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私の人生を変えた本『魔女と金魚』【連載】「彼女の軌跡は私たちのアート」初回

世界で私のことをわたし以上に分かってくれる人は、中島桃果子以外にはいないと思った。

当時のわたしは、ある些細な、でもそのころの私にとっては重大な出来事に傷ついて、
その傷自体よりも、傷ついたことによって起こった身体、精神の変化がずっと後をひいて、苦しんでいた。

ずっと船酔いのような状態が続き、ひどい時は壁をつたってしか歩くことができず、
一日中家で床に横になって、ごはんも満足に食べられない、食べてももどしてしまうのが怖くて、
その気持ちも、その気持ちを話す言葉も知らなかった、15のころの私。

家と図書館との往復だけが、そのころの私の唯一の外出だった。
そのときに出会ったんだ、『魔女と金魚』と。

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(『魔女金』と出会った思い出の場所・苫小牧市立中央図書館)

『魔女と金魚』を読んでいる間だけ、自由でいられた。
そのとき私は繭子になりきっていた。
『魔女金』の1章1章を大切に読んだ。
先を一気に読み進めたい気持ちを抑えて、「今日は6.『ハンバーグはあっという間に冷える』まで!」と決めて読み始めて、「・・・だめだ!もうちょっと読みたいから、7.『セルリアンブルーの目をもつ美少年』まで!!」とかやっていたあのころ。
大げさじゃなく、『魔女金』を読むことだけが生きる楽しみだった。
繭子の迷いは私の迷いでもあり、繭子の勇気は私の勇気でもあった。

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(2015年の10月ごろに、16の私が日記に書いたもの)

私はそのころ、どうして自分が生きているのかよくわからなかった。
学校行ってないし、友達もいないし、いつももどしそうで気持ち悪いし、家にいても親と喧嘩ばかりだし。

『魔女と金魚』はそんなわたしに居場所をくれた。
ここにいていいんだよ、って言われたような気がした。

・・・いや、ちょっと違う。
それ以上に、私に生きる目的をくれたんだ。
『魔女と金魚』を読む。
それだけのために、私は15のころの数日間生きていた。


自分はちっぽけで、何もできないのだということを、絶望や、あがきなどを加えず、認めることができた。
(中略)
そして、やるべきことを、やるべきではなくて、やろうと素直に思えるのだった。

中島桃果子『魔女と金魚』幻冬舎、2010年、14.「北西の魔女」192ページ


迷って傷ついて、自分を見失ったと思ったら、認めるべき自分が目の前に現れた。
それを引き受けることができる人には、強さがある。

あのころ、私はぐずぐずの自分が大嫌いで、こうなったのはあれが原因だこれに違いないと、とにかく何かの”せい”にしていた。

『魔女金』の繭子も最初はそうだった気がする。
でも、彼女は私にそんな弱い自分を認める大切さを教えてくれた。
そして、そこから誰も想像つかなかったような大きなことを成し遂げる、覚悟を感じさせてくれた。


そんなことができるのかどうかを考えたり、理由を考えたりためらったりしている余裕はなかった。
直感とからだを一緒に動かすしかなかった。

16. 「終わりから始まる歌とほんとうのキスを」226ページ


私はふたたび立ち上がるのに4年かかった。

立ち上がるその瞬間は思いがけずにやってきたけれど、立ち続けるのには体中のすべての力を集結させなきゃいけなかった。
もういやだ、やめたい、楽しくなんてない。
そう思っても、ほんとうにやめることはできなかった。
だって、ここから変わりたいと思ったから。
走り続けるしかなかった、この先に幸せが待ってるかどうかなんてわからない、でも私は走らなきゃいけなかった。

幸せになりたいと思ったら、誰かを幸せにしたいと思ったら、
その未来を現実のものにしたいなら、そうやって思ったことからは逃げちゃいけなかった。

なすべきことをなすようにしているだけだった、ただ一心に。
からだと心のおもむくままに。

16. 「終わりから始まる歌とほんとうのキスを」229ページ~230ページ


繭子はそんな私のヒーローだった。
彼女の背中を追いかけて、15のころから今までを過ごしてきたといってもいい。

あまりに大切な本だったから、頻繁に読み返すことはなかった。
でも、4年半ぶりに授業に通い始めたとき、わたしのリュックに『魔女金』はいた。
私の人生の、大切なおまもり。


21になった私は、ときどき考える。
あのころの自分が今の私をみたら何て言うだろう。

きっと今の私をみると、まず疑り深い視線を遠くから投げてくるだろう。
こいつは信用できるのか?
でも、21の私はそんな自分さえも見守っていることができる。

あなたは、7年間『魔女と金魚』を書いた作家を信じ抜きます。
それと同じくらい、今の私は15のわたしを信じることができるから。



・・・

ここまで読んでくださった、すべての方に心から感謝します!

私は人生で一番つらかったとき、『魔女と金魚』に出会って救われました。
この記事を、全国(全世界)の中島桃果子ファンのみなさんに、ご挨拶として捧げたいと思います。
それから、あのころの15の自分にも。

byミキ

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