金脈 〜得をしたのは?〜
ジェームズは列車に乗り込み、西へ向かった。
車内には彼と同じく、野望を持つ男がゴロゴロしていた。
椅子に座っているもの、連結部分にもたれているもの、その誰もが長旅で体力を奪われイライラしていた。
会話は少なく、要らないことを口にしようものなら暴力が生まれそうな、そんな状態。
「車両は新しく洒落ているのに、こいつらの醸し出す雰囲気のせいで重苦しいな」
ジェームズはそんなことを考えながら通路を歩き、仲間集めのため、乗客の顔を見て回った。
最終的にジェームズが選んだのは、屈強な男・ロバートと、頭脳明晰な男・ブレッドだった。
口が上手くてリーダーシップがあると自負していたジェームズは、なんとか彼らを口説き落とし、チームを作った。
二人とも、一人で西を目指すような野心家な一面もあった。
また見た目から血の気は感じられないが、目の奥がギラギラしているのもジェームズが気に入ったポイントだ。
こいつらなら、何かトラブルが起きても自力で解決しそうだ、と直感でわかった。
いいチームだ……。
ジェームズは自分たち3人を、最強だと思った。
だがそれは、どこのグループも同じ。
一攫千金を狙う彼らは、誰もがライバルだった。
◇
二週間後、列車は金山にたどり着いた。
そこにはすでに1万人を超える人々がおり、鉱山を掘っていた。
ジェームズたちもツルハシやスコップを購入し、掘削を始めた。
「必ず俺たちが、黄金を手にする」
「まだチャンスはある」
そう信じることが、彼らのエネルギーの源となっていた。
カンカンカン♪
日々、何万のスコップが意気揚々とこだまする。
ジェームズは、ロバートやブレッドを参謀にして、次々と仲間を集めていった。
既に他のグループに所属しているものに話しかけ、少しだけ高い報酬で釣り、チームに加えたのだ。
また東部からセントラルパシフィック鉄道が到着するたび、駅に作業員をスカウトに行った。
幸い、ここに来る前にペンシルバニアで事業をしていたこともあり、少し貯金があった。
しかし、他のグループ同様、いくら掘っても金は発見できなかった。
土や岩を掘るたび、服は汚れ、破れ、埃まみれになっていった。
着る服がなくなったものには『James'』と刺繍の入ったデニムを配布し、チーム感を高めた。
他のチームもそれをまね、最終的にはロゴで所属チームを確認するようになった。
またスコップなどの工具が破損すると、すぐに買い与えてやった。
こうしてチームの士気を高め、金脈を求め続けた。
カンカンカン♪
ブレッドが導いた場所を、ロバートに率いられた掘削組織が掘り進める日々。
カンカンカン♪
早く成功したいと、ジェームズはたちは願い続けた。
◇
ブレッドが手付かずの鉱脈を発見したのは、西へ来てから半年後だった。
久しぶりの手応えに、疲弊していたチームは息を吹き返した。
カンカンカン♪
作業員は一丸となって、坑道を掘り進めた。
ジェームズは全員を監督し、ポジティブな言葉をかけ続けた。
「家族を想え!お前らが幸せにするんだ!」
カンカンカン♪
「さらなる高みへ自分を連れて行け!」
カンカンカン♪
「その一振りに、全てがかかっている!」
3週間後、チームの一人が地中で眩しく輝くモノを発見した。
紛れもなく金だった。
彼はすぐにジェームズに報告した。
駆けつけたジェームズ・ブレッド・ロバートは、その量に息を飲んだ。
チーム全員に分け与えられるほど溢れていた。
「やったな!」
「ブラボー!」
「あんたのチームでよかったぜ!」
そんな言葉が乱れとび、彼らは手を叩いて喜んだ。
金は丁寧に掘り出され、仲間と山分けされた。
他のチームは嫉妬に狂っていたが、こればかりは運もある。
仕方ないと諦めて帰るもの、そのまま居座るもの、皆それぞれの人生に戻りゴールドラッシュは幕を閉じた。
◇
数ヶ月後、ジェームズたちは、ロサンゼルスに豪邸を立てた。
ロバートは3階建て、ブレッドは4階建て、そしてジェームズは10階建ての大豪邸だった。
もちろんプールや庭も付いていて、人生がガラリと変わった。
カリフォルニア・ドリームを掴んだのだ。
だが一年後、ジェームズの家の前に超高層ビルが建てられた。
「ずいぶん儲けさせてもらったよ」
中から出てきたのは、見覚えのある顔。
ジェームズが記憶をたどると、それはスコップ屋の店主だった。
さらに、その隣にも超高層ビルが建てられた。
そこの入り口には、男の銅像が建っていた。
『Levi Strauss』
その名前は、作業員のどのデニムにもタグ付けされていたものだった。
それから十年が過ぎた。
ジェームズ・ロバート・ブレッド家族がプールサイドでパーティーをしている途中、一人の男がやって来た。
『私はこの市の職員ですが、この辺り一帯の土地は買収されました』
「え?」
「誰にだ!立ち退きなんかしないぞ!」
「そんなこと出来るわけがない! 何平米あると思っているんだ!」
それを聞いた市の職員が後ろに止まった車を指さすと、中から降りて来たのはタキシードの男。
『君たちかね、ゴールドラッシュの勝者は? おめでとう。しかし悪いがここから出て行ってもらうよ』
「なぜ? ここを買収してどうする気だ!」
『大学を建てるんだよ。私の名の入ったね』
「名前?」
『私の名は、スタンフォード。スタンフォード大学を西部一の教育機関にしたいんだ』
あまりにも大きなプロジェクトが動き出していると知り、ジェームズたちは口を瞑った。
『それよりもう長いんだろ? 西部の暮らしはどうだい?』
「まあ……」
『人生が好転したなら、良かったよ。私もセントラルパシフィック鉄道を開通させた甲斐があったな』