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4.1 コーヴィナス —ローマン体の体系—

Corvinus

伊藤「今回は、フォントポストでは初めてローマン体を扱うことになりましたが、もうひとつ初めてのことがあります」

渡邊「なんと、ゲストが!!」

伊藤「デザイナーの牧野さんです」

牧野「初めまして。いつも楽しく読んでいます」

山田「牧野も、書体が大好きなデザイナーの一人だから、参加してもらったら良い化学反応が起きそうだなと思ってね。呼んじゃった(笑)」

牧野「私でお役に立てるかどうか……。よろしくお願いします」

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渡邊「先ほど伊藤さんも言っていましたが、初のローマン体ですね」

山田「なんか、こうしてカレンダーにしてみると新鮮だね」

伊藤「今回の制作で山田さんが使用したのは Corvinus ですが、ローマン体を扱うのは初めてですし、一度その歴史や代表的な書体を紹介していただけるとビギナー(私)はとても助かります」

牧野「前号でも話題に上がっていましたが、やはりスタートはヨハネス・グーテンベルクが活版印刷を発明した1450年頃になるでしょうね」

渡邊「そうすると、活字の歴史の中で最も長い経歴を持つものがローマン体という認識で良いですか?」

牧野「で、良いかと思います」

山田「ローマン体は、いくつかのタイプに分けることができるんだけど、これが年代順になっているので、ここをベースに話を進めるといいかと思うよ」

牧野「そうですね。スタイルが確立した順にいくと、①ヴェネチアン・ローマン、②オールド・ローマン、③トラディショナル・ローマン、④モダン・ローマンという風に分類されています」

山田「うん、それぞれの特徴と代表的な書体はこんな感じ。

①ヴェネチアン・ローマン
代表書体:セントール、イタリアン・オールド・スタイル、ミニオン
特徴:1. O C D G などのアクシスが左に傾斜
   2. e のバー(横棒)が右上がり
   3. 小文字のアセンダー・セリフが下向きに斜め
   4. セリフの形がブラケット型
   5. ストロークの太さに差が少ない

fontpost_4.1書体見本minion①


②オールド・ローマン
代表書体:ギャラモン、ファン・ダイク、キャズロン
特徴:1. アクシスはヴェネチアンと同じく左に傾斜しているが、e は水平。古くなるほどバー位置は高めになる傾向
   2. ストロークの太さの差はヴェネチアンよりやや大きめ
   3. アセンダー・セリフが斜め
   4. セリフはブラケット型

fontpost_4.1書体見本garamond②


③トラディショナル・ローマン
代表書体:バスカーヴィル、フールニエ
特徴:1. アクシスが垂直、あるいはわずかに傾斜
   2. アセンダー・セリフが斜め
   3. セリフはオールド・ローマンを受け継いでブラケット型

fontpost_4.1書体見本baskerville④


④モダン・ローマン
代表書体:ボドニ、ディド
特徴:1. ストロークの太さの差が極端に大きい
   2. アクシスはトラディショナル・ローマンを継承して垂直
   3. 小文字のアセンダー・セリフが水平
   4. ヘアライン・セリフの書体が大半を占める
   5. 曲線は幾何学的表情

fontpost_4.1書体見本bodoni③


文字だけで追うのはちょっときついかもしれないね。各タイプの代表的な書体で作成した文字列があるから参考にしてほしい」

4.1見本集合


伊藤「なるほど……、こうしてみると年代ごとにかなり『凝り方』が違いますね。デザイナーは、やはり場面ごとに使用する書体が替わるんだと思いますが、『お気に入り』ってあるんですか?」

牧野「そりゃもう……」

渡邊「ありますよねぇ(笑)」

伊藤「あった(笑)。どんなローマン体が好きですか?」

渡邊「私はボドニキャズロンですかね。ギャラモンは、使いにくいですが、なぜか気になる書体です」

牧野「あー、私もボドニ好きです。近代的な薫りがするし、見出しなど大きめにアピールしたい場面ではとても使いやすいですね。けど、アメリカ発のボドニ(ATF社)のものはなぜか少し野暮ったく感じてしまって、あまり手が伸びないんです」

渡邊「なんかそれすごくわかります!!」

伊藤「え。アメリカのものと他にはどこが作っているんですか」

山田「ボドニくらい有名になると、いろんなところが作っているだろうね。でも一般的には、ATFかバウワー(ドイツ)なんじゃないかな」

牧野「ですね。バウワー系のボドニが好きです。ストロークの差が大きいんですよね」

渡邊「牧野さん、他にはどんな書体が好きなんですか?」

牧野「うーん、ディドとか、バスカーヴィルも好きですね」

山田「先で解説した分類の代表書体に含まれているけど、やっぱりそれクラスの書体って、なんかこう、完成された美しさがあるよね」

牧野「ですね。特に私は、強弱(濃淡?)の差がしっかりついているものが好きなのかもしれません。ラインにメリハリが出てくるのがトラディショナル・ローマン以降のように思うので、好きな書体というとその辺りに落ち着くんですよね」

渡邊「大先輩と書体の好みが通じるのがとても嬉しいです……! あと私は、アドビ・トラジャンも結構好きなんですが、一時期タイトルロゴにそれが使われているやつ縛りで映画を観たりしていました(笑)」

山田・牧野・伊藤「なんじゃそりゃ(笑)」

渡邊「え、オススメですよ。書体から入るとハズレがそんなにない気がします(笑)」

牧野「『タイタニック』で使われていたんですよね」

渡邊「はい! あとは『グラディエーター』や『硫黄島からの手紙(英語タイトル)』でも使用されていますよ」

伊藤「ちょっと調べてみたんですが、『マイノリティリポート』や『ラストサムライ』、『スターウォーズ(EPISODE~の部分)』など、有名どころに使われているんですねえ」

山田「トラジャンは、ベースにしている書体が『トラヤヌス帝の碑文』という全ての欧文書体の原点とも言える彫刻文字だから、それを用いることで厳格さみたいなものを醸し出すことができるよね。使われている映画も聞いていると歴史物が多いように感じるし」

伊藤「なるほど、その書体のルーツを知ると、今まで何の気なしに見ていた映画のポスターが、より厳かなものに思えてきます。……ところで、山田さんの好きなローマン体は何ですか?」

山田「ん……Corvinus

カレンダーに使うくらいだから、当然だよな、野暮な質問をしてしまった(何てこった)と思う伊藤をよそに、会話は進行している。
次回は、本題である Corvinus について深掘りすることとなりそうである。



参考文献
『普及版 欧文書体百花事典』(組版工学研究会



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