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フランス留学で《父親になる苦しみ》を知った、明るい話

【photo】スペインの北部にある小さな村で撮影。おしゃれして、カゴバックをもってお出かけする女の子とパパ(と思われる)

私の過去

私がフランスから帰国したのは、大学3年の3月。(自己紹介参照)

1年しかいなかったけど、フランスで見た事や、体験した事は、あまりに衝撃的で、私の価値観を大きく変えていた。それはもう快感そのもの。

帰国して成田空港で母親を見た瞬間、日本に帰ってきてしまったと実感し、普段はぜったいに見せないを、彼女の上着にたくさん付けたなぁ(笑)

フランスに行って、自分の中で整理出来たことの1つに、「父親の存在」があります。私の家は1歳のときに親が離婚、その後は母と祖母と、親戚に見守られ大きくなりました。父は人生でCMの様にしか登場しなかったけど、旅行に行く時はいつも居たし、なんだかんだいい関係を保っていた。

写真も、スキーも、山登りも、変顔も父から教わった。

それでもやっぱり、「誰やねん」の感覚はあったんです。過ごす時間が短い分、父親がどういう存在なのか理解できず。ヒントが少ない謎解きみたいな。

でももっと辛かったのは、4歳まで父と一緒に暮らしていた姉だと思います。彼女は、父に期待したい気持ちと、期待しちゃいけない気持ちの間で葛藤にいつも振り回され、見ている私も苦しかった。

子供は親を頼りにしている。これは遺伝子レベルで刷り込まれていると思う。か弱い赤子として生まれ、常に目の前で自分の命を繋いでくれるのだから。でも、そんな親がいなかったり、1人しかいなかったりした時、私たちはそのどこか物足りない欠けた心で生きていくのか。虚無感と戦いながら。

お父さん”に”優しい国、フランスへ行って。

まず驚いたのは、お父さん1人でベビーカーを押す姿の多さ。あちらこちら。日本ではお母さんとか、女性が多かったなぁって。

場面変わり…フランスで働いてたレストランで、ある日予約が入ってた。台帳には3人の大人と「avec une poussette/ ベビーカー1台」と記載あり。ご家族かな、、と待っていたらお客さんは、男性3人と、ベビーカー。彼らは、お友達とのことで、今日のランチを待ち望んでいたよう。かわいい赤ちゃんは、お父さんたちが「談議」を繰り広げる中、多少にぎやかな店内でスヤスヤ眠っていた。

私のフランス人の友達はこう言った。「私のバカンスは3週間だけど、夫は4週間あるから、残りの1週間は任せて、私はリヨンに戻るの」。すると夫はニヤリとして、言った「彼女はその間1人を満喫するだろうね。僕も子供を独り占め」。

ほ〜!なんか、すごい!!グレーのモヤモヤがパァーッと消えていく感覚。

そうして、「出生率が高いと言われるフランスでは、男性も育児に積極的に参加する」っていう、ネット記事でよく見るフランスあるあるを目の当たりにした。

制度のおかげ?

税金、高いですよね。父親にも育児休暇が保証されていて。

それももちろんそうなんだけど、、、それ以上のものを感じた。

そして私は、〜男女平等社会における父性の役割〜という主題で大学の卒論を書くことにし、さらに”感じた事”を掘り下げることにした。ちょっと真面目な話になってしまうけど、斜め読みしてもらえたら嬉しいです。

卒論を書いて分かったこと

様々な文献を通して私が見つけたのは、フランスの男性は優しいとか、良いお父さんなんじゃなくて、周りが男性に、父親に、優しいんだってこと!!

よく、逆に捉えられる事が多いですよね。

「海外の男性は女性を大事にする」「理解がある」とか。

でもその前に、周囲が男性を「そのよういに」扱ってあげているのでないか。だって、男性って突然目の前に赤ちゃんを見せられ、半分はあなたです、なんて言われるんだもん。そりゃあ混乱するし、受け入れるのは時間かかるよ。女性として生まれた私にも、想像は容易。

なんで出来ないの?なんで分からないの?そんな言葉を日々浴びせられながら”父親”になっていくしかない彼ら。

①フランスには、母子手帖ならぬ、父子手帳が存在する。

今となっては、日本でも各団体から発行される父子手帳があります(自治体によって名前が異なる。例えば大阪府高槻市では「たかつきイクメンブック」)。フランスのものは、健康保険機関から発行され、法律が規定する親子関係や父親の権利と義務などの説明や、政府から出される手当についても明記してあります。

父親はこれを見れば、だいたいの自分のやるべきことが把握出来ると同時に、まずは父親になったのだという自覚を持つことが可能となっている。セゴレーヌ・ロワイヤル家族・児童担当大臣の元で開始した制度の1つ。彼女の活躍は素晴らしい✨

