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SDGsを理解するための森の話

高校の生物で学習することを大きく2つに分けると、”生物の共通性”と”生物の多様性”の2つになります。ここまで紹介してきた、「生物は細胞からできている」「ATPという物質でエネルギーをやりとりしている」「遺伝子の本体はDNA」「酵素で体内の化学反応を促進している」などは”生物の共通性”になります。高校の生物の授業では、覚えることがたくさんあります。しかし、きちんと理解すると、恒常性のホルモンの働きのように自分達の体の仕組みを知ることになります。また、免疫、遺伝子の発現は、ここ数年世間を騒がせている新型コロナウイルスやワクチンの理解にもつながります。このように、生物の内容をきちんと理解することは、自分や身の回りでおきていることを正確に理解する助けとなります。

そして、今回から紹介する内容は”生物の多様性”です。地球上に多様な生物がいることを学ぶのですが、ここはみんなが苦手とする分野です。理由は、脈絡もなく暗記することが多いためでしょうか。生物の共通性においても、覚えることは多いのですが、ストーリーがあります。一方、多様性では「東北地方には夏緑樹林がおおい」「夏緑樹林は、ミズナラ, ブナ, クリからなる」など、用語を個別に覚えていくだけというところがあります
では、”生物の多様性”の分野から何を学び取ればよいのでしょうか?これは、私の個人的な感想になるのですが、「自然破壊や環境汚染ってどういうことか」を学ぶことだと思っています。例えば、川に生活排水を流すとします。これは環境汚染でしょうか?確かに、一時期排出した周辺は汚れますが、しばらくすると元に戻ります。木を切り倒すことや、川を堰き止めることはどうでしょうか?一見すると、自然破壊のように見えますが、同様のことを行っているヒト以外の哺乳類や災害で同様のことがおきます。その反面、地球の環境に大きな影響を与える人類の活動もあります。それらを知ることで、持続可能な生活を送るための分野だと、私は思っています。

植生の分類

「植生」と聞いて意味がわかりますか?「植物が生えること」と思った方、正解です。地球上(とりあえず、陸上)に多様な生物がいるのは、植物がいるからです。地球の各地における植物の集まりを植生といいます。実際、植生の調査となると、山の中に10m四方のロープを何箇所もはって、そこに生えている植物を片っ端から調べていきます。ただ、高校の生物ではそこまでせず、それぞれの地域で一番おおく生えている植物種(優占種)を学習します。というのも、旅行で別の地域に行くと山の様子が違うように感じるのは、この優占種の違いによるものです。この優占種によって決まる森林の外観上の様相を相観といいます。
ちなみに、この相観は、草や低木がまばらに生えている荒原、主に草本からなる草原、樹木が密に生育している森林の3タイプに分けられます。

「相観」はこんな感じでしょうか?また、木の上の部分がつながっていることを「林冠」といいます。

植生と環境

植物が生育するには、適した環境があります。光・温度・土壌・水などです。教科書では土壌について詳しく説明されていたりするのですが、それはちょっと後回しにして、先に光の話をします。植物にとっては、光は必要不可欠です。当然、高いところの方が光をたくさん浴びることができるのですが、種類によって背の高さに限界があります。そのため、森林には高木, 亜高木, 低木, 草本層といった垂直方向の層状の構造があります。当然、高木層に一番光があたるのですが、遠くから山や森をみると1つの大きな緑の塊にみえますよね。このように、高木の葉が見かけ上つながって森林表面を覆っている部分を林冠といいます。また、森林の地表に近いところを林床といいます。

これを階層構造といいます

この垂直方向の高木層とそれ以外の層の植物でどのような違いがあるのかというと、光合成の効率でしょうか。そもそも光合成とは、植物が水と二酸化炭素をとりこんで、光のエネルギーを利用してブドウ糖を生成することです。この時に、酸素が発生することから、この分野においては、どれくらいの光が当たれば、どれくらいの酸素を発生させるのかが話題になってきます。同時に植物は生物ですので、呼吸をして、酸素を消費しています。そのため、植物の光合成の量を測るのに、特殊な箱に植物を入れて、光を当てて、発生した酸素の量を調べた場合、この時発生している酸素の量は光合成で発生した酸素の量から呼吸で使用した酸素分を引いたものになります。これを見かけの光合成(速度)と言います。そこで、光が全くない箱でその植物を育てて、呼吸でどれくらい酸素を使うか調べます。そして、見かけの光合成で発生している酸素量に呼吸で使用した酸素量を足すことで、本来の光合成で発生した酸素量(真の光合成速度)が分かります。

説明が前後しましたが、植物の光合成の効率は「光合成速度」という形で表現します。特定の時間で、二酸化炭素をどれだけ吸収したかなどで測定します。今後は、この光合成速度という言葉を使います。

陽キャと陰キャ

先述したように光合成速度には、真の光合成速度とそこから呼吸の分を差し引いた見かけの光合成速度があります。光が全くないときは、光合成速度が0なのですが、少しでも光があると光合成は行われます。ただし、光が弱すぎる場合は、ほとんど光合成が行われないため、二酸化炭素の吸収速度は呼吸による二酸化炭素の発生速度を下回ります。ある程度の強さの光になると、光合成による二酸化炭素吸収量と呼吸による二酸化炭素の発生量が同じになります。この二酸化炭素の吸収量と発生量が同じになる光の強さを、光補償点といいます。また、光が強くなればなるほど光合成速度が上昇するのですが、ある程度でとまります。これ以上光が強くなっても光合成速度が上がらないという光の強さを、光飽和点といいます。

上記の内容をグラフにまとめました。

ここで、サブタイトルの回収になるのですが、植物には強い光が得意な陽樹(陽葉)と弱い光が得意な陰樹(陰葉)に分かれます。もう少し詳しく説明すると、陽樹は光補償点も光飽和点も高い植物で、陰樹は光補償点も光飽和点も低い植物です。これだけ聞くと、光飽和点の高い陽樹の方が光合成速度が高いわけですから、陽樹の方が優れているように思えます。しかし、陰樹の光補償点が低いということがとても重要です。というのも、光補償点が低いということは、少しの光で見かけの光合成速度がプラスになるということです。反対に、陽樹はたくさん養分を作れるので一気に成長できるのですが、ある程度の強さの光がないと、見かけの光合成速度がプラスにはなりません。地球はいつも光に溢れているわけではないので、弱い光でも見かけの光合成速度がプラスになる、つまり少ない光で成長できる陰樹はとても重要な存在となっています

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