見出し画像

vol. 3.1 ヴィーナス —書体見本帳としてのカレンダー—


VENUS


山田「年が明けたね」

渡邊「あけましておめでとうございます!」

伊藤「2020年もよろしくお願いします」

渡邊「今年最初の集会ですが、何について話します?」

山田「新年だし、カレンダーの話をしようか」

伊藤「面白そうですね!」

渡邊「カレンダーって、書体の特徴が前面に押し出されて伝わってくる気がするのは私だけでしょうか……」

伊藤「それ、何となくわかる気がする! 文字数が少ないから目立つよね」

山田「うん、その通りかも。人によって好みが分かれやすいから、部屋にどんなカレンダーを置いているかで人間性とかも見えてきちゃいそうだよね」

渡邊「それは気になる……(笑)。伊藤さんはどんなカレンダーを置いていますか?」

伊藤「本当に申し訳ないんですが、自宅にカレンダーないんです……。これと思うものになかなか出逢えなくて(笑)」

山田「なんか伊藤くんらしいな。どんなデザインが好きとかはあるの?」

伊藤「えーっと……海外系でよくある、日付欄を左右どちらか1行に置くやつが好きです」

山田「なるほど。そしたらこれをちょっと見てごらん。『Jan Van Toorn: Critical Practice』(Nai Uitgevers Pub)という2013年に出されたオランダのカレンダーデザインの本なんだけど」

画像5

伊藤「すごくかっこいい! ドンピシャです」

渡邊「日本でよく見るのは1か月が見渡せるものですが、1週間見渡し2週間見渡しなど、構造的に変わったものが多いですね。ちなみにピークスではエイ出版社からオーダーを受けて『3か月見渡すカレンダー』というものを制作しています!」

伊藤「固定観念を打ち壊してるー(泣)。こういうの、ほんとに好きです」

山田「結論:伊藤くんのお目当ては日本では手に入れづらい。個人輸入だな(笑)。買ったら見せてね」

伊藤「そ、そんな……。わ、渡邊さんはどんなの部屋に置いてるの?」

渡邊「私は葛西薫さんのカレンダーですかね」

山田「王道だ!」

伊藤「葛西薫さんは大谷デザイン研究所からサン・アドに移籍してユナイテッドアローズなどの広告制作を手がけたデザイナーですね」

渡邊「はい! スタンダード真っ向勝負の潔さが好きです」

伊藤「さて、残るは山田さんですが、聞いてもいいですか?」

山田「僕は、自分で作ったやつを置いてる(笑)」

渡邊・伊藤「さすが!!」

画像2


画像3


渡邊「山田さんは社内向けに毎月カレンダーを作ってくれているんです」

伊藤「デスクトップ壁紙やケータイの待ち受け画面などに活用している人もいるくらい、人気があるんだよね!」

渡邊「伊藤さん、『待ち受け』は古いです(笑)」

伊藤「え、そうなの。あ……背景 or ロック画面ね。勉強になります」

山田「毎月使用する書体を替えてつくるんだ」

渡邊「今月は『ヴィーナス』ですね」

山田「エクストラボールド コンデンスドだから、『太くて』『狭い』だね」

伊藤「ヴィーナスって、僕初めて聞きました。有名なんですか?」

渡邊「私もあまり耳馴染みがなくて……。山田さんはよく使うんですか?」

山田「いや、僕も『encyclopedia of typefaces』(Jaspert, Berry and Johnson)を読むまでは知らなかった(笑)。ここに解説が英語で書いてあるんだけど、伊藤くん、解読してよ」

伊藤「実は僕、センター試験は国語より英語の点数のほうが高かったんですよ(笑)。
   まず、ヴィーナスはバウワー活字鋳造所によって1907年〜1927年に発表された書体のようですね。
   『オリジナルデザインは Wagner & Schmidt によるもので、いくつかのウェイトが数社の鋳造所に売られた』となっています。『形状から見る直系は、大文字が19世紀の書体の復刻のようだ』とも述べられています」

山田「そもそも、かなり古い書体なんだね。当時にしては、ウェイトもすごく充実している感じがするから、出始めは人気が高かったんじゃないかなあ」


タイプフェイス一覧7

伊藤「あとは形の特徴ですね。『大文字は字幅が同じ。Mは正方形で、aは2階建て、gは終筆が開く、tは終筆をカーブさせている』だそうです」

渡邊「確かに、見ればわかる特徴ですね(笑)。私は個人的に、Gの構造が気になりました。Cの終わりの部分から、垂直に上がって水平に左折していますよね」

伊藤「ほんとだ! これは印象深い」

山田「Mが正方形というのは、きっとレギュラーにおける話だろうね。コンデンスドは字幅が狭まるから。加えて、Gとか、Qのニョロニョロとか、Kとか、ゴシック体で差が表れやすいところではあるよね。今回使ったタイプフェイスはEX Bold Condensed からさらに xハイト(vol. 2.2参照)を高めに設定したバージョンを使っているんだ」

タイプフェイス一覧8


渡邊「山田さんは、ヴィーナスが好きなんですか? カレンダーに使うくらいなので、気になって……」

山田「結構好き(笑)。ゴシック体って、どれも同じように見えるんだけど、やはりそこには一つひとつ差異があって、昔の書体ほど個性が強い。前にも同じような話をしたかもしれないけど、『完璧じゃない』からこそ面白い。『The New York Times Magazine』のアートディレクターであるMatt Willeyさんも『自分が直感的に好きなフォントの多くは、専門的に「正しい」フォントではありません。特異で、不完全、そして不規則なフォントが好き』と言っているけどね。滑らかな書体を使えばいいレイアウトを組めるのはデザイナーなら当たり前と思うけど、クセのある書体でそれをしてこそステップアップしていけると思う。……ヘルヴェチカも当然使うんだけどね(笑)」


渡邊「Matt Willeyさん、知ってます! 気になるアワードをチェックしていいるときにしばしば目に留まる作品がWilleyさんのもので。日頃よく拝見しています」

山田「写真集という言葉で思いついたけど、『写真集におけるタイポグラフィの役割』とかっていうテーマも面白そうだね……」

伊藤「おっと、偶然にも新たなテーマが見つかりましたね。それにしても渡邊さん、山田さんから普段こんなアツい話聞けないから、今日は良い会になったね!」


渡邊「ほんとに良かったです……(泣)」

山田「泣くな! さて、もう少しヴィーナスの話を膨らませてみようか」


ヴィーナスという情報量の少なそうな書体に不安を覚えるテキスト係・伊藤を尻目に、意外と話を膨らませてくれるデザイナーたち。持つべきものは良い仲間である。次回は、ヴィーナス(金星)を取り巻くその他の惑星(書体)の話になるはずである。乞うご期待。


参考文献
encyclopedia of typefaces』(Jaspert, Berry and Johnson)
Jan Van Toorn: Critical Practice』(Nai Uitgevers Pub)
QUOTATION』(MATOI PUBLISHING)



#フォントポスト #fontpost #フォント #タイプフェイス #書体 #ロゴ #logo #デザイン #design #雑誌 #magazine #本 #book #出版 #publishing #広告 #advertising #アート #art

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?