同年に父親への育休が2週間に延長されたことも重なり、フランス国民は「お父さん、あなたは必要とされてますよ」というメッセージを男性へ贈ることに成功したのではないか

②父親学級が無料で開放されている

これは、完全女性禁制のパパたちの話し合いの場。男性産婦人科や専門家の立ち会いの元、不安に思っていることや、父親になる恐怖を共有することで、準備をしていくという。なかなか、男性だけで本音を言い合える場所って少ないですよね。無料ですし、気軽に参加できるのがポイントです。

卒論でお世話になって浅野さんの著書に、素敵な文章が。

「大切なことは、出産を通じて男性もまた苦しむということを、女性も、周囲も、十分に認めることではないだろうか。彼らの苦しみが存在しないかのように、女性のそれに比べて遥かに取るに足らないものであるかのように振る舞うのではなく、その苦しみに名前を与えてやることではないだろうか。その苦しみを通過した時、ぼくに何ができるんだろう?という問いかけは自ずと掻き消え、ひとりの父親が、そこに姿を現しているはずだ」
浅野素女『フランス父親事情』(2007)築地書館 63-70項要約

③夫じゃなくても、父親ですと言える環境

両親が離婚してから、お父さんに会ってない、という友達は私の周りにも多くいる。夫じゃなくなると共に「父親」の権利も奪われてしまう。私は当たり前なのかと思っていたが、やりようには、お父さんとお母さんの両方と時間を過ごすことは可能だって気がついた。(亀裂の入った男女がそこまでの精神力を保つのが難しいというのが最大の問題というのは承知の上だが。)

フランスでは夫婦が離婚したり、子供を持つカップルが別居に至った場合、彼らには「共同親権」が与えられる(結婚していないカップルの場合、自動的に女性に親権が与えられるが、裁判で共同親権の申請が可能)。

A. 交替養育制度:父母のお互いが協力的に子育て可能で、近くに住んでる場合のみ、1週間毎に両親の家を行き来出来るよう、裁判所に申し立てが出来る。

B. 税金申告に関しては、子供の分を扶養家族として双方から差し引くことが可能に。

C. 両方の親の保険証に子供を登録することが出来るようになった。片方が引き取っているバカンス中、週末に病院にかかることが容易に。

D.  子供と暮らしていない親にも、成績の通知書の送付をしてもらえる

etc...

そんなフランスでも、母親が子供を引き取るケースが8割!なんです。

この数字は意外でしたが、どこの国も同じなんだね。フランスでは、状況を改善するために、様々な機関が、父親と母親の権利を平等にしようと工夫しているのが、素敵✨

では、どうしてこんなことが可能なのだ!(日本の制度は、確かにそういう面では改善の余地がある。この記事で、フランスの女性は男性をリスペクトしている、とか、フランスは制度がしっかりしているから素晴らしいとか、単純な比較をしたいのではないです。

もともと、フランスはある歴史の流れによって、今があるようで。

フランス革命で、人々は王という国家の父親の首をはねました。そのあと、共和革命では、共和革命の父ド・ゴール大統領を政治から追放。そこから20年にわたり、女性の権利拡大の波に押され、男性の男性性は大いに潰されていきました。

それをカバーするかのように、女性や政治が働きかけた結果、今こうして男性も安心して男性として、父親としての権利を手にしたのです。

もちろん不十分なこともまだまだありそうですが、お父さんになる人や、男性への信頼を寄せていくことで、社会のバランスを取ろうとしているのを感じますね!

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こんなんで、フランスに行って新鮮な考え方に触れた私は、父との関係に不安がなくなりました。謎は多い父ですが、父は父であるまでに人間で、夫じゃないけど、ずっと父です。でも、それを重荷に思わない程度に付き合っていけたらいいな♫と思います。

何よりも、産んでくれて、育ててくれた人がいる事に感謝です。

読んでくださり、ありがとうございます。お礼にいつもの写真を。

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【photo】フランス・ブルターニュ地方にて、8月の中旬。色が好き。

今日のフランス語:avec une poussette

これは女性名詞のベビーカーという意味のpoussette.

avecは英語のwith。親の時代はアベックっていうとカップルの意味だったらしい!意外と普段使ってる言葉の中にフランス語ってありますよね。ランデブー(rendez vous)とか、シュークリーム(chouxはキャベツ)、ミルフィーユ(mille-feuille/ 千枚の葉っぱ)、アンケート(enquête)、アンコール(encore/ もう一回)

一番衝撃だったのは、デジャ・ヴー(déjà =すでに   vu=見た)

シンプルすぎー笑