み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり 吉海直人(1953- )『百人一首を読み直す 2 言語遊戯に注目して』新典社 2020年9月刊 「第十八章 参議雅経歌(九四番)の「さ夜更けて」の掛詞的用法」p.279-291『解釈』第61巻9・10号 2015年10月
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して
新典社選書 97』
新典社 2020年9月刊
312ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4787968475
2021年6月18日読了
福岡市総合図書館蔵書
「第十八章
参議雅経歌(九四番)の
「さ夜更けて」の掛詞的用法」p.279-291
『解釈』第61巻9・10号 2015年10月
み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり
新古今和歌集 巻第五 秋歌下 483
擣衣の心を
建仁二年(1202)八月二十五日、明日香井集 詠百首和歌 秋
「砧を打つ情景は
李白の「長安一片月、万戸打衣声、秋風吹不尽」(子夜呉歌」)
等が踏まえられている。
夫を兵役にとられた妻が、夫の帰りをじっと待つ
という漢詩の伝統的なイメージが哀愁感を付与している。
漢詩を踏まえつつも、
吉野の秋風に重点をおいているところに新鮮味がある。」
p.282「一 問題提起」
「勅撰集の「砧」の用例は、
三代集[古今・後撰・拾遺]には全く見られず(非歌語)、
永承四年(1049)11月9日内裏歌合で初めて
「擣衣」が歌題として登場し、四首詠まれている
(そのうちの三首が『後拾遺集』に撰入)。
その後『千載集』に五首撰入し、そして
『新古今集』に至って十二首も採られている。
「砧」は新古今時代に、
哀愁を帯びた歌語として流行したようである。」p.282
「み吉野の山の白雪つもるらし古里寒くなりまさるなり」
坂上是則 古今和歌集 巻第六 冬歌 325
「古来、吉野山の歌と言えば、必ずといっていい程、
「雪」が詠まれてきた。
『後拾遺集』あたりから「桜」の歌が増大し、
特に西行以降に爆発的に流行しているが、
それ以前は雪(遅い春を待つ心)が本命であり、
雅経歌の本歌である是則歌がその好例であった。
雅経歌は、これまで無縁だった
吉野と「砧」を結びつけている。
秋の夜の静寂の中、
吉野山から冷たい風が吹いてくる。
その風に乗って、
どこからともなく聞えてくる砧の音(冬支度?)
によって故郷の寒さが一層身に染みる。
吉野の冬はもうそこまでやってきている。」
p.283「二 「さ夜更けて」に注目」
「「秋風」と「さ夜更けて」の結びつきはしっくりしていない。
「秋風」は「吹く」ものであるから、
時間的経過を意味する「さ夜更けて」には直接つながらない。
その後の歌詞をたどってみても、
「秋風」を受ける語はこの歌にはどこにも見当たらない。」p.284
「「更く」は下二段活用の動詞であるから、連用形は「更け」となる。
それに対して「吹く」は四段活用の動詞なので、連用形は「吹き」となる。
たとえ終止形は同じであっても、連用形はことなっている。
そういった文法的な問題があるにもかかわらず、
定家は秋風が吹くことを「風吹きて」ではなく、
「風吹けて」と詠じている。
さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫
新古今和歌集 巻第四 秋歌上 420
定家朝臣 家に月五十首歌よませ侍りける時
建久元年(1190)『花月百首』
「風ふけて」を詠み込んだ歌としては最も早いものと思われ、
定家が発明した造語(新歌語)という可能性も高い。
御子左家歌人達の中で容認・定着していったことがうかがわれる。
「ふけて」は、
「更く」に「吹く」が掛けられた新種の掛詞ということになる。」
p.285-286「三 新歌語「風ふけて」」
「『六百番歌合』建久四年(1193)
『老若五十首歌合』建仁元年(1201)二月
にも、
「秋風小夜更けて」は詠まれていて、
既に歌語表現として市民権を得ていた。
そのためか
[下河辺長流 1627-1686]
『百人一首三奥抄』の「み吉野」歌注において、
秋風小夜更けてといふ詞、秋ふけかぜ吹夜のふけたるみつのものを兼たり。(『百人一首注釈書叢刊 10 百人一首三奥抄・百人一首改観抄』和泉書院 1995 61頁)
と三重の掛詞説が唱えられている。
これが「小夜更けて」掛詞説を提唱した嚆矢かと思われる。
そうなると「小夜更けて」を掛詞とする説は、
江戸時代に既に存していたことになる。
それにもかかわらず、市販されている百人一首本で、
「更けて」を掛詞と説明しているものは見当たらない。」
p.289「五 まとめ」
「「風ふけて」を考案した定家は、
雅経歌の「小夜更けて」を新しい掛詞表現としてプラスに評価していた。
だからこそ定家はこの歌を百人一首に撰入させたのである。」p.290
「第一章
天智天皇「秋の田の」歌(一番)を読み解く」
『日本語学』2017年6月号(第36巻6号)
https://note.com/fe1955/n/n586a12682eab
「第二章 「白妙の」は枕詞か
持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」
https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf
「第三章
柿本人丸歌(三番)の「ひとりかも寝ん」の解釈」
https://note.com/fe1955/n/n0ba90ea3e6c6
「第四章
柿本人丸歌(三番)の「長々し」の特殊性」
https://note.com/fe1955/n/n8a17ee829b0e
「第五章
大伴家持「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む」
https://note.com/fe1955/n/n4f431d990faa
「第六章
阿倍仲麻呂「天の原」歌(七番)の再検討
