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緑の少女

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記事一覧

緑の少女⑭

色々試行錯誤してまして、⑭以降は別媒体で書いていこうかなと考えています。下のURLからどう…

春央
2年前
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緑の少女⑬

「おはよう、起きろバカ」 「バカ!」午前五時、品川駅のホーム。昨晩の浅い眠りをどうにかこ…

春央
2年前
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緑の少女⑫

 樹紗は今日珍しく日が暮れる前に家に帰ってきた。買い物はもう僕が済ませていたのに、手にビ…

春央
2年前
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緑の少女⑪

「人多いなー、てかきったね、さすが学生街」 「でもこいつらも早稲田なんだよな」 「それを言…

春央
2年前
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緑の少女⑩

「お茶の水、上陸!」 「じょーりく」終業式がいくらかおして、電車を乗り継いで駅に着いた時…

春央
2年前

緑の少女⑨

 その晩イチイに浅香の話をした。もちろんチャットでだ。基本的に彼女の返信はそっけなくて、…

春央
2年前
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緑の少女⑧

 次の朝、駅で浅香と出くわした。向こうが軽く手を上げヘッドフォンを外した。 「昨晩は、どうも」特別な気まずさがあった。 「直接話すの初めてだよね。石見啓介です、よろしく」 「うん」下の名前を聞く前に、改札口になだれ込む人の流れにはぐれてしまった。雑踏を抜けるともう浅香の姿がない。驚いて見回すがあたりにそれらしき影はなく、遅刻は後で面倒くさくなるから途中で諦めて坂道を駆けた。  放課後に教室を尋ねると、彼は一人机に向かい真剣な面持ちでペンを握っていた。 「あの、石見だけど」 「

緑の少女⑦

 代休明けの火曜日の朝、教室に入ると星の机の周りに何人かの女子が集まっていた。 「星君、…

春央
2年前
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緑の少女⑥

「そこ。北口出たらアーチが見えるでしょ」 「アーチ?ああ」花壇の縁に腰掛けた僕は電話を切…

春央
2年前
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緑の少女⑤

 生活にはどこまでもバイトが付きまとっている。アパートから歩いてすぐのコンビニでほとんど…

春央
2年前
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緑の少女④

 アートマンが自分の背中を目にした。深い夢は鋏にかかって枕元に落ちた。もう忘れたはずだっ…

春央
2年前
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緑の少女③

 息を吐くと、指は雨曇りの朝顔のように半ばまで閉じて、掌の上で交差する幾本の澪は、少しば…

春央
2年前
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緑の少女②

「ねえ、やっぱり友達がいい」言ってしまうと、イチイは形だけ申し訳なさそうに俯いたまま髪の…

春央
2年前
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緑の少女①

 昼下がりの空を眺めるでもなくて、僕は帰りを急いでいた。薬局を出るときに、息を切らし駆け込んできた少年の肩が擦った。流れる雲が運ぶ雨の匂いに、今朝の天気予報のこと―梅雨入りを伝えるキャスターの顔を思い出す。彼女の名前はなんだっけ。  買い物からの帰り、とくにまだそれほど暑くもないこの季節は寄り道が多い。指にくいこむレジ袋の重みはまたこれからの一週間をやりくりするためのもので、恥ずかしいけれどそこにたしかな喜びがあった。短い横断歩道を渡ると、青い垣根の向こうに僕の棲むアパートが