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「怖くないよ」とは言ってみたけれど、本当は怖いアートのお話

先日「jazzは気になるけどライブハウスに行くのは怖い ~怖くないライブハウス3選」という記事を書かせて頂き、これが沢山のスキを頂きまして、本当にありがとうございます。

書いていたら私もまたライブハウスに行きたくなり、月末に新宿ピットインに行くことにしました。とても楽しみです♪
出かけたらまたご報告させて頂きますね(^_-)-☆。

さて、☝この記事は読みようによってはかなりお節介な内容なのですが(どうしてもjazzが気になる方は多少腰が重くても出かけるものですし…) 、とはいえ私は20代は美術館学芸員、30代は雑誌ライターをしていまして、どちらも
「いかがでしょう? これって面白いんですよ(≧▽≦)」
という大きなお世話を焼くのが仕事。
習慣が抜けないといいますか、慣性の法則といいますか、ついついこういうことを言いたくなってしまうのです…。

ただ、この記事を書きつつも
「気軽にライブハウスやギャラリーや劇場に出かけて頂きたいけど、そもそもアートってかなり怖いものではあるんだよなあ…。
決して心地いいだけのものではないし、それで人生棒に振る人もフツーにゴロゴロいるし。
逆に怖いから惹かれるところもあるしなあ…」

とも思っていまして、これはあくまで個人的な意見ですが、アートの施設って本質的にはお化け屋敷というか、ホーンテッドマンションというか、エグイものを
「いいですか? これからエグイもの見せますよ~」
と親切にも告知してから見せてくれるアトラクションのようなところがあります。
想定された想定外というか…。

あるいは、すごく綺麗な包装のプレゼントを頂いて
わあ(≧▽≦)
と開けてみたら、空っぽだったみたいな(春樹風)
丁寧に差し出される恐怖みたいなところがあるのです。
何があるのかしら…
と、恐る恐るのぞき穴を覗いたら鏡が仕込んであって、自分が見えるみたいなものですね…(乱歩風)。

映画などはおおよその雰囲気を掴んでから視聴できますが(これはSF、あれはホラー…とおおよそのジャンルは告知されています)、それでも想定していない事態があるだろうから見るわけで、全部が予想通りだったらたとえサブスクでも「損した…(´;ω;`)ウッ…」と思いませんか?

つまりアートって、想定外の事件に出くわしたい、知らない技術や感性を知りたい、他者と出会いたい、未知のものに出会った自分がそこでどう変化するのかを体感したい、今の自分を変えたい…そんな欲求を一挙に満たしてくれるもの。
ライブハウスや劇場、ギャラリーや美術館…アートの施設はそんな「通常なら結構な痛みを伴うハードな体験」を日常に落とし込んだ、高度に社会化された地獄めぐりです。

そう考えると本当に安くてお得だし、まさに人類の叡智の結晶だなあ…と感慨深いですが、とはいえ社会化されすぎると、本来のエグみが薄まって、逆に美味しくなくなることもあります。
おしゃれで心地良いんだけど、うーん、正直退屈だな。ピンとこないな。刺さらないな…と。
薄めないと濃すぎるから薄めたんだけど、薄めすぎると全然美味しくないという市販のめんつゆ的な状況とでも言うのでしょうか…。

この濃度の調節が、アートの施設の中の人達(ライブハウスの支配人や学芸員、ギャラリスト、小屋主さん…etc)の腕の見せ所なのかもしれません。
アート本来のエグミ、野性味、不可解なところ不気味なところを殺さずにむしろ活かし、とはいえお客様を取って喰わない安全性は確保しつつ、いろいろなコンディションの方がいることを想定しつつどんな観客にも一定の愉しみ・満足感は提供し、しかしながら素質がある人は時にはとって喰う(とりこにする)くらいの
まあまあ安全な魔境作り。
※これはある意味で本屋さんもそうだと思いますが、話が広がりすぎるのでそれはまた別の機会に…

学芸員の国家資格をとるときの実習で出会い、以来ずっと親しくさせて頂いている先輩学芸員さんがいます(実習先の美術館ですでに働いていたらした方)。
彼女はよく
「アーティストなんて(いい意味で)変態ばっかり。変態じゃなきゃこんなこと一日中やってらんないわよ」
と言い、
「だけど変態だから見えるものも掴めるものも沢山ある。大変な仕事を勝手にやってくれる人達でもある。私達は彼らをリスペクトしつつ、皆さんにご紹介するだけです」
ととても謙虚、かつアーティストに対しても非常に率直で(先生、先生と崇め奉らない)、それでいてアートやアーティストに常に最大級の尊敬の念を払っているという、ものすごいバランス感覚をお持ちで、私は今も昔も彼女の言葉を大切にしています。

これ以外も名言多数な先輩

彼女はよく
「アートが分からない? ピンとこなければこないでいいのよ。誰でも好みがあるんだから。
ただ美術館に入ると身構えちゃうっていう人は、受けた教育が悪かったんだと思う。美術館はお勉強する場じゃないです。最低限のルールさえ守れば(入場料を払うとか、壁から外して持ち出さないとか)あとは自由にしていいの。正解なんてないから、「なんか、かわいい」とか「暗すぎてよくわかんない」とか「これ何?」とか感想もなんでもいい。正直にどんどん言えばいい。要は全力(ぜんりょく)リラックス、力を抜いて自然に見てみるといいのよ」

