見出し画像

地域の対話に必要なのは「ビジョンから話しはじめること」

解決策から話すと“二元論”に陥りやすい


みなさん、こんにちは。富士通Japan徳島支社の魚谷貴秀です。
私は新卒で富士通に入社してSEとして東京に配属となり、勤務していたのですが、社会人3年目の2022年2月に、自ら希望して徳島支社に異動してきました。

現在は、学生時代に日本一周旅行をしたり海外をバックパッカーとして旅をしたりしていたときに大切だと感じた「誰もがどこでも住みやすい社会づくり」を自分のテーマとして、徳島支社が展開する「BIZAN PROJECT」で地域課題の解決に取り組んでいます。

といっても、地域課題に向き合うのは初めてで、毎日が試行錯誤の連続なのですが…、その中で地域の人たちとの関わり方について、自分なりの気づきのようなものを得ることができました。それは、対話するときは「まずビジョンから話しはじめたほうがいい」ということです。

ビジネスの世界では特に具体策が重視されます。そのせいか私たちは、ともすると解決策を強く意識して議論を進めがちです。

例えば、私の場合でいえば、「誰もがどこでも住みやすい社会」をめざしたいという思いから、あるときネットで知った「D to P with N」※というオンライン診療の概念を地域医療に積極的に導入してはどうか、そのソリューションを自分たちで提供できるのではないか、と考えたことがありました。そして、その考えを現場の人たちに話をしてみようと、実際に地域医療を支える病院を訪ねて、担当者に「これから増大する訪問診療のニーズに応えるためにはD to P with Nが必要なのではないでしょうか」「D to P with Nを実現するソリューションが求められているのではないでしょうか」とお話ししてみたのです。

※「D to P with N」……患者側に看護師等がいて医師の診療の補助をするオンライン診療のこと

すると、そのときにまず返ってきたのは、「魚谷さんは病院から遠い」、つまり病院が身近な存在ではなく、実情がわかっていない、という反応でした。そして(その病院では)検査部門が収益の柱を担っていることから、「実現自体が難しい」とD to P with Nの是非を議論する流れになりました。

そもそも私がその病院を訪ねたのは、自分に不足している医療の知見を補うためでした。訪問前に思い描いていたのは、「オンライン診療に地域医療を支える可能性があるのかどうか」「オンライン診療の他にどのような選択肢があるのか」といった事柄について、現場の人たちと一緒に対話する姿でした。

でも実際には「D to P with N」という具体的な解決策から話をはじめてしまったことで、「D to P with Nは必要か、必要でないか」という二元論の議論になってしまったのです。きっと話している私は、苦労して練り上げた結論(解決策)が合っているかを確かめたくて、知らず知らずのうちに押し付けがましくなり、一方で聞かされている人たちは私の話に感情移入できないまま、病院の実情から是非を判断せざるをえなくなったのでしょう。

徳島のヨットハーバー「ケンチョピア」の朝日 (Photo by Takamichi Hamagami )

「この人だったら」と感じてもらう


では、二元論の議論に陥らずに、未来を建設的に語り合えるような対話を実現するには、どうすればよかったのでしょうか? 私はその手がかりのひとつが「ビジョン」にあると感じています。

徳島に異動して間もない頃、過疎化が進んでいるとされる、ある地区を訪れたときのことです。そこに住む人たちの苦労や問題意識について知りたいと思った私は、カフェに入り、店員さんに話を聞いてみることにしました。そのとき最初にお話ししたのが「誰もがどこでも住みやすい社会」をつくりたいという自分の思い(ビジョン)でした。

すると、店員さんだけでなく、そこにいた常連客のみなさんまでもが会話に参加してきて、「衰退している自分達の町に活気が戻ることを切実に願っている」と、それぞれの思いを話してくださいました。

さらに、その常連客の中にいた地元で顔が効くガソリンスタンドの経営者からは、町役場の職員さんやNPOの代表者などを紹介いただき、紹介いただいた方々からまた別の方を紹介いただいたこともあって、その町の地域課題に目を向けて活動されているたくさんの方々と対話して、貴重な意見をうかがうことができました。

このとき是非を問うような議論にならず、それぞれが思いを語り、未来を建設的に考えることができる対話の場をつくることができたのは、最初にビジョンをお話ししたからだと思います。なぜなら、最初にビジョンを共有すると共感が生まれ、「この人だったらわかってくれる」「この人だったら信頼できる」と相手から感じてもらうことができます。そうした下地があったからこそ、議論ではなく、対話をしようという姿勢になってもらえたのではないかと思うのです。

以来、地域の人たちと関わるときには、解決策を最初に話すのではなく、自分がどのようなことを実現したいと思っているのか、それはなぜなのかといったことを、丁寧にお伝えするように心掛けています。その結果、多くの人たちからたくさんの意見をうかがうことができるだけでなく、共創パートナーとして一緒に地域課題に取り組んでくださる人や企業との出会いにも数多く恵まれるようになりました。

もちろん、話し方だけでそうなったわけではありません。対話が成り立ったのは、私の話を受けて、みなさんが歩み寄ってお付き合いくださったからにほかなりません。今後もそのことをしっかりと意識して、みなさんへの感謝の念を忘れず、ビジョンを大切にしつつ、地域課題の解決のために精進していきたいと思っています。