6.1 フルティガー —生い立ち—
Adrian Frutiger
渡邊「今回から、新しい試みが始まります!」
伊藤「はい。これまで、書体ごとの歴史や特徴、ピークスオリジナルフォントカレンダーといったテーマで進めてきましたが、『人』にフォーカスするシリーズを少しの間やってみようと思いまして」
山田「書体って、それ自体を好きな人もいるし、お気に入りのタイプフェイスデザイナーの書体だから好きという人もいると思うんだよね」
渡邊「確かに。好きな書体ではあるけれど、デザインしたのは誰だかわからない、という状況もありますから、人物を知るのは良いことだと思います」
伊藤「そんなわけで、人物特集の第1回となるわけですが、どなたにしましょう?」
山田「フルティガーはどうかな」
渡邊「いいですね。前回とのリンクもできますし!」
伊藤「それでは、アドリアン・フルティガーでいきましょう」
渡邊「アドリアン・フルティガーは、UNIVERSの生みの親として知られています」
伊藤「僕の好きなUNIVERS!」
山田「1928年5月24日、スイス・インターラーケンで生まれるんだよね。高校卒業後、18歳で印刷所の見習い植字工になっている」
伊藤「ふむふむ。書体にはかかわっていますが、植字工なのでタイプフェイスデザイナーというよりは、いまでいうDTP職ですね」
渡邊「そうですね。でも、そこに根を張る、というよりかは、『進学前の社会勉強』の感じだったようですよ。いまのインターン制度みたいですよね」
山田「うん。フルティガーはここで、活字組版や木版彫刻、印刷といった『出版物ができるまで』の全ての工程を経験することになる」
渡邊「羨ましい! この現代に、本ができるまでの仕事を包括的に体験することができたらきっと、この業界を志す人が増えるかも……!」
伊藤・山田「……それは、一概にそうとは言えないかも(笑)」
伊藤「まあでも、渡邊さんの言うこともわかります。現代では、各工程が分断されてしまっています。インターンでは、何社も経験しないことには本の製造について理解することは難しいでしょうね」
渡邊「そう、それが言いたかったんです!」
山田「(笑)。で、その後フルティガーはチューリッヒ工芸専門校(現チューリッヒ工芸大学)に入学。木版画や銅版画、彫刻やドローイングを学ぶんだ」
伊藤「人が何かを志すようになるには、きっかけがあると思うんです。衝撃的な作品を見るとか、師匠に出会うとか。フルティガーの場合は、どうしてタイプフェイスデザイナーの道を志すようになったんでしょう?」
山田「さすが元教員、鋭い(笑)。まさにその通り。フルティガーはここで、アルフレッド・ヴィリマン教授と出会うんだ」
渡邊「ヴィリマン教授は文字の誕生からの歴史と、文字形象の変遷の重要性を説き、フルティガーに古典に学ぶ姿勢を指導したとされています」
伊藤「なるほど。師匠がいたわけですね。ジェンソン(5.2参照)との繋がりも見えました」
渡邊「工芸専門校での師の教えから、フルティガーは古典名作活字を深掘りしていくこととなります」
伊藤「なんだか、好きなアーティストのルーツミュージックをたどる過程と似たように思えてきたぞ」
山田「ほんとに、そんな感じかもね。音楽の場合も、たどることでよりシンプルなものに行き着くことが多いと思うんだけど、活字の場合もまさしくそれで、フルティガーはジェンソンの書体にたどり着くんだ」
渡邊「フルティガーがジェンソンをどれほど敬愛していたかは前回(5.2参照)で触れていますが、ジェンソン活字を最初に意識した作品が『MERIDIEN』だとされています」
山田「1952年、ドベルニ・アンド・ペイニョ活字鋳造所に籍を置いていたフルティガーは、『判別性と可読性に富んだ、古典的なローマン体』を作ろうとする鋳造所の期待に応えることになる。フルティガーはジェンソンの活字設計に見られる有機的な手書き文字の書風を残した活字書体を、機械式活字父型鋳造機を用いて再現できないかと考えたんだ」
渡邊「でも、どうしてフルティガーは有機的というところに着目したんでしょう?」
山田「いい質問だね。それは、当時の活字書体がとても無機的だったからなんだ。機械を使って制作しやすいように、垂直画線が定規で引かれていたんだよね。微妙な膨らみがなくなってしまったことで無機的になり、刺々しくて緊張感を覚える字だったらしいよ」
渡邊「そうなんですね! ジェンソンの活字は、垂直画線が微妙な曲線でできており、上下に膨らみがあるので、フルティガーの意図にぴったりだったんでしょうね!」
山田「うん。このような有機的な形によって、誌面の黒い部分と白い部分に補完関係が成立することになる」
伊藤「白い部分と黒い部分は、機械的な線引きだと微妙なバランスが心地良くない、という風にとれますね。ほかに、特筆すべきところはありますか?」
山田「それはね……」
まだまだ続く、フルティガー談議。果たして何回ぶんの企画になることやら。
追伸:ささやかではありますが、月初投稿に付録としまして「ピークス謹製フォントカレンダー」をお付けすることにいたしました。下記リンク先に格納してございますので、ダウンロードしていただき、ご活用くだされば幸いです。
Calendar April
ver.1
ver.2
参考文献
『普及版 欧文書体百花事典』(組版工学研究会)
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