と言い、実際一緒に絵を見ていると「あら、かわいい~」とか「この人仕事早いわね。一年でこんなに描いてる」「この色使い。なんか悩んでたのかしら~」なんて、肩の凝らない感想をつぶやかれています。

ただ一方で
「絵って人間と同じで、少し時間をかけて付き合うことも必要よ。人も一度ちょっと会っただけじゃ分からないでしょう。描いた人だってそれなりの時間をかけてるんだから、見る人も『つまんね』って言ってすぐに放り出さないで、少し付き合ってみる。そこがスタートな気はするけどね」

「まずはキャプション(絵の傍に貼ってある説明書)を読むより、ただ向き合ってみる。それから説明を読む。興味が湧いたら図録や本も読みたくなるけど、それも興味が湧いたらでいいのよ。
絵葉書を買って、しばらく見てるうちに好きになることもあるよね?」


マッチングアプリで出会っても、「最低3回は会ってみよう」といいますよね。映画評論家も同じ映画を複数回見たりする。1回だと、ビックリしたり悲しくなったり、目の前の情報処理が大変で冷静に対象を感じられない。だから「多少の時間をかける」のが愉しみを見出すコツかもしれません。
サブスクで音楽をどんどん聞き流してしまうのが、逆にコスパが悪いのでは? という理屈はそこにあります。何回か触れないと元がとれない、本当の美味しさに出会えないものって沢山あるのです。

ちなみに私もジャズのライブがただ楽しい♪ではなく、
これはすごいものだ、
「ぬ、沼だ…」
と実感したのは、やはり何回か出かけてからだと記憶しています。

絵画に関しては学芸員資格をとったり、美大受験予備校で働いたり、今も暇さえあれば美術館に行き、ギャラリーに行き、しょっちゅう図録を眺めているくらい大・大・大好きですが、はじめは
「よくわかんないけど気になるなあ…」
というぼんやりスタートでした。
まあ、本気の恋って、実はそんなものかもしれません。

先輩はこうも言っていました。
「とはいえ、アートと無縁の人生っていうのもアリなのよ。それはそれで、ある意味ですごく幸せなのかもしれないし。
現代の「アートっていう概念」に入りきらない、当たり前みたいな生活の中にも「アート」はいっぱいあるから、それを吸収している人なのかもしれないし。
普通の生活が心から楽しくてアートが全然必要ないならそれは達人だし、ある意味でその人がアーティストなんだから」

というわけで、
「アートくらい理解しなくては…」
と無理する必要もない
、それは本当にそうだと思うのです。
だって…

大好きな本

みんな病気で、みんないい(みすず風)。
それぞれのスタイル、スタンスがありますから…。

ところで私はうちのお蕎麦屋さんに来るお客様をインタビューする「蕎麦屋の女将さんが聞いた〇〇の本当の話」という連載をしていますが、連載のスタートにあたって編集者の知人から
「こう言っちゃ申し訳ないけど、一般人の話なんて面白いかなあ? 」
と何回も言われました。
インタビューなんてひとかどの、何かに功績のある有名人の話を聞くものだよ…と。
ですがつい先日、同じ人が
「いやあのお寿司屋さんの話、めちゃくちゃ面白かった!! 映画化できるね」
なんて言っていまして

梅川さんはいわゆる有名人ではないかもしれませんが、本当に、ビックリするほど面白いのです。そう、いざ本気で話を聞いてみると、まちゆく一見フツーの人お話に引き込まれる…そんなことは多々あります。
だって、歪(いびつ)でない人間なんていないから、みんなどこか変で、翳があって、それでいて可愛くて…目が離せない。
まさに人間みな病気、この世は素敵なホスピタル。

そして私達は、普段はそんな現実(人間みな病気)をすっかり忘れて無邪気に暮らしているけれど、変態さん達(誉め言葉です)が作ってくれたアートを通してたまに真実に立ち返ると、つまり時折鏡を見るような瞬間があると

あー、そうだったそうだった、もともと病気(変態)ですしね、私、私達…
でもそこがなんとも言えずいいですね…

と思い出し、心が整い、少しだけバージョンアップしてまたいつもの生活に戻っていける…。
アートは心を高揚させる浮遊感や酩酊感ももたらしますが、良質のアートは同時にこういった静かで力強い気づきを、覚醒をもたらすような気がします。

というわけで長々と「怖くない」とは言ったけれど、アートって本当は怖いものかもしれませんね(でもほとんどの人は生還できますから、大丈夫ですよ~)というお話をさせて頂きました。
え、でもほとんどの人は生還できるって、出来ない人もいるんですか…(怖)と思われた方、大丈夫です。万が一沼にはまっても、魔境に魅入られたとしても、実はそこからが至福千年…かもしれません…。

とまあ、こういうアートにまつわるお話はそれぞれ持論がおありだと思いますし、いろいろな見方や楽しみ方があっていいと思うので、青柳の言うことはどうもピンとこないなあ~と思われたら、私の記事は放っておいてどうかご自分の話をとっくり聞いてみて下さい。
あるいはライブハウスとか、美術館に出かけて、ご自身の心の動きを検証してみてはいかがでしょうか…。もうその行為そのものがアートだと思います。

今日はお節介なおばさんの話に付き合って下さって、どうもありがとうございましたm(__)m。


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