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春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山 新古今和歌集 巻第三 夏歌 175(巻頭歌) 吉海直人(1953- )『百人一首の新考察 定家の撰歌意識を探る』世界思想社 1993年9月刊


吉海直人(1953- )
『百人一首の新考察
 定家の撰歌意識を探る』
世界思想社 1993年9月刊
308ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4790704742

春過ぎて夏来にけらし白妙(しろたへ)の衣ほすてふ天の香具山
 新古今和歌集 巻第三 夏歌 175(巻頭歌)

「持統天皇(第四十一代)は歌人としては無名に等しく、
残された詠歌も非常に少ない
[…]
『新古今集』に至って
「春過ぎて」歌が一首撰入されただけで
[…]
たった一首の歌によって、
永遠とも言えるような知名度を獲得している。」
p.18-19

「持統天皇が百人一首に撰ばれたのは、
決して歌人としてすぐれていたからでも、
「春過ぎて」歌の良さが認められたからでもない。

藤原公任[966-1041.2.4]などは
これを全く秀歌撰に入れておらず、
平安中期頃まではほとんど埋もれていた歌だった。
[…]
歴史的に外せない人物として、
百人一首の史観によって、
天智・持統の親子撰入が予定されていた
[…]
その後で組み合わせを考慮して、
天智の「秋の田の」歌が選ばれたと仮定すると、
すっきり説明できるようである。」
p.19

「「春過ぎて夏きたるらし白妙の衣ほしたりあめの香具山」
という『万葉集』の定訓など、
この[新古今集の]時代には存在すらしていない。
そういった[『万葉集』]享受史の流れを
無視してはなるまい。」
p.20

『新日本古典文学大系 11』
岩波書店 1992.1
「原歌は万葉集一[28 春過而夏来良之白妙能衣乾有天之香来山]、
四句「ころもさらせり(ほしたり)」。
古来風体抄
[こらいふうていしょう 鎌倉初期の歌論書。
藤原俊成著。式子内親王の依頼により、建久八年(1197)に撰進。
万葉集から千載集までの秀歌を引用し、
その歌風の変遷を示して短評を加えたもの]、
二句「なつぞきぬらし」、
四句「ころもかわかす」。
この訓の新古今集以前の出所未詳。」
p.67

「藤原京に遷都した持統天皇の御代においては、
眼前の実景として「衣ほしたり」でよかった。
これが神事に用いる
小忌衣(おみごろも 斎衣・浄衣)であれば、
天皇歌としては一層都合がよい。
しかし都が京都に遷ってからは、
もはや香具山は天皇にとって
神聖かつ身近な実景ではなくなってしまった。
そのためか『古今集』以降の勅撰集に
香具山の用例は見当たらず、
『千載集』に至ってようやく一例見られるくらいである。
ところが『新古今集』には四首もの歌が出ており、
まさに新古今時代に至って、
古代への憧憬を内包した
歌枕的存在(屏風絵の題材)として再評価されている。
一種の伝説的観念世界・幻想風景として
「衣ほすてふ」が機能している」
p.20-21

「定家は「白妙の衣」を卯の花の喩と見ていたと考えられている
(上條彰次「百人一首古注一本 持統帝詠「卯花」説の紹介」
『百人一首古注釈『色紙和歌』本文と研究』
新典社[1981.2])。

定家自身
「白妙の衣ほすてふ夏のきてかきねもたわにさける卯の花」
(『拾遺愚草』1887)
「夏の来て卯の花白くぬぎかふる衣乾るらし天の香具山」
(『拾遺愚草員外之外』4054)
等と本歌取りしている。」
p.21

吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して
 新典社選書 97』
新典社 2020年9月刊
「第二章「白妙の」は枕詞か
 持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」p.25-34
https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf

読書メーター
吉海直人の本棚(登録冊数8冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091377

百人一首の本棚(登録冊数15冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091294

https://note.com/fe1955/n/n6dc3d5d1929a
秋の田のかりほの庵(いほ)の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首の新考察
 定家の撰歌意識を探る』
世界思想社 1993年9月刊
308ページ

https://note.com/fe1955/n/n586a12682eab
秋の田のかりほの庵(いほ)の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第一章 天智天皇
「秋の田の」歌(一番)を読み解く」p.15-24
『日本語学』2017年6月号(第36巻6号)

https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf
春すぎて夏来にけらししろたへの衣ほすてふ天の香具山
田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第二章 「白妙の」は枕詞か
 持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」

https://note.com/fe1955/n/n0ba90ea3e6c6
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第三章 柿本人丸歌(三番)の
「ひとりかも寝ん」の解釈」

https://note.com/fe1955/n/n8a17ee829b0e
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第四章 柿本人丸歌(三番)の
「長々し」の特殊性」

