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夫と娘の板挟みのなかで思う。育てるって、その生き物が育つ過程を邪魔しないこと。

#20230930-244

2023年9月30日(土)
 「パパなんて、大ッ嫌い! なんでママはあんな怒りん坊のパパと結婚したわけ!」
 ノコ(娘小4)が2階でむーくん(夫)に何かいわれたらしい。階段を転げんばかりの勢いで駆け下りてきたかと思うと、乱暴に居間のドアを閉めて叫んだ。
 「宿題やれって、うるさすぎ!」

 むーくんはむしろ私の心の代弁者でもある。でも、その分、ノコの反感を買ってしまう。
 「いきなり強くいうのはヒドい!
 「パパだって、いきなり強くいうことはないと思うよ。朝から何回も何回もいっていたよ。ノコさんは返事しなかったから聞こえてなかったかもしれないけど」
 ギロリと鋭い目付きで私を睨む。
 「ママは結局パパの味方なんだね!」
 私は心のなかだけで深くため息をつく。
 「ママはどちらの味方でもありません」
 本当はノコの味方だと宣言すれば、ノコの気持ちは落ち着くのかもしれない。でも、口先だけの味方はすぐに裏切ったとののしられる。

 ノコとむーくんのあいだに立つのは正直苦手だ。
 どちらの言い分もよくわかるのならいいが、私はどうしても大人寄りになる。むーくんがノコに苛立たしくなる気持ちがよくわかる。
 2階にいるむーくんのもとへ向かう。
 洗濯物を干しているむーくんの隣に立ち、私も洗濯カゴに手を伸ばす。
 どう切り出そう。
 洗濯物をハンガーに干しながら、むーくんの様子をうかがう。
 「ノコさんになんでパパと結婚したのかっていわれちゃったよ」
 いいながら、苦笑いしてしまう。
 「あのさぁ、むーくんは何度も何度もいってるのはわかってるんだけど。ノコさんが返事しないときは、無視しているときもあるかもしれないけど、本当に聞こえてない場合もあると思うんだ」
 むーくんのなかにノコへの腹立たしさがくすぶっているのが伝わってくる。
 「ノコさんにとっては、いきなり強くいわれてるように感じちゃってるみたいなの。3回まではやさしくいってほしいんだって。だけど、3回いっていることもノコさんに気付くようにいわないと伝わらないの」
 黙々とむーくんは手を動かしている。
 「1回目です、2回目です、3回目だよ!って宣言しないと、気付かないみたい」
 むーくんが洗濯物を干す手を止めて、ちろりと私を見下ろした。
 「面倒くせぇ。なんでノコに合わせなきゃいけねぇんだ?
 うん、私もすっごくそう思う。
 でも、一度で動かないんだ。子どもは動かせる生き物じゃないんだ。
 長い目で見て、子どもにとってよかれと思うことでも、よいか悪いかは子どもが判断する。大人が判断することではない。
 別に懲りて学んでほしいわけではない。何が自分にとってよいか悪いか、どうしたらいいかは子ども自身が考えて選ぶことなのだと思う。

 この夏は久し振りに虫に関する活動、いわゆる「虫活」を再開した。なかでも幼虫――芋虫の飼育をする「芋活」だ。
 せっせ、せっせとむーくんとともに蛾の幼虫を連れ帰っては育んだ
 ノコが我が家に来てから芋活を休んでいたのは、ノコのお世話で手いっぱい、とても虫を飼育する余裕がなかったからだ。
 ノコが学校に登校した後、またはノコが寝た後の静かなひととき
 虫ケースの傍らに腹這いになり、なかを覗く。芋虫たちは黙々と黙々と葉をんでいる。そして、糞をする。脱皮の準備のためのみんに入り、じっと動かない個体もいる。だが、そうでない限り、食べては糞をし、食べては糞をし、食べては糞をする。
 すこやかに食べて、すこやかに排便する。
 人間はケースのなかの糞を片付け清潔を保ち、新しい食草を用意し、ただただ見守る。蛹になる段階になれば、蛹用のケースを用意し、そっと移す。

 育てるって、その生き物が育つ過程を邪魔しないこと。
 芋虫たちを見ていると、本来それでいいんじゃないかなって思えてくる。
 集団で社会を営む人間という生き物だから礼儀だの常識だの知識だのいろいろ身につけてほしくなり、ややこしくなるけど、まぁ、生きてりゃモッケモン(儲けもの)くらいでいいのだろうな。
 芋活は負担になるかと思いきや、癒し育てることの気付きをもたらした。
 芋虫、偉大なり。

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