見出し画像

マガジンハウス編(2017)『平尾誠二 人を奮い立たせるリーダーの力』株式会社マガジンハウス

実際に指揮してきたリーダーのあるべき姿がここにある

本書をアマゾンで購入したのは2019年10月、それ以来、積読本として長年眠っていた。
本書を読み進めるうちに、平尾誠二という人の素晴らしさにのめり込むかのように一心不乱に読み進めてしまった…

わたし自身は経営学の学位持ちで、それなりに組織論などにも精通していると個人的には思っているが、学問の世界では、現場で実際に指揮にあたる監督やリーダーなどの経験者目線の考えや生き様のようなところは手薄であり、盛られた情報は数多くあれど、真面目に真摯な文章で書かれたものは少ない。本書は、その数少ない現場リーダーの考え方を素直に理解できるもので、もっと早めに読んでいればと、自分自身を後悔させるに十分な卓越した内容だった。

巻頭の京都大学山中教授からの「人を叱るときの4つの心得」で触れられている平尾さんの4つの言葉が、端的に人柄を表していると感じられた。

本書を読んで感じたのは、平尾さんがトライ・アンド・エラーで試行錯誤しながらやってこられた成果が、今やラグビーに限らず、ビジネス面でも多く取り入れられてきているということだった…

やはり実践で戦いながら生まれる発想や戦略、人材育成等を含め、その洗練された内容や成果は、企業を一つの戦う団体としての活力と相似の関係であり、取り入れやすい部分でもあるのだろう… 読んでいて理にかなう考え方に、思わずうなずきながらも引き込まれる不思議… そんな内容が随所に展開されている。

例えば「場所に人を当てはめるのではなく、人に場所を当てはめる」という点、パフォーマンスを最大限発揮させるためには、予め決められた制約された場所ではなく、あたらしいフィールドを設け、その中で縦横無尽に活躍させるという志向も、昨今のビジネスではやられている考えであろう…

また、システムには限界があるという観点や、補欠をつくるところが日本スポーツのいけないところという観点も、うなるほどに理解できた…

リーダーシップの質や戦い、異質な人間を取り入れる許容力、洞察力、はたまた「意味を理解するかどうかで、成長の度合いが格段にかわる」という観点は、ただ単に型を教えるだけではなくて、どのような意味があるから自分はやるべきなのかという自主性をもたせる意味で、従業員教育にも取り入れるべき内容でもあろう…

本書は、随所に一般企業でも考えるべき指摘が散りばめられており、その洞察力に素直に驚かされてしまった。

最後に専門性という観点で、「知っている」だけでは、専門性にはならないと解き、昨今にも十分当てはまると思うが「情報化が進んだ社会での知識は、誰もが得ようとすれば得ることができる。つまり、誰もが知り得る知識は、さらに深めたものでなければ専門性にはならない」という考えはまさに的を得た考え方である。今は検索すれば知識に相当するものは瞬時に返答され、またAIを使えば、それなりの文章や画像でさえも享受できる時代である。そのなかで専門性を発揮するには、さらにそれらを深めた知見が必須になるわけで、わたしたちはそれ以上の深みのあるものを提供できなければ専門性があるとはいえないのであろう…

よく現場を知る人は凄いと言われるが、まさにラグビーを通じて、その現場から世界を、そして未来を見ていたひとなのだろう…

かつての活躍された姿を我々の脳裏に刻んでくれたと同時に、こうして文章として魂が息づいている、その教えに感謝する次第である。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?