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【詩】色と形の消えた世界

ここは色と形の消えた世界
何もない世界
でも 何もないわけじゃない
ほんとうは今までと一緒 ぜんぶある

「色と形の消えた世界」が 僕には
はっきりと見えている

真っ白の世界
真っ白とかいうと 色があるじゃないかと言われそうだけど
見えているってことは真っ暗とも違くて 透明ともなんか違くて
僕の知っている言葉でいうなら
やっぱりそこは真っ白な世界

初めて来たときは驚いたよ。
でも、すぐそこが何もないわけじゃないってことには気がついた。
何かにぶつかったんだ。何かに。
色も形もないはずなのに、ぶつかるってのも
おかしな話だと思うだろうけどもさ。
ぶつかったんだ。
よーく見てみたよ。だって、またぶつかりたくないからさ。
でも、何も見えない。

だってここは色と形の消えた世界

ゆっくり進んでみた。するとまたぶつかったんだ。
もういっそ目を閉じて、ぶつかったそいつを触ってみたんだ。

目を閉じて 手の感触だけを便りに想像する
僕の知っている言葉でいえば
それは椅子だった

僕はうれしかった。だってずっと立ちっぱなしだったから。
それから僕は何もないと思っていた世界で
椅子という相棒をみつけてしばらく楽しんだ。
相棒はやっかいだった。
すぐどこにいったかわからなくなるし、
あると思って座ってしりもちをつくなんていうのはしょっちゅうだった。
でも、その度に相棒と二人で笑った。

しばらくして そこは相棒と僕だけしかいない世界になった
不思議なもんだ
相棒をみつけたときは相棒もいる世界だったのに

そこから僕はもう一人の相棒を探し始めた
探してみると案外それはすぐに見つかった
僕の知っている言葉でいえば
それは机だった

相棒のまさに相棒みたいなやつだった。
相棒も嬉しそうだった。
しばらく三人で楽しんだ。

またしばらくして そこは相棒と相棒の相棒と僕だけの世界になった
きりがないないと思った
でも、そこは三人だけの世界だった

相棒の相棒を見つけたときほどではないにしろ
僕は毎日少しだけ もう一人の相棒を探す旅に出るようになった
目をつぶって 中腰になって 手を横に広げて 神経を研ぎ澄まし
何かにぶつからないように でも しっかりとぶつかるように
ゆっくりゆっくり歩いたんだ

色も形もない世界だからさ、目なんかあけてもしょうがなかった。
目を閉じてるときの方がさ、集中できる気もしたから。
それに、ちょっと寂しかったから。
でも、だから気づかなかったんだよね。
もう一人の相棒が近くにいたことに。
ふと、ある日、目を開けたんだ。
びっくりしたよ。
「あっ」って声もあげちゃった。
この世界に来てから初めてだったから。それを見たのは。

僕の知っている言葉でいえば
それは文字だった
文字と言っても長い長いそれは文章だった
僕はかじりつくようにそれを読んだ
不思議だよね
読書なんて全然好きじゃなかった僕が 夢中になってそれを読んだ

今ではもうその時の文章の内容は覚えてないけど、
すごく楽しかったし、心があったかく満たされたのは覚えてる。
それから僕は毎日、文字を探して歩くようになった。
そして文字を見つけては相棒と相棒の相棒と文字と僕の四人で遊んだ。
楽しかった。

文字を見つけて歩くようになってから 
そこは だけしかいない世界じゃなくなった
相棒と相棒の相棒と文字と僕 
そこにあったのはそれだけなのに

たくさん文字を読むようになって僕はあれこれ考えるようになった
ここはいったいどこなんだろう
ここはいったいなんなんだろう
不思議だよね
初めて来たときには もうそれしか考えていなかったのに
今まではそれは もっとも考えないことになっていた
ここは色と形のない世界
そういうもんだと思っていた
でも 考えてもなかなか答えは出なかった
でも 楽しかった
答えはすぐには出なかったけど考えていることが楽しかった
相棒と相棒の相棒と文字に 考えること が仲間に加わった

いっぱいいっぱい考えた。
ああでもない、こうでもないって。
なんで色と形が消えたんだろう。
なんで色も形もないはずなのに文字だけはあるんだろう。

そしてひとつ思いついた
ここは色と形の消えた世界じゃない
ここは意味だけが残った世界だって

僕の相棒は見えないけど座らせてくれるし
相棒の相棒は見えないけど体をあずけさせてくれるし
色も形もないはずなのに文字だけはそこにあった

その日から 
色と形の消えた世界は
意味だけがそこにある世界に変わった

不思議だよね 
そしたら 何も変わってないのに
僕に勇気とか希望とかそういうものが湧いてきた

意味だけがそこにある世界なら
僕がここにいるのにもきっと意味はあるんだって思えてさ

今日も僕はこの世界で生きています


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