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横須賀美術館

はじめまして

この一文から始めさせていただきます。

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行ってよかった。心からそう思えた。

横須賀美術館には以前から行こうと思っていた。神奈川県の有名建築を調べたら絶対上位にくい込んで来る建築物だ。今年の3月23日に発売された乃木坂46の29枚目シングルのカップリング楽曲「届かなくたって…」のロケ地でもある。建物自体は知っていたので、公開されたMVを見てすぐに横須賀美術館だと分かった。こんなこともあり尚更行かなくてはと思っていたのだ。

元々横浜に用事があり、ついでにサウナにでも入ろうと考えていた。サウナの詳細については昨日のnoteに書いている。そのサウナで泊まることにしたので、そのまま翌日横須賀美術館に行くことにした。普段なら1ヶ月以上前から入念な下調べをして旅行計画を立てるが、近場である程度調べていたということもあり、当日朝に1泊2日旅を計画した。

とはいえ、なかなか遠い場所にある。駅から近いならまだいいのだが、海辺に建っているため駅からも遠い。バスは通っているものの、私自身あまりバスが好きではない。電車や地下鉄は専用のレールの上を走っているため、事故などがない限り時刻表通り運行する。しかし、バスは普通の道路を走るため時刻表通りとはいかない。そのため、乗り換えなどがある場合、上手いこと乗れなくて困ることがしばしば。

こういう時に車が運転出来る、自分と同じくらい暇な友人が居てくれたら良かったのにといつも思う。しかし、現実はそう上手くいかない。自分と同じところに行きたい友人もいなければ、運転してくれる友人もいない。そもそも論として友人が少なすぎる。バイクの免許でも取れば一人旅しやすいだろうなと妄想するが、事故った時のダメージが大きすぎるし、積載量も少ない。そんなこんなで結局公共交通機関に頼るしかない。

そんな文句を垂れながら美術館に向かった。美術館前というバス停名だが、実際に止まるのは少し手前のホテルの前。どうやらそこのホテルはグランピングができるらしい。海を見ながら、焚き火をしてのグランピング。1人あたり3万以上するらしいが、彼女と来たら最高の思い出になるだろう。そのうち一緒に行ってこよう。おっと、もう少しで妄想上の彼女を連れて、フロントに「2名で予約していた○○です。」と奇行に走るところだった。

脱線したが、ホテルの前を通り過ぎて美術館に向かう。到着したら、じいさんばあさんで賑わっていた。どうやらツアー旅行かなにかで来ていた団体が到着したところのようだった。出入口付近に溜まっていてなかなかに邪魔だったが、自分も修学旅行生の時にはこんな感じで見られてたんだろうなと昔の自分を客観視した。美術館へのアプローチが最高すぎて、そんなことに腹を立てる気は一切無くなっていた。

下調べ大好き人間のため、美術館のHPはもちろん、新建築データでも調べていた。新建築データとは新建築という雑誌のバックナンバーをウェブ上で有料公開しているサービスだ。そのため、建築のざっくりとした概要は理解した上で訪れている。それでもやはり、図面や写真といった情報だけでは分からないものがある。現地で全身で体験できるのが建築の良さだ。もちろん図面や写真で見てた時の方が良かったと裏切られる建築もあるが、横須賀美術館は良い意味で裏切ってくれた建築だ。

先程も書いたが、まずエントランスがいい。というより、立地がいい。美術館の前には芝生広場が設けられ、その前に道路を挟んで海が広がっている。横須賀には米軍基地もあるため、海には巨大な船もちらほら見受けられる。見ているだけで興奮する変態的な男性も多いはずだ。


内部に入り、チケット売り場に向かう回廊式の通路。吹き抜け空間の上に浮かぶ通路は軽やかで、そこから見下ろせる展示室の景色もよい。そこで写真を撮るのは禁止されていたのが残念でならない。企画展は入れ替えの時期のため見ることは出来ないため、収蔵品展のチケットのみ購入。数年前まではチケットカウンターに行くと、「学生ですか?」と聞かれることが多かった。しかし、最近は「一般1名○○円になります」と学生でないと断定される。たしかに、23歳で学生は少ないにしろ、そんな断定しなくてもいいじゃん!と思ってしまう。アルバイト先でも「アラサーかと思った」と何回言われたことか。そんなに老けて見えますか?そろそろ泣いちゃいますよ?