https://note.com/fe1955/n/n4f431d990faa
かささぎのわたせる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第五章 大伴家持
「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む」

https://note.com/fe1955/n/n33fa91b5395e
天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第六章 阿倍仲麻呂
「天の原」歌(七番)の再検討 上野[誠]論を起点として」

https://note.com/fe1955/n/n1e1c79d9cfff
立別れいなばの山の峯におふるまつとし聞かば今帰り来む
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第七章 在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ」

https://note.com/fe1955/n/ncf668d55a127
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す 2
 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第八章 在原業平歌(一七番)の「ちはやぶる」幻想
 清濁をめぐって」p.97-113
『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』17
 2017年3月

https://note.com/fe1955/n/nd7cbc56bb2ef
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第九章
 在原業平歌(一七番)の
「水くぐる」再考 森田論を受けて」

https://note.com/fe1955/n/n0cd814798890
今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十章 素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考」

https://note.com/fe1955/n/nf5c13c161a9f
有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十一章『百人一首』の「暁」考
 壬生忠岑歌(三〇番)を起点にして」
『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』13
 2013年3月

https://note.com/fe1955/n/na4105dc83b68
久方の光のどけき春の日に静(しづ)心なく花の散るらむ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十二章 紀友則歌(三三番)の
「久方の」は「光」にかかる枕詞か?」
『解釈』683集(第61巻3・4号)
 2015年4月

https://note.com/fe1955/n/nb4ff7c92d48c
契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波こさじとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十三章 清原元輔歌(四二番)の
「末の松山」再検討 東北の大津波を契機として」p.179-199
 『古代文学研究』第二次23 2014年10月

https://note.com/fe1955/n/n3b8dec0bafab
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなを聞こえけれ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十四章 藤原公任
「滝の音は」歌(五五番)をめぐって 西行歌からの再検討」

https://note.com/fe1955/n/n16dc1cc3dbeb
大江山いく野の道の遠ければふみもまだ見ず天橋立
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十五章 小式部内侍
「大江山」歌(六〇番)の掛詞再考
 浅見論を契機として」
p.213-236
『古代文学研究』第二次 28
 2019年10月

https://note.com/fe1955/n/nf6a845025e47
夜をこめて鳥の空音にはかるともよに逢坂の関はゆるさじ
吉海直人(1953- )『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊 
「第十六章 清少納言歌(六二番)の
「夜をこめて」再考 小林論の検証」
『日本文学論究』79 2020年3月

https://note.com/fe1955/n/nfda49d0f8bf2
よもすがら物思ふ頃は明けやらぬ閨のひまさへつれなかりけり
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十七章 俊恵法師歌(八五番)の
「閨のひま」再考」
『解釈』第66巻3・4号 2020年4月

https://note.com/fe1955/n/nd0476d50dc9f
み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十八章 参議雅経歌(九四番)の
「さ夜更けて」の掛詞的用法」p.279-291
『解釈』第61巻9・10号 2015年10月

https://note.com/fe1955/n/n128163d33fd1
風そよぐならの小川の夕ぐれはみそぎぞ夏のしるしなりける
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
 2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十九章 従二位家隆歌(九八番)の
「夏のしるし」に注目して」
『解釈』第63巻9・10号 2017年10月

https://note.com/fe1955/n/n2fbd6ef83427
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す 2
 言語遊戯に注目して
 新典社選書 97』
新典社 2020年9月刊
312ページ

https://note.com/fe1955/n/nce8e9a0c3675
後鳥羽院(1180.8.6-1239.3.28)
『新日本古典文学大系 11
 新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
『後鳥羽院 第二版』
筑摩書房 2004.9
『後鳥羽院 第二版』
ちくま学芸文庫 2013.3

https://note.com/fe1955/n/n8dfcbf3d6859
式子内親王(1149-1201)
 田渕句美子(1957- )
『新古今集 後鳥羽院と定家の時代(角川選書)』
角川学芸出版 2010.12
『異端の皇女と女房歌人 式子内親王たちの新古今集』
KADOKAWA(角川学芸出版) 2014.2
平井啓子(1947- )
『式子内親王(コレクション日本歌人選 010)』
笠間書院 2011.4
馬場あき子(1928.1.28- )
『式子内親王(ちくま学芸文庫)』
筑摩書房 1992.8
 

https://note.com/fe1955/n/n47955a3b0698
後鳥羽院宮内卿
(ごとばのいんくないきょう、生没年不詳)
『新日本古典文学大系 11
 新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1

https://note.com/fe1955/n/n34d98221cddf
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫つて行つては呉れぬか
永田和宏(1947.5.12- )
『あの胸が岬のように遠かった
 河野裕子との青春』
新潮社 2022年3月刊
318ページ

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