見出し画像

2023年10月の読了本+感想


第一芸人文芸部

今月はたくさんの動きがあった。まずは

「毎週水曜日のstand.fmの配信」

始まって4ヶ月目。
この配信のメンバーは、僕と、2022年にエッセイ集『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』を上梓したピストジャムさん。

毎週水曜日、22時からstand.fmの生配信で、今週読んだ本について語ったり、活動報告も行なっているので、ぜひ聴いてみてください!

部長の又吉さんも、いつか急に参加してくれるはず!!

続いて、別記事で詳しく書きます

「文芸誌を発刊することになりました!」

タイトルはそのまま『第一芸人文芸部 創刊準備号』。
最終入稿も終わり、いい感じに仕上がっています!
こちら引っ提げて、文学フリマに参加します!

【文学フリマ東京37】
11/11(土) 12:00〜17:00 入場無料!
東京流通センター 第一展示場・第二展示場
東京モノレール「流通センター」駅徒歩1分
僕たち『第一芸人文芸部』のブースは、第二展示場1階Eホール『あ-27,28』です。

装丁もかなりシブい感じ!132ページあります!

文学フリマでお待ちしています!

最後に、これも別記事で詳しく書きます

「Amazon Audible」で新番組『本ノじかん』


のパーソナリティを、ピストジャムさんと共に担当させていただくことになりました!

こちらは第一芸人文芸部がお届けする、本を愛する方々、そして本にあまり触れてこなかった方々へ本の魅力をお伝えするブックバラエティ
編集長は又吉さん。

2023年10月現在、第一話(ゲスト:ピース又吉)、第二話(ゲスト:オズワルド伊藤)が公開されています!ぜひ聞いてみてください〜!

以上、活動報告でした。

2023年10月に読了した小説

ここからは10月に読んだ小説・エッセイの紹介と感想です。今月は5冊読めました〜!

『カンガルー日和』 村上春樹

計18編。短編で読める村上節。
初期の作品だが、俗世と切り離された洒落た文体は健在。なぜか村上春樹が書くと所帯染みた所作さえ、煌めいたものに感じてしまう。それていて読みやすく、たまに人生の本質みたいなのを織り交ぜていて、グサッとくる部分もある。

ハンバーグ・ステーキ
チョコレート・アイスクリーム
ラジオ・カセット
スーパー・マーケット

この『・』が村上春樹よね。
例えも面白く、村上春樹、大喜利得意だろうなと思う。

あとがきにも『他人の目をあまり気にせずに、のんびりとした気持ちで書いた』とあるように、気楽に読める。必死になって結末を追い求めなくとも、存分に村上節が楽しめる。

随所に洒落た部分があるが、僕の感性は洒落ていないので、所帯染みた目線で感想を書いてみる。

『カンガルー日和』
カップルがカンガルーを見に行くだけの話。それなのに面白い。
1ヶ月間、カンガルーを見に行くにふさわしい日を探し求めていたらしい。雨や降ったら、今日じゃない。風が吹いていたら、今日じゃない。そう延期し続けて1ヶ月。ついにカンガルー日和がやってきた。
いや仕事してないやろ。

『4月のある晴れた日に100パーセントの女の子に出会うことについて』
原宿で素敵で可愛い女の人とすれ違っただけの話なのに、村上春樹が書くとこんな感じになるのか。
実は昔に出会ってて、その記憶を失っていて……みたいな想像なんてあるあるなのに、あるあるに見えない。

『眠い』
人の結婚式に人数合わせで呼ばれて、眠くて仕方なくなる話。行くって決めたら起きとけ。
眠気を覚ます方法は「スペリングの難しそうな単語をひとつ言ってみてくれないかな」。
牡蠣グラタンを食べながら翼手竜になるところおもろかった。

