合い、リハビリの一歩を踏み出す。神経に電気が流れる。血液が細胞に流れ込む。痛みとともに。

まずはそれだけで十分なのだ。

画像1

気づけば「毎日3分だけ」のつもりが、1時間以上も考え込んでしまうことさえあった。

そうやって少しずつ、しかし確実に問題がほどけていく日々のなかで、自分の世界が整っていくのを感じていた。

散らかった机は「もうこれだけ散らかっているのだから、少しくらい片付けをサボってもいいだろう」というメッセージを発している。だから出しっぱなしのモノが増えていく。

でも少しでも片付けをはじめたとたんに、散らかった机は「片付けかけの机」になる。「いまこの机はきれいになりかけているところだ」というメッセージに変わる。すると目についたものを何かひとつでも片付けたくなる。

一日は有限で、全てのことに手をつけられるわけじゃない。でもむしろそれがいいとさえ思える。「明日はどこを改善しようかな」と考えるのが楽しい。

相変わらず夢中になれるものはないが、今は問題をひとつずつ解決していくことが楽しい。

このまま、人生そのものに夢中になれたらいいなと思っている。


告知

倉園さんと執筆教室を開催しています。


おかげさまで2022年、10万部を突破いたしました


この記事が参加している募集

読みたい本がたくさんあります。