https://note.com/fe1955/n/n33fa91b5395e
「第七章
在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ」
https://note.com/fe1955/n/n1e1c79d9cfff
「第八章 在原業平歌(一七番)の
「ちはやぶる」幻想 清濁をめぐって」
https://note.com/fe1955/n/ncf668d55a127
「第九章 在原業平歌(一七番)の
「水くぐる」再考」
https://note.com/fe1955/n/nd7cbc56bb2ef
「第十章
素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考」
https://note.com/fe1955/n/n0cd814798890
「第十一章『百人一首』の「暁」考
壬生忠岑歌(三〇番)を起点にして」
https://note.com/fe1955/n/nf5c13c161a9f
「第十二章
紀友則歌(三三番)の「久方の」は「光」にかかる枕詞か?」
https://note.com/fe1955/n/na4105dc83b68
「第十三章
清原元輔歌(四二番)の「末の松山」再検討
東北の大津波を契機として」
『古代文学研究』第二次23 2014年10月
https://note.com/fe1955/n/nb4ff7c92d48c
「第十四章
藤原公任
「滝の音は」歌(五五番)をめぐって
西行歌からの再検討」
https://note.com/fe1955/n/n3b8dec0bafab
「第十五章
小式部内侍
「大江山」歌(六〇番)の掛詞再考」
https://note.com/fe1955/n/n16dc1cc3dbeb
「第十六章
清少納言歌(六二番)の
「夜をこめて」再考証」
『日本文学論究』79 2020年3月
https://note.com/fe1955/n/nf6a845025e47
「第十七章
俊恵法師歌(八五番)の
「閨のひま」再考」
『解釈』第66巻3・4号 2020年4月
https://note.com/fe1955/n/nfda49d0f8bf2
第十八章
参議雅経歌(九四番)の「さ夜更けて」の掛詞的用法
第十九章
従二位家隆歌(九八番)の「夏のしるし」に注目して
初出一覧
後書き
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す』
新典社 2011年5月刊
262ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4787967916
https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/796282843779690
吉海 直人(よしかい なおと)
1953年長崎県生まれ
同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科特別任用教授
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/talk/japanese/detail01/
吉海直人さんの本を読むのは7冊目です。
読書メーター
吉海直人の本棚(登録冊数7冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091377
百人一首の本棚(登録冊数13冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091294
その半分7冊は吉海直人さんです。
https://note.com/fe1955/n/n586a12682eab
秋の田のかりほの庵(いほ)の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第一章 天智天皇
「秋の田の」歌(一番)を読み解く」p.15-24
『日本語学』2017年6月号(第36巻6号)
https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf
春すぎて夏来にけらししろたへの衣ほすてふ天の香具山
田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第二章 「白妙の」は枕詞か
持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」
https://note.com/fe1955/n/n0ba90ea3e6c6
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第三章 柿本人丸歌(三番)の
「ひとりかも寝ん」の解釈」
https://note.com/fe1955/n/n8a17ee829b0e
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第四章 柿本人丸歌(三番)の
「長々し」の特殊性」
https://note.com/fe1955/n/n4f431d990faa
かささぎのわたせる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第五章 大伴家持
「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む」
https://note.com/fe1955/n/n33fa91b5395e
天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第六章 阿倍仲麻呂
「天の原」歌(七番)の再検討 上野[誠]論を起点として」
https://note.com/fe1955/n/n1e1c79d9cfff
立別れいなばの山の峯におふるまつとし聞かば今帰り来む
