見出し画像

note35 : 物々交換の本棚

とても心が躍る体験をした。


今日は東京蚤の市に初めて足を運んで、各地から集まる雑貨や本、紙物、服などが野外で風を浴び、人の手を渡って新しいお家をお迎えする様子を目の当たりにしてきた。


昨年の冬にこのイベントの存在を知り、次回は絶対に行きたいと思って半年前からカレンダーに予定を入れていた。


1人で行くのもいいけれど、一緒に楽しんでくれそうな友達に声をかけて、現地で待ち合わせをした。


目当てのものは特に決めていなくて、人々がモノに出会う姿を見たり、いい出会いがあれば何かをお迎えできたらいいな〜という気持ちで向かう。


そのイベントの中で1つだけ、絶対に参加しようと決めていた企画がある。


「物々交換の本棚」


これだけは参加しようと心に決め、前日の夜に準備をした。


参加の手順はとても簡単。
1.中がわからないようにラッピングした本を持参
2.見える所におすすめコメントを添える
3.自分の本と引き換えに、会場にある本を持ち帰る


これだけ。


私のおすすめの本が、誰かのおすすめの本に代わって返ってくる。


お金もかからない、誰とも話さない、そして中身もわからない。


その、時代とは逆行したアナログな、遠いコミュニケーションの取り方に、心惹かれてしまった。


自分の本棚から、人の手に渡る本を選ぶ。


今の家にある本は、実家から引っ越す時に厳選してきたものと、大学生になってから気に入って買った本。


どれか1つ、本棚から引き抜くのはなかなか難しく、夜中に1人、たくさんの本と向き合う。


中学時代の朝読書で何度も読み返した本


買ってから7.8年経って、少し年季が入っているけど気に入って何度も読み返す本


世界観がかわいくて、たくさんの人におすすめした本


どれも手放し難いけど、どれもおすすめしたい。


長考した末に、1冊手に取り、冒頭と好きだったシーンと結末を読み直す。


初めて読んだ時の切なさを思い出して、手に渡る誰かに、大切にしてもらえますようにと願いを込めて紙袋にそっと入れる。


せっかくなら、と貰ってくれる人が心躍るように少し凝ってラッピングをする。


東欧雑貨のお店で買ったカラフルな紙の切れに、白いマスキングテープを斜めに貼って、上からメッセージを添える。


かわいくて切ない話しを読みたいなら
こちらをお迎えください☺︎
明るくて優しいファンタジーです。
2回読むと違う楽しみ方ができます。


知らない誰かに大切に読んでもらえますように。


麻紐でリボンを作り、花のシールを貼る。

どきどきわくわく



簡易的だけど、受け取ったら少し嬉しくなってもらえると思う。わくわくしながらカバンにしまって会場に向かう。


友達と合流して、ひとしきり会場をぐるっとした後に物々交換の本棚に向かう。


会場の中央に静かにたたずむ本棚には、誰かから、誰かに向けられたおすすめのメッセージと共にたくさんの本が並んでいた。


あなたを思い出にすることができたよ

モデルになりたい女の子の物語!

疲れてるあなたに読んで欲しい1冊です。
ほっとひと息つけますように☺︎❤︎


それぞれの本に、それぞれの想いが隠る。


文庫本の大きさもあれば、正方形、ハードカバー、厚みのあるモノもある。


たくさんのメッセージを読んで、悩んで悩んで、1冊を手に取る。

昨年、この本の作者を題材にした映画が出来ました。幼い頃の彼が何を考え、誰を守ろうとしたのか、その姿が私の実の兄によく似ていて
上映中、嗚咽するほど泣きました。
その帰りに買ったのが、この一冊です。
この本と一緒に是非、その映画を探してけて
いただきたいです...*


そして、私の本を交換で、本棚にそっと置く。


誰のことだろう、誰かを想って泣くことができる持ち主さんの温かさに惹かれてこの1冊に決めた。

To持ち主さん
私のもとに届きました


映画の帰りにその人の本を買う。


その行動がとても素敵だと思って、持ち主さんはどんな気持ちでこの本を手に取ったのか、それを私は知りたいと思った。


会場を出てから落ち着いた場所に腰を下ろし、ラッピングを開いた。




映画になった人物は宮沢賢治で


手に取った本は「注文の多い料理店」


なんだか、とても嬉しかった。


大人になってから、手に取る有名文学。


その人を知りたいと思う気持ち。


熱のあるうちに読んだ1冊。


はあ、なんて持ち主さんは素敵な人だろうと、感嘆の息を漏らした。


なんだかずっと気持ちが高揚しはなしで、本とラッピングを何度も見つめる。


実は私はこの本を読んだことがない。


短編の中の「注文の多い料理店」ですらまともに読んだことがない。


本屋で見つけても手に取らない有名作に触れられる機会ができて心から嬉しく思う。


これから少しずつ、持ち主さんのこともちょっぴり考えながら読んでいこうと思う。


読み終わったら映画も見てみよう。


人が繋いでくれた1冊にこんなにも心が動かされるなんて、本ってなんて素敵なんだろう。


アナログはこれだからやめられない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?