『タクシーに乗った吸血鬼』
正体明かして、襲わんのかい!
逆に斬新やった。
「吸血鬼って本当にいると思います?」と切り出すポイント完璧すぎる。

『彼女の町と、彼女の綿羊』
札幌の街で旧友と飲んで、そのあとホテルでテレビを見る話。テレビには北海道のとある町役場の広報課につとめる女性。彼女の身の上を想像し、自分の人生と交差しないことを悟る。

『あしか祭り』
めっちゃショートショート。
あしかが玄関にやってくるところから始まる。ドキドキしたよ。
「メタファーとしてのあしか」と最後に種ばらししてるが、何を指し、皮肉っているのかはわからなかった。

『鏡』
霊感と予知能力、片方に長けた人はいるけど同時に得意な人はいない。そんな入り。たしかに。
それから中学校の夜警をしたエピソードに入る。
鏡に映った自分を自分と認めたくない気持ちはわかるな。

『1963/1982年のイパネマ娘』
19年経ってもレコードと曲は色褪せない。

『バート・バカラックはお好き?』
めっちゃおもしろい。
普通のハンバーグ・ステーキが食べたいのに、○○風ハンバーグ・ステーキしかなくて、店員に言われた通り、ハワイ風ハンバーグ・ステーキを注文してパイナップルを残すくだりは、そばめししかメニューにないお好み焼き屋でご飯を注文して、できませんと言われたことを思いだす。できるやろ。
「文章というのは結局は間に合わせのものなんです。どうか鋭くあろうと思わないで下さい」は、心に残る。

ペン・ソサエティーという団体がある設定も面白かったが、最後がなぜそんな感想になるのだ。

『5月の海岸線』
12年ぶりの帰郷。エッセイのような小説。

『駄目になった王国』
このタイトルと、中身のエピソードをリンクさせるのはさすがとしか言いようがない。
立派な王国が色あせていくのは、二流の共和国が崩壊するときよりずっと物哀しい。

『32歳のデイトリッパー』
人生と退屈についてのお話。ほのぼの。

『とんがり焼の盛衰』
いやー面白い。とんがり鴉。この短編集で1番ホラーなんじゃないかな。短いのに、おぞましい描写が多くてワクワクした。

『チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏』
両側に電車が走る三角地帯に住むことになったカップルの話。なんかノスタルジックになる。そんなところ住んだこともないのに。

『スパゲティーの年に』
洒落てるなぁ。スパゲティ毎日茹でて食べてる。炭水化物摂りすぎや。

『かいつぶり』
この短編で1番意味がわからなかった。

『サウスベイ・ストラット』
村上春樹風ハードボイルド。めっちゃ面白いし、長編で読みたくなる。最高。

『図書館奇譚』
面白いねー。図書館の地下室に閉じ込められるダークファンタジー。羊男と美少女と、靴と犬と老人と。誰でもこの状況ならば逃げ出すことを選ぶかもしれない。


『ユーチューバー』 村上龍

初村上龍がこの本で良かったのだろうか。そんな事は置いておいて、感想を書く。

———あらすじ———

・わたしは、考えない。考えることでいいことが起こったことが一度もない。考える、考えないにかかわらず、いいことが起こったことは一度もない。

・世界一もてない男。金はあるけど欲しいものはない。四十歳。

そんなふうに自分を表現する一人称『わたし』が主人公。

『わたし』は、YouTubeに興味があり、始めてみたものの、ゼレンスキーの胡散臭さを語った2時間40分の動画は全くバズらなかった。バズらないどころか、再生数も少ない。
せっかく会社の執行役員を辞め、一大決心して始めたのに。
反省して動画を短くしたり、テーマを変えたりすれば良いが、主人公はYouTubeのプロデューサーになる事を思いつく。
そしてホテルのプールで1度だけ会ったことがある60代後半の大作家、矢崎健介に出演依頼をするため高級ホテルを訪れていた。
彼に女性遍歴を語ってもらおうというのだ。