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第七章 在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ」
https://note.com/fe1955/n/ncf668d55a127
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す 2
言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第八章 在原業平歌(一七番)の「ちはやぶる」幻想
清濁をめぐって」p.97-113
『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』17
2017年3月
https://note.com/fe1955/n/nd7cbc56bb2ef
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第九章
在原業平歌(一七番)の
「水くぐる」再考 森田論を受けて」
https://note.com/fe1955/n/n0cd814798890
今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十章 素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考」
https://note.com/fe1955/n/nf5c13c161a9f
有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十一章『百人一首』の「暁」考
壬生忠岑歌(三〇番)を起点にして」
『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』13
2013年3月
https://note.com/fe1955/n/na4105dc83b68
久方の光のどけき春の日に静(しづ)心なく花の散るらむ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十二章 紀友則歌(三三番)の
「久方の」は「光」にかかる枕詞か?」
『解釈』683集(第61巻3・4号)
2015年4月
https://note.com/fe1955/n/nb4ff7c92d48c
契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波こさじとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十三章 清原元輔歌(四二番)の
「末の松山」再検討 東北の大津波を契機として」p.179-199
『古代文学研究』第二次23 2014年10月
https://note.com/fe1955/n/n3b8dec0bafab
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなを聞こえけれ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十四章 藤原公任
「滝の音は」歌(五五番)をめぐって 西行歌からの再検討」
https://note.com/fe1955/n/n16dc1cc3dbeb
大江山いく野の道の遠ければふみもまだ見ず天橋立
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十五章 小式部内侍
「大江山」歌(六〇番)の掛詞再考
浅見論を契機として」
p.213-236
『古代文学研究』第二次 28
2019年10月
https://note.com/fe1955/n/nf6a845025e47
夜をこめて鳥の空音にはかるともよに逢坂の関はゆるさじ
吉海直人(1953- )『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十六章 清少納言歌(六二番)の
「夜をこめて」再考 小林論の検証」
『日本文学論究』79 2020年3月
https://note.com/fe1955/n/nfda49d0f8bf2
よもすがら物思ふ頃は明けやらぬ閨のひまさへつれなかりけり
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十七章 俊恵法師歌(八五番)の
「閨のひま」再考」
『解釈』第66巻3・4号 2020年4月
https://note.com/fe1955/n/nce8e9a0c3675
後鳥羽院(1180.8.6-1239.3.28)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
『後鳥羽院 第二版』
筑摩書房 2004.9
『後鳥羽院 第二版』
ちくま学芸文庫 2013.3
https://note.com/fe1955/n/n8dfcbf3d6859
式子内親王(1149-1201)
田渕句美子(1957- )
『新古今集 後鳥羽院と定家の時代(角川選書)』
角川学芸出版 2010.12
『異端の皇女と女房歌人 式子内親王たちの新古今集』
KADOKAWA(角川学芸出版) 2014.2
平井啓子(1947- )
『式子内親王(コレクション日本歌人選 010)』
笠間書院 2011.4
馬場あき子(1928.1.28- )
『式子内親王(ちくま学芸文庫)』
筑摩書房 1992.8
https://note.com/fe1955/n/n47955a3b0698
後鳥羽院宮内卿
(ごとばのいんくないきょう、生没年不詳)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
https://note.com/fe1955/n/n34d98221cddf
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫つて行つては呉れぬか
永田和宏(1947.5.12- )
『あの胸が岬のように遠かった
河野裕子との青春』
新潮社 2022年3月刊
318ページ