5.2 ジェンソン —レター・スペース構造—
Jenson
活字史におけるビッグテーマを取り扱うにあたり、導入的に史実を紹介した5.1。今回は、いち書体としてのJensonの魅力に迫る。
伊藤「さて、歴史的な流れはお二人のおかげでかなり勉強できました。そろそろ書体としてのJensonの話が聞きたいです」
山田「渡邊さん、見た感じ、どう?」
渡邊「ヴェネチアン・ローマンを代表する書体ですので、その特徴はすべてありますよね(4.1参照)。あとは……、『レタースペースの均一性』でしょうか」
山田「お、すごい、勉強してるね」
伊藤「二人だけで話が進んでいますが、置いていかないでください(泣)。レタースペースとはなんですか?」
山田「ああ、ごめんごめん! うーんと、そうしたら一度話をブラックレター体に戻すね」
伊藤「ありがとうございます!」
山田「それまで主流だったブラックレター体は、太くて文字の幅が狭いために、誌面が真っ黒になってしまって読みづらかったことは話したよね?(5.1参照)」
伊藤「はい、ブラックレター体の書体見本だけでもかなりの黒さでしたから、想像に難くありません」
渡邊「ニコラ・ジェンソンはこれを何とかしようと、明るい書体をつくった。それがJensonなんですが、この明るさがどうやって生み出されたのかというと、レタースペース、すなわち『小文字のベースライン・セリフを明確にすることによって、文字と文字の間隔にわずかなゆとりを生み出す』ことを追究したからなんです!」
伊藤「……ふむふむ。つまり簡潔に言うと、『字間が整然とした』ということになるんですか?」
山田「まあ、そんなところだね。レタースペースの原則として重要視されているのは『小文字の m のステムの距離とカウンタースペースを均等に保つこと』というところも押さえておきたいね」
渡邊「ベースラインセリフを設けることで、自然と次の文字との間が生まれる、なんという素晴らしい発想でしょう!」
伊藤「体育の授業で『前へならえ』を教わりましたが、これをすることで列がきれいになる、そんな感じを受けました(笑)」
山田・渡邊「わかりやすい……(笑)」
渡邊「書体の特徴というと、こんなところですかね」
山田「うん、そうだね。あと、ニコラ・ジェンソンと切っても切れない人といった視点で、アドリアン・フルティガーを外すことはできないかな。ここで触れておきたい」
伊藤「僕の好きな Univers の生みの親ですね! でもどうして、ジェンソンと関係があるんですか? 時代はすごく離れていますよね」
渡邊「はい、450年ほど離れています!!」
伊藤「一見すると、なんで? といった感じですが……」
山田「実は、生前フルティガーはこんな風に語っているんだ。
わたしの人生にとって重要なのはローマン体です。ルネサンスの人文主義者の考えは私の考えです。とりわけニコラ・ジェンソンはわたしのこころの師匠です。ジェンソンの精神はわたしの精神なのです。(『欧文書体百花事典』より引用)
フルティガーによる全ての活字書体の骨格は、ジェンソンの活字書体がもとになっているとされていて、伊藤くんの好きな Univers などのサンセリフ体でさえ、間接的にはジェンソンの復刻書体といえるんだ」
伊藤「なるほど、『直接に教えは受けないが、ひそかにその人を師と考えて尊敬し、模範として学ぶこと(デジタル大辞泉)』を“ 私淑 ”といいますが、まさしくこの関係はそれですね」
渡邊「伊藤さん、ドヤ顔ですね」
伊藤「この前、部下に教えてもらいました」
山田「(笑)。この『ADRIAN FRUTIGER - TYPEFACES. THE COMPLETE WORKS』という本によると、フルティガーの MERIDIEN という書体や、APOLLO という書体にジェンソンの影響が色濃く見て取れるから、気になった人は見てみると面白い発見があるかもね」
渡邊「また山田さんがレアな本を! 見せてください!!」
……さてさて、1月からの3か月をカレンダー特集として進行して参りましたが、いかがでしたでしょうか。このような感じで、ピークスでは毎月オリジナルカレンダーが壁を彩ります。次回以降、またさまざまに企画を考えていきたいと思いますので、引き続きお付き合いのほど、よろしくお頼み申し上げます。
参考文献
『普及版 欧文書体百花事典』(組版工学研究会)
『ADRIAN FRUTIGER - TYPEFACES. THE COMPLETE WORKS』(Birkhauser Architecture )
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