6.3 フルティガー —UNIVERSの地平—
Frutiger
ジェンソンの活字に不変の美を見出し、自らの解釈を加えて発表した MERIDIEN(子午線)。続く UNIVERS で大いに話に花が咲く3人。
山田「MERIDIEN から、次にフルティガーが制作したのが UNIVERS だね」
伊藤「あのう、ちょっといいですか」
山田「ん? どうした」
伊藤「素朴な疑問なんですが、ユニヴァース(宇宙)って、英語のスペルは『Universe』ですよね。でも、フルティガーの生み出した書体の名前は UNIVERS で、最後の E が付いていません。ひょっとして英語ではないんですかね?」
渡邊「UNIVERS は、フランス語での Universe の書き方のようですよ。パリのドベルニ・アンド・ペイニョ活字鋳造所からそのキャリアをスタートさせたフルティガーでしたから、フランス語で名前をつけるのは自然な流れだったのではないでしょうか」
山田「なるほどね」
伊藤「ふむふむ。ちなみに、フルティガーの故郷であるスイスは、公用語が4つもあるんですよね。スイス語という表現はなかなか言いづらいところがあって、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語が国語です。全ての人が4つを使いこなすという感じではなく、地域によって分かれているようですね。フルティガーが生まれたインターラーケンは、フランス語圏の地方のようですよ」
渡邊「なんだ、伊藤さん、しっかり調べてるじゃないですか、ずるい(笑)」
山田「じゃあきっとフルティガーにとってフランス語はとても身近なものだったってことだよね。UNIVERS にしたのも自然な流れだったってことかもね」
伊藤「ごめんなさい、UNIVERS の話に参りましょう!」
渡邊「では、今度は私から伊藤さんに質問しますね(笑)。MERIDIEN はローマン体でしたが、UNIVERS は?」
伊藤「むむ……。ゴシック体(サンセリフ体)かな」
山田「渡邊さん、伊藤くんをいじめるな(笑)。不安がってるじゃないか(笑)。そう、分類されるのは確かにサンセリフ体であってるよ」
渡邊「ごめんなさい(笑)。そう、サンセリフ体です。でも、ちょっと異質というか、MERIDIEN の成果を存分に生かして作った書体だったので、『伝統的なローマン体の表情をもつ活字書体』として評価が高いんですよね」
山田「20世紀初頭に発表されたサンセリフ体はとってつけたような幾何学的な構成がほとんどで、フルティガーのように細部までこだわって作り上げられたものがほかになかったんだろうね。1950年にOptima が『セリフレスローマン』という新ジャンルに足を踏み入れ高い評価を得たことが背景にあったりして、フルティガーがどこまでそれを意識したのかは定かではないけどね。UNIVERS の素晴らしいところは何と言っても『ファミリー化』だろうな」
渡邊「そうですね。今では当たり前の概念ですが、当時は本当に画期的だったんだろうなあと思います」
伊藤「ファミリーって、ひとつの書体でレギュラーとか、コンデンスド(狭い)とかエクスパンデッド(広い)とか、イタリックとかがあることですよね?」
渡邊「そうです! 上手に使うと、平面の紙面に3次元的に奥行きをもたせることもできるんですよ」
伊藤「へえ! すごい!」
山田「UNIVERS には21種類のファミリーがあるけれど、どうやってそんなにもバリエーションを生み出せたんだろうと考えながらこの本(vol. 6.2参照)を読むと、ヒントになりそうなことが書いてあったよ」
渡邊「興味あります!」
山田「フルティガーは、『H』を基準として、線の比率からバリエーションを設定していったようなんだ。こんな感じ」
(アドリアン・フルティガー『図説 サインとシンボル』(研究社)を参考に描き下ろし)
渡邊「なるほど! 字幅の比率を決定する要素は、高さを100としたときの横線の長さの割合、ウェイトの比率は高さを100としたときの縦線の幅の割合ってことになるんですね」
山田「うん、こうすると、割合(数値)をいじるだけでバリエーションが生み出せるから、小数を使ったパーセンテージを含めて考えると、計算上は無限にバリエーションを作れることになるよね。ただまあ、目で見てわかる心地良さがわかる数値ってあると思うから、ガイドライン的に使うのがいいかも。ほかにもフルティガーはこの本でオブリークの傾き加減の考察なんかも行っているよ」
伊藤「唯一、『H』の概念を他のアルファベットに適応するのが難しそうですね……」
山田「そうなんだよ(笑)。いま、自分の作った書体をファミリー化できないかと試しているんだけど、なかなかこれが大変でさ。完成したら見せるね」
渡邊「楽しみです!」
UNIVERS 談義はまだまだ続く。
参考文献
『普及版 欧文書体百花事典』(組版工学研究会)
アドリアン・フルティガー『図説 サインとシンボル』(研究社)
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