刺激的で、ダメ元での依頼だがなんと矢崎はOKをする。
そして主人公の狭いマンションで撮影が始まる。

過去に愛した女性、遊びで終わってしまった女性について、口調は悪いが丁寧に語っていく矢崎。めちゃくちゃ長い。曖昧な記憶を手繰り寄せながら語る。嘘はあるかもしれないし、ないかもしれない。

最終的に出てきたのは、色々な恋愛をしながら『自由』に生きてきた、ということだった。
彼の自由に触れ、多くの人には、そして私にもとうてい真似できないと思う。

第2章は時系列を遡って、彼との出会い。
第3章は作家が連れている女性。
第4章は作家と、目線が変わっていく。

———感想———
彼はあの後もワインを飲み続けるのだろうか。そんなこと誰にもわからない。飲むかもしれないし、飲まないかもしれない。
時計を見ると、夜中の1時だった。私にとっては遅い時間だが、彼にとってはまだ早い時間かもしれない。そんなこと誰にもわからない。

こういう文体よね。特徴的なのは。

第一章が終わり、それ以後も話が進んでいくものだと思っていたら、時系列的にはそこがラストだった。特に劇的なカタルシスがあるわけではないが、読まされた!という感じ。筆力はすごい。
後半は動物のうんちくと、名優のエピソードとそれに対する考えを永遠に聞いているようだった。70歳を過ぎた村上龍が、自身の半生を矢崎に重ね合わせながらこれを書いたことに意味があるのだと思う。あと10〜20年後にもう一度読んだら、感じることが変わるかもしれない。僕にはまだ早過ぎたかもしれない。


『夜に星を放つ』 窪美澄

———あらすじ(公式より)———
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。

———感想———
第167回直木賞受賞作。連作ではない短編集。

タイトルに「星」が入っているように、星座や天体が物語のキーとなっているわけではないが、どの話にも出てくる。

「真夜中のアボカド」
32歳、双子座。コロナ禍。マッチングアプリで婚活をする主人公・綾。
出会ったのは麻生さんという、真面目そうにみえる男性。何度か会い、体を重ね、付き合うことに。
ある日、秘密をうちあける。
実は一卵性の双子で、妹・弓とは3年前に死別していること。まだ気持ちの整理できていないこと。
麻生さんもこんど秘密をおしえてくれるという。それからも順調に、凪のような日々をすごす。

弓ちゃんには恋人の村瀬がいて、綾は村瀬に麻生さんのことなど色々相談しているうちに……。

部屋で育てているアボカドの双葉と、双子の運命、双子座が絡み合う。
ちょっと展開は読めたけど、短編小説のお手本のような書き方であり、お話。ベタは強いよ。

「銀紙色のアンタレス」
16歳、男子。獅子座。
『夏が来るとやっと自分の季節がやってきたという気がする。どんなに気温が上がったっていい』は全然物語の格じゃないけれど、めちゃくちゃ共感です。

夏休み、海の近くのばあちゃんの家に来た真は、近所の娘で東京から1歳の子どもを連れて帰省している女性を好きになり、幼なじみでとても可愛い朝日に告白されてもふってしまいます。叶わない恋と、若さならではの誠実さで不器用にもがく。

「真珠星スピカ」
学校でいじめにあってるみちるのお話。
お母さん賛歌。
中学生の佐倉みちるは二カ月前に母を亡くして、学校ではいじめに遭っていますが、お母さんの幽霊が助けに来てくれて…。
幽霊でもいいから亡くなったお母さんに会いたい気持ちよくわかります。

2ヶ月前、交通事故で亡くなった母。その幽霊が見える主人公・みちる。父には見えていない。母の幽霊は家から出ない。
みちるは学校でいじめられている。味方は少ない。
喜怒哀楽をストレートに出すことが恥ずかしく、いじめられてワンパターンだなとおもいながらノーリアクションを貫いているが、精神的にはキツイ思いをしている。
解決したのは、コックリさん……?
めっちゃ面白かった。この短編集ではナンバーワン。

