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ささやかな夕方⑥

第六話

(ユリ)

家に帰りたくない気持ちと君の言葉につられてしまって、私は店の中へと入ったけれど、やはり彼ら二人と私だけという空間は緊張する。

入ってすぐ気持ちを整えた私は、少し後悔した。
この二人が店の権限を持っているわけないだろうに、今ここに大人はいない。いつもは確かマスターみたいな人がいた気がするのに。この二人を信じて勝手に入って、大丈夫だろうか。怒られないかな。そんな複雑な心を持ちつつも、どこにも行けない私はここに縋ってしまう。

そういえば。話さなくてもいいとは言ってくれたけど、全く話さないというのは違う気がしてきた。

「お名前、訊いてもいいですか?」

無難な質問で茶髪の男の子に話しかけてみる。
かしこまりすぎとにこやかに笑いながら気さくに答えてくれた。タクトという名前で、君とは同級生で同じ学校らしいことを知る。最初に感じた印象のまま、とても気さくでフレンドリー。私が一生懸命話す必要はなくて、少しホッとする。

少し冷えた身体を温めようと、ホットココアを頼んだ。時間外に頼む申し訳なさはあるが、流石に何も頼まない訳にはいかない。


その日、君の作るホットココアを初めて飲んだ。


芯まで温めてくれた甘さは私を溶かしていく。

温められた空気と体内へと染み込む甘さによって。

私はいつの間にか眠ってしまっていた。


もし今日ここに来ていなかったら。
この時眠らなかったら。
私たちは何でもないただの知り合いだったのだろうか。

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