そんなことをチケットカウンターで考えていた。そのまま展示を見に行こうかと思ったが、ツアーの団体様がぞろぞろと向かっていたので先に屋上広場に向かうことにした。

螺旋階段とエレベーターがあったが迷わず階段で。建築を見る時は階段でのぼりながらゆっくり景色の変化を楽しむことをオススメする。特に横須賀美術館の階段はオススメだ。まず2階に上がって、情報ラウンジという場所にたどり着く。丸窓から見える景色は見事な水平線だ。ピクチャーウィンドウとしての視線誘導が上手い。何個も開いている丸窓から見える景色が全然違うため、それこそ展示のようにも見える。こんなにも説明無しに設計者の思いが伝わるのかと感動した。


さらに上に登ると途中でダブルスキン構造の隙間を覗くことができる。これは事前情報として知らなかったので非常に驚いた。なかなか見ることがない絵面にこれまた興奮してしまった。登りきると海が見える。そこに恋人の聖地と書かれた記念碑が置かれていて、壊してやろうかと思ったが、こんなところで器物破損罪で捕まるわけにはいかないので衝動を抑えた。



屋上は曲面による平面構成だ。金属製の手摺が見る角度によって粗密が生まれ、見え方を変える。屋上から外皮のガラスを見ると正方形の建物に対する斜めグリッドがよく分かる。そんな景色から下に潜む構造に思いを馳せる。晴れていたこともあり最高の状態で屋上広場を見ることが出来た。少し離れたところから眺めるとダブルスキン構造がよく分かる。合理性を持たせながらのこのデザイン性には感服した。屋上を横から見ていると少し傾斜していることに気がついた。気になりスマホで調べて見ると1°ほど傾斜している。こんな傾斜で雨水などを排水できるのだろうかと疑問に思いながら1°によく気づいたと我ながら思う。たった1°でもよく見れば誰でも気づくのだろうか?よく分からないが自分が凄かったということにしておこう。


屋上を満喫したので、併設されている図書館も見に行くことに。といっても大きなものではない。資料館ぐらいのニュアンスだろう。図書館よりもその道中が面白い。ダブルスキン構造の間を直接見ることができるのだ。どのような構成になっているのか分かりやすく、見ているだけで楽しい。

続いて展示を見に行くことに。展示室は撮影できないが、高さ12m以上にも及ぶ展示空間は圧巻だった。入隅が無くなることで、奥行きが曖昧になる。境界の曖昧性が空間を包み込む。全て入隅のない状態にすればいいのではとも思ったが、それではあまりにもくどいのだろう。あと、施工が死ぬ程めんどくさそうだ。展示されている絵よりも建物の様子ばかりを見て、吹き抜けを見上げていたら、係員の人に建築の概要書のようなものをもらった。展示を見に来たというより建築を見に来たというのがバレバレだったのだろう。そして、自分同様建築を見に来る人が多いから、そんな資料も用意されているのだろう。少し気恥しさを抱えながら展示室を進んだ。

順路通りに進み最後の方に飾られている絵に心奪われた。色使いが綺麗で魅了されてしまったのだ。色に関しては元々興味があり、1月初めのnoteでも色について触れた記事を書いている。色彩検定の勉強でもして理解を深めてみようかな、などと思うのであった。

階段がいいとはいったものの、エレベーターにも乗っておこうと思い、乗り込んだ。ガラス張りのエレベーターで、本来ならば色んなところに機械がみえるはずなのだが、とてもスッキリしている。一般的なエレベーターは滑車や重りを用いたものが多い。それに対してここのエレベーターは油圧式である。したから押し出すような形式のため、見た目としてスッキリしている。ガチャガチャしたものとして見せないために採用している公共建築は意外とあるので皆さんも探して見てほしい。

ガラス張りの空間も真っ白な所謂ホワイトボックスもありきたりなものである。それなのにガラス張りの建物も真っ白な建物も目を引かれる。普遍的なもののはずなのに惹かれるのはなぜなのだろうか。なにもないからこそ、そこの空間に対して私達が勝手に物語を想像出来るからだろうか。人間は認知革命により妄想するという力を身につけた。なにもないが故に、物語を妄想しうる余白を内包し、無限の話へと発散する。そんな可能性を秘めているから惹かれるのだろうかと妄想するのであった。

最近気づいたが、ストレートに抜ける建築が好きなようだ。これは建築学生として好きなのか、写真を撮る人間として好きなのかは定かじゃない。直線で視線が抜ける建築や景色は写真として撮りやすい。そして、軸戦という意味でも設計者の意図を感じる。さらに何十mと続く直線は家での生活ではほぼ有り得ない空間だ。公共の空間ならではのヒューマンスケールを超えた景色。そこに力強さも感じる。ストレートに抜ける直線的大空間をテーマにコンペの案でも考えようか。そんなことを思いながら美術館を後にした。


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手の届く範囲にいるあなたが

幸せでいることを願います

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