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免疫の予行演習

免疫で出てきた細胞について詳しく説明する第二弾です。前回の記事と合わせて理解が深まれば良いと思っています。

人が変わってる?

何種類もある免疫の中で、忘れてはいけないのがB細胞です。『はたらく細胞』では、好中球やマクロファージ、キラーT細胞が肉弾戦で抗原に向かう中、バズーカ(水鉄砲)のようなものを持って、記憶細胞と共に行動している細胞です。このバズーカの中にあるものが抗体で、抗体はヘルパーT細胞の指示のものと抗原に合わせて作られる特殊な武器です。作中では、B細胞に扮したキャラクターが、抗原に応じてバズーカの中身(抗体)を新しくして、抗原に向けて発射しています。しかし、実際のB細胞の働きはちょっと違います。抗体を作って発射することは間違えではないのですが、作中のように抗原に応じてバズーカの中身を変えることをしません。ヘルパーT細胞の指示ももと、特定の抗原に対する抗体入りのバズーカを手にしたら、一生手放しません。というか、B細胞ではなく、バズーカを装着した抗体産生細胞に変わります。言い方をかえると、抗原提示を受ける前のB細胞は抗体を作らず(バズーカを持たない状態)、抗原提示を受けて抗体産生細胞になってから抗体をつくります(バズーカを持った状態)

抗体って何?

この抗体ですが、もとは免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質です。このタンパク質の不思議さを説明すると、可変部と定常部に分かれることです。というのも、タンパク質はDNAに書かれた設計図(遺伝子)をもとに作られます。遺伝子の内容は決まっているので、書き換えて、別のタンパク質を作ることはできません。しかし、免疫グロブリンの可変部をつくる遺伝子は、抗原提示を受けてから書き換えられます(*)。そのため、抗体を作る遺伝子から多様な抗原に応じた抗体を作ることができます。

*正確には、書き換えるのではなく、抗体を作る遺伝子の組み合わせを変えるのですが、この仕組みを発見したのが1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進博士です。

2回風邪をひかない

おたふく風邪は1回かかればもうかからないよ」という話を聞いたことはありませんか?絶対にかからないわけではないのですが、特に問題がない限りはかかりません。これは、インフルエンザなどでも同じことがおきており、この仕組みは免疫の分野においてはとても重要です。インフルエンザを例にとると、感染することで適応免疫が働きます。簡単に言うと、ヘルパーT細胞の分析のもと、抗体産生細胞が抗体を作り、インフルエンザの動きをとめて、マクロファージやキラーT細胞が抗原を攻撃します。ただ、これにはそれなりに時間がかかります。インフルエンザの場合は、3日ほど熱が出るのですが、これはまさに体内でマクロファージや抗体産生細胞ことB細胞が働いている証拠です。そして、熱が下がっても自宅待機を求められるのは、熱を上げるなどのサポートは必要なくなったものの、体の中にはインフルエンザウイルスが残っており、全て退治するのに一週間くらいかかるということです。おそらく、体の中に侵入し始めてから完治するまでは、もっと長い期間がかかっています。しかも、T細胞や抗体産生細胞の一部は記憶細胞として体に残ります。すると、再び同じ型のインフルエンザウイルスが侵入しても、記憶細胞が反応して1回目は1週間以上かかった対応(適応免疫)が、短時間で対応できるようになります。この1回目に抗原に侵入されて対応することを一次応答2回目に速攻対応することを二次応答といいます。一次応答は長い間体調不良になるので実感することができますが、二次応答はそもそも体調不良にすらならないので実感できません。ただ、血液中の抗体量などを調べるとすごい量になっており、感染していることがわかります。

二次応答の抗体量のグラフはだいたいこれくらいです。2日目ではなく、2回目では1回目の数十倍の量の抗体が作られます。2回目の感染はすぐに対応できる丈でなく、抗体の量が多いことも軽い症状ですむ理由です。

ワクチンは予行演習

この二次応答を人工的に引き起こさせる。言ってみれば、免疫細胞に予行演習をさせるのが予防接種(ワクチン接種)です。病原性を弱めた抗原をわざと注射することで、予行演習として一次応答を引き起こさせ、本格的に感染した時に、すぐ二次応答を起こさせるようにします。これによって、小児麻痺や子宮頚がんなどを予防できるようになったのですが、新型コロナウイルスの一件から正しくない情報が出回るようになっているのも確かです(正確には、以前から予防接種に関する誤った情報は多いです)。
例えば、インフルエンザの予防接種をしても感染することがあります。これは、インフルエンザのワクチンは予想して作られるため、実際に流行しているウイルスと異なることがあるためです。また、健康被害が発生することがありますが、これはワクチンでは抗原を注射するわけですから、体調や体質によって悪影響が発生することがあります。これは、コンディションが悪い時に練習試合をして、苦戦もしくは負けてしまうようなものです。不安がある場合は、お医者さんに相談すべきでしょう
新型コロナウイルスの一件で、知り合いにワクチンの仕組みを説明する機会がそれなりにあったのですが、予行演習というのはわかりやすかったらしいです。特に、体調が悪い時に予行演習をすると失敗して怪我をするなど。ただ、RNAワクチンとそれに伴う副反応は理解しにくかったらしいです。というのも、「RNAって何?コロナの一部じゃないの?」というものでした。これに関しては、生物はRNA(DNAのコピー)の情報をもとにタンパク質を作ると言う、セントラルドグマを理解しなければなりません

これまでのワクチンは抗原そのものかその一部を体に入れていますが、RNAワクチンはウイルスの設計図を体に入れて、私たちの細胞にウイルスの体の一部を作らせます。この時、私たちの細胞からウイルスの一部が出てくるので、免疫細胞は私たちの体の細胞ごと攻撃してしまうことがあります。これが筋肉痛や発熱などの副反応となっており、他のワクチンでは経験することがないため、不安になったようです。
また、私の知り合いで、ワクチン接種のあとしばらくしてコロナウイルスに感染した人がいました。型が違ったというのもありますが、彼が感染した一番の原因はハードワークだと思います。いくら予行演習をしても、本番の試合でコンディションが悪かったら意味がないですよね。パンデミックはこりごりですが、疲れた時は誰にも遠慮することなく休息できるような優しい社会になってほしいものです。

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