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舞台はサイトゾル+α

異化の代表例として「呼吸」を、同化の代表例として「光合成」を紹介しました。私が中学の時、生物に詳しい友達が「呼吸をしない生物がいるか?」と議論をふきかけてきました。その当時の私は、酸素と二酸化炭素のガス交換の呼吸しか知らなかったので、「呼吸をしない生物はいる」と答えて、からかわれました。異化をしないとエネルギーが作れないため、生物は死んでしまうことを考えると、呼吸をしない生物はいません。というわけで、酸素を必要としない異化の話をしていきます。

その名は発酵

昔は、酸素を用いる異化のことを「好気呼吸」酸素を用いない異化のことを「嫌気呼吸」と呼んでいました。しかし、数年前から前者を「呼吸」、後者を「発酵」というようになっています。酸素を使わない呼吸をしている生物と言われても心当たりがないかと思いますが、ミトコンドリアを持たない原核細胞もエネルギーを作って生きているのですから、不思議な話ではないです。ただし、原核細胞の中にも酸素を用いた異化(すなわち呼吸)をする生物がいます。では、酸素を用いずにどのようにエネルギーを作っているのかといえば、解糖系だけでエネルギーを作っています
では、呼吸と発酵の違いは何でしょうか?1つ目は、発生するエネルギー量の違いです。酸素を用いる呼吸では、ブドウ糖1分子あたり38分子のATPが作られます。一方、発酵では解糖系でのみブドウ糖の分解が行われないため、ブドウ糖1分子あたり2分子のATPしか作られません。2つ目は、気体の出入りです。呼吸ではエネルギーを取り出すために必要な酸素量と、ブドウ糖を分解することで発生する二酸化炭素量が同じです。しかし、発酵では酸素を使いませんが、ブドウ糖の分解による二酸化炭素が発生します。パン生地の膨張やビールの炭酸は、イーストが発酵で作り出した二酸化炭素が原因になっています。発酵の実験は、家にあるものでもできるのでチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

私にとっての命の水であるビールです。ビール画像フォルダの役割がやっと生かされました。

3つ目の産物

呼吸と発酵の違いの3つ目は、ブドウ糖を分解した結果できる物質です。呼吸の場合は、二酸化炭素と水になるので、そのまま細胞外に排出されます(ヒトであれば血液中へ)。そして、解糖系だけの発酵の場合は、ピルビン酸で終わってしまいます。ただし、ピルビン酸をそのまま細胞内に残すことも排出することもありません。別の物質に変化させるのですが、代表的なのがエタノールと乳酸です。これらの物質が私たちの食生活を豊かにしていることは言うまでもありません。

ところで、私たちも発酵をしているのをご存知でしょうか?どのような時に行っているのかと言うと、激しい運動をした時です。私たちにはミトコンドリアがあるので、クエン酸回路と電子伝達系を用いたほうがATPをたくさん作れるのですが、時間がかかります。一方、解糖系はブドウ糖をパカッと二つに割るだけ(イメージです)なので、量は少ないもののすぐにATPを作ることができます。そのため、激しい運動をした場合は筋肉中のブドウ糖を割ってATPを早く用意します。すると当然、ピルビン酸が余るのですが、この余ったピルビン酸は乳酸として筋肉中に蓄積されます。これが、運動会翌日の疲労感です。蓄積した乳酸は、時間をかけてエネルギー源として再利用されます。

人類の叡智?ヨーグルトです。

ところでみなさんは、有酸素運動という言葉を聞いたことはありませんか?サイクリングやウォーキングのように、息の上がらない程度の運動を長時間する運動のことをいいます。ダイエットを考えている場合は、アスリートが行っているようなトレーニングではなく、こちらをすすめられます。激しい運動の場合は、細胞中に蓄えられているブドウ糖を分解してエネルギーを作ります。一方、息が上がらない程度の運動では、筋肉の細胞は血液中にあるブドウ糖をはじめとした有機物を酸素を使ってゆっくりATPを作ります。まとめると、無酸素運動は筋肉中のブドウ糖だけ消費、有酸素運動は身体中のブドウ糖と有機物を使います。もちろん、この有機物の中には、脂肪も含まれます。やったね!

+α:エネルギーはどこにいくの?

「代謝とエネルギー」の最後の話題は、「地球上のエネルギーはどこからきたの?」です。私たち生物が生きている上で必要なエネルギーは全て植物由来です。そのため、答えは「太陽」になります。私のこの話を読んでくれている人の中で、自分のエネルギーは充電で得ていますというという方はいるでしょうか?まちがいなくご飯を食べて、エネルギーを補給しているはずです。食事で出てくるご飯やパンや麺は全て穀物(植物)です。野菜はもちろん植物ですが、牛肉や豚肉も植物を食べてできた肉を食べているわけですから、全て植物由来になります。そう考えると、石油や天然ガスももとは生物だったので、電気で生きている人がいたとしても、植物由来のエネルギーを使っています(日本だと水力原子力の割合は低いですし)。
高校の生物では、生態系の分野で「物質の循環」ということを学習します。炭素を例にとって簡単に説明すると、「炭素は二酸化炭素として大気中にあります。光合成によって植物に取り込まれ、その植物は動物に食べられることで、動物に移動します。動物も草食動物から肉食動物に捕食という形式で移動します。そして、植物も動物も死ぬと、体をつくる有機物が細菌などによって二酸化炭素と水に分解されます。また、地球上の生物は必ず呼吸をするので、二酸化炭素を放出します。」となります。つまり、炭素はまた二酸化炭素として大気に戻るので、物質の”循環”と呼ばれています。
しかし、エネルギーは循環しません。光合成によってエネルギーはブドウ糖などの有機物に取り込まれ、植物が動物に食べられることで、動物に有機物という形でエネルギーが移動します。ただ、動物に移動した有機物の一部は、熱や運動といったエネルギーで放出されてなくなってしまいます。最終的に死体が細菌などの分解者に二酸化炭素と水に分解されてなくなってしまいます。エネルギーが再び植物に戻りません。そのため、”エネルギーの流れ”と表現されます。

オレンジの矢印が「炭素の循環」、紫の太い矢印が「エネルギーの流れ」になります。だいぶ省略しています。細かいところはツッコまないでください。


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