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溶け出したわたあめ②
第二十話
(ユリ)
太陽は微笑み、空は青い。
雲一つない快晴は私の心と共鳴した。
冷えていた体はレベルMAXの辛味で季節を忘れるほど火照り、心も体も十分すぎるほど満たされていた。
やはり、鍋を選んで正解だったような気がする。
さらに君といることで居心地の良さを感じつつ、リラックスした状態。今までで感じたことのない充実感だった。
〆まで食べ終わり、お会計を折半で済ませる。
外に出ると、晴れとはいえど冷気がそこを支配していた。だけれど今の私には、心地の良いそよ風のようだ。サウナの後水に浸かるような、”ととのう”感覚。
気持ちが良い。
そして君を見ると、ほんのり口角が上がっているように見えた。またトクンと胸を打つ鼓動。
よかった。
君もこの食事の時間を楽しめていたのだと安堵する。
もう少しだけ一緒に居たかった私は、少し歩かない?と言う君の誘いに乗った。歩いている間も、途中で公園を見つけてベンチに座っている時も、一言も話さずただ心地の良いままに一緒にいた。
でも駅へ向かうのに少し歩く間だけはまたあの日のようにお喋りをした。
君は話をするほうではないと感じ取っているから、私はできるだけ楽しい雰囲気で話し続けた。
楽ではないけれど、全く苦しくない。
”私”を出すことよりは随分と易しいことだから。
笑って、楽しく、爽やかに。
そんな自分に徹することで、また君のあの笑顔が見たかった。それがたとえ偽りの自分だとしても、君にとっても私は居心地の良い場所であってほしいと願ってしまった。
今まで保ってきた心のバランスが
この居心地の良さによって
ゆっくりと音もなく崩れ始めることを
この時の私はまだ知らなかった。
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