「湿りの海」
アリゾナにいる妻と娘。妻の浮気が原因で離婚し、すでに新しい父親と暮らしている。かなり引きづっている主人公。指にはまだ指輪のあと。
隣にシングルマザーが引っ越してきて、会話をするようになる。ある日、海に行くのだが、その帰りに……。

すごい筆力。
しっとりと汗をかいた両生類のような皮膚、の例えは秀逸だった。
本当にこんな話どこかにあるだろうと思うくらいリアリティがあった。

「星の随に」
主人公・想が小学四年生の春に、再婚した父と、新しい母の渚さんの間に弟の海が生まれる。渚さんのことを想はまだ「母さん」と心から呼ぶことはできない。本当の母さんには何で会えないのだろうと不思議に思いながら、母さんの住むマンションを車窓から見つめる。
そんな折、育児ノイローゼになる義母・渚。学校から帰っても寝ていて鍵が空いていない。助けてくれたのは、同じマンションに住む老婦人だった。
彼女は「つらい思いをするのはいつも子ども」と自分の戦争体験と重ねて話す。


『説教男と不倫女と今日、旦那を殺すことにした女』 レインボージャンボたかお

コントを小説にしたのではなく、レインボーはもともと小説をコントにしていたのかもしれない。そう思わされるほど、心理描写が濃密だった。

くだらないことを濃く濃く書いていて、何度も笑ったし、最終章に到達するころには最後どうなるか気になって仕方なかった。

最終章から設定が1つ増えるのだが、矛盾しないように書くの大変だっただろうなぁ。

登場人物の目線を切りかえながらの構成も見事で、全員に興味が持てたし、全員の気持ちにちゃんと共感させてもらえた。あとさすがコント師なのは、会話が凄くおもしろい。舞台だったらめっちゃウケるやろうな、ってところが何ヶ所もあった。もちろん読んでも面白い!おすすめです!


2023年10月に読了したエッセイ

『プロレタリア芸人』 本坊元児

———あらすじ(公式より)———

芸人・本坊元児が底なしの嘆きと未来への咆哮を綴った初の自伝的小説!
麒麟、アジアンなど売れていく同期への羨望と焦り――。
勝負を賭けて上京するも、芸人としての仕事がほぼゼロで、テレビ出演の回数より、ギックリ腰の回数の方が多い日々。
壮絶な肉体労働現場で働く彼の日常は、まさに「現代の蟹工船」。
多くの芸人たちが絶賛する、肉体労働現場のリアルでディープなエピソードを詰め込んだ珠玉の一冊。

———感想———

尊敬する先輩のエッセイ。むちゃくちゃ面白い。名作中の名作。『本坊と申します。名前に「土方」という文字が入ってます』と自己紹介をする本坊さんが、東京時代、芸人の仕事のかたわら、従事してきた土木作業員のアルバイトを解像度高く綴っている。こんなエッセイは本坊さんにしか書けない。

・本当に重いものを肩に担ぐと「重い」ではなく、「肩を噛まれた」と感じます。
・こんな腰はいらない。上半身をただ載せているような、チョンと押すと上半身がバタンと落ちてしまいそうな、心もとない腰のつなぎ目。
・監督は高所作業は全部僕に命じてきました。僕のことを殺そうとしています。落ちる時はお前の真上に落ちてやる。

エピソードはもちろん、表現がほんと面白い。
また先輩のセリフのあとに何度もすみません度も出てくる独白ツッコミが切れ味するどい。人間味が爆発してる。次作の『脱・東京芸人』も読みたくなる。

また当時の事を歌った替え歌がYouTubeにあるんだけど、めちゃくちゃ面白い。この本を読んだ人はぜひそれも聞いてほしい。ワード強すぎる。

読んでいただきありがとうございました!
年末に向けて執筆も読書も頑張ります〜!!

この記事が参加している募集

#読書感想文

187,975件

#文学フリマ

11,627件

面白いもの書きます!