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森鴎外著、出口汪編訳(2013)『超訳 鴎外の知恵』ディスカヴァー・トゥエンティワン

挫折を味わった人の心根に触れられた感

kindle unlimitedを利用して、このシリーズを読み進めていまして、今回は森鴎外について読んでみました。

本著は「はじめに」の部分で、森鴎外の人物像を簡単に要約されていて、どのような人生を歩んできたのかを簡潔に理解することができます。その解説の中でも「実は、鴎外は順風満帆な人生を歩んだわけではない」ことや「幾度も挫折を味わい、そのたびに強靭な意志力でそれを乗り越えていった」という部分とその内容に共感を抱いた。

わたしも今までかなりの数の挫折を味わったので、今では笑い話で済んでいるけど、その最中のときは、たまらなく嫌だった。でも不思議と未だ生きているんですよね。そして挫折を経験すると、何よりも自分が強くなる。著者とその点では共通なのだろうと、勝手に思い込んでいる一人の読者である。

さて、本書は鴎外の「知恵袋」、「心頭語」、「慧語」の三冊の箴言集から採用した知恵だそうである。残念ながらわたしはこれらの本を読んでいないが、これらのうち最初の二冊についてはフランス革命勃発の前年に刊行されたクニッゲの「交際法」を原典としているらしい。

本書の知恵に相当する内容に関しては、至極納得できるものばかりであり「自分の価値は他人が決めるものではなく、自分自身が定めるものである」など、社会人となって会社勤め等をすると、どうしても第三者が自分の評価を下すことになり、あらぬ競争や優劣に支配されそうになるが、それでも自分なりの軸というものはブレずに生きることが、なにより自分を有意義に示せるものなのかも知れない。

そして人生の大半は、いかに選択するかで決まると述べ、その際に必要なのは、自分自身の趣味の高さであり、的確な判断力であると説いている。まさに今の自分があるのは、その時々で自分なりに的確に判断した結果でもある。

また、事をなすには、まずは自分の心理状態を冷静に観察し、気まぐれに左右されてはいけないと解く。さらに、どんな優秀な人間でも、いつかは過失を犯すもので、その時は誰も容赦すること無くあなたを非難・攻撃するだろうという点は、挫折を味わったことがある人にはよく分かるのかも知れない。鴎外は、あえて敵の攻撃を受けてみるのもいいと言い、敵から攻撃されることで、かえって自分の器量は大きくなっていくものと解説している。

このように、読み進めていくたびに、何故かその解説に頷いている自分がいる。
本書を人生訓として読むと、それなりに多くの読者に共感を持って得られる部分が多いと思う。気軽に読めるこのシリーズは、昼休みを有用な読書の時間に変えてくれる。

短い時間で、人生訓を得られるのは、もう叱ってくれる人がいない世代には有り難い限りである。本書を読んだ後、比較のために、鴎外の「知恵袋」、「心頭語」の原典であるクニッゲの「交際法」を読んでみたくなった次第である。

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