#5 産休に入った同僚が私たちに残してくれたもの
保健所で働いていた時の話の続きです。
2020年頭から始まったあの肺炎対応に、我がグループはすっかり翻弄されてしまった。
そんな中、隣のグループの同僚(以下、Aさん)が「仕事を手伝うよ」と声を掛けてくれた。
上司からの了承もすんなり得られたのだが、実はこれにも理由があった。
その少し前、Aさんと同じグループの職員(Bさん)が産休に入ることになった。
実はこのBさんが、私たちのグループの現状を上司に訴えていたのだ。
と、上司を説得していたのだ。
あまりこんな話はしたくないが、公務員には「縦割り」の意識が強い人もいる。
感染症のことは感染症担当が対応するべきで、他の者が手を出すべきではない、と考える職員もいる。
行政組織としては、本来はそれが正しいあり方なのだろう。
自分の担当以外の仕事を皆が好き勝手にやると、組織として成り立たなくなる。
しかし今は非常時だ。
もっとグループの仕事を弾力的にしていいのでは。
私たちが毎日残業が続く中、他のグループの職員が定時で帰っていくのを見て、もやもやしていた時期であった。
誤解のないように言うと、付き合い残業を肯定しているわけでは断じてない。
だが、不公平だと思うことはしょっちゅうあった。
Bさんが陰で動いてくれていたことを知ったのは、随分後になってからだった。
我々が毎日バタバタしているのを、彼女はずっと見てくれていた。
仕事を手伝いたくても妊娠中のため、感染リスクのある行動も取れない。
ちょうどAさんもこの状況に葛藤していたため、彼女はAさんに後を託し、上司の説得に至ったのだった。
彼女も出産を控え、おそらく自身のことで精一杯だったはずだろう。
それなのに私達を気遣い、勇気ある提案をしてくれたことには感謝しかない。
この事実を知った時はすでに産休に入ってしまったため、彼女に直接お礼を言うことはできなかった。
いつか再会できた日には、めいっぱいの感謝を伝えたい。