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フランス:脱炭素現状と政策

最近、原発ありきでEU再エネ目標を無視したと揶揄されるEnergy Sovereinty Billなるものを公表したフランス政府。いい機会なので少しフランスにおける脱炭素の政策的取組をノートにまとめてみた。

記事要約

  • 原発大国のフランス、国民一人当たりのCO2排出量はG7の間で最低

  • 電力は原子力と水力で低炭素化が進んでいるが、エネルギー消費全体でみると化石燃料の消費が依然として多い(特に家庭部門や運輸交通部門

  • あまり目立たない?が、かなり真面目に脱炭素政策作りに取り組んできているフランス政府。最近は原発回帰が顕著。




1.フランスのエネルギー需給傾向概観

人口約7000万人、GDP世界第7位の経済大国フランス。とりあえず、フランスのエネルギーミックスを確認。元ネタはIEAのHP

①電力事情

言わずもがな原発大国フランス。原発と水力発電で大部分の電力需要を賄っているが、近年原発数基が要メンテとなり原発起源の電力が激減(2022年時点で前年比-21%)、それを再エネ(風力&太陽光)&天然ガスで賄っているのが現状。それでも、発電で生じるCO2は他国よりかなり低い(一人当たりのCO2排出量はG7国最低)。

フランスにおける発電の電源別割合とその推移
フランスにおける発電の電源別割合とその推移(出典:IEA HP

※なお、世界全体の電力需給やその潮流はこちらから

②エネルギー転換具合

電力も含めたエネルギー供給全体でみるとどうだろうか。下記は、毎年どれだけエネルギーを供給しているかをエネルギー源毎で表した図。原子力も多いけど、石油と天然ガスといった化石燃料も多い

フランスにおけるエネルギー供給
フランスにおけるエネルギー供給(出典:IEA HP

では、一体どのセクターが、石油と天然ガスをたくさん消費しているのか?がわかるのが下記の図。石油に関しては、交通部門がダントツ。天然ガスに関しては、家庭部門(例:ガス暖房やキッチンなど)と産業部門(熱利用が主かな?)が多い。

セクター毎の石油利用
セクター毎の石油利用(出典:IEA HP
セクター毎の天然ガス利用
セクター毎の天然ガス利用(出典:IEA HP

以上の事から、脱炭素に向け化石燃料の使用を減少させるためには、家庭部門の電力化(例:ヒートポンプとか)、産業部門は代替燃料(水素とか)、交通部門はEV化が求められる、ということがわかる(ほかにも色々あるが、さらなる詳細は割愛)。

2.フランスの脱炭素戦略・政策のまとめ

脱炭素に前向きなフランスだが、これまで数々の上位戦略や法規を制定してきたので、主なモノを整理。

2015年、エネルギー転換法/Energy Transition Lawを制定、これは2030年迄の各種政策目標を盛り込んだ法律。この法律に紐づけされたのが、2050年気候中立を謳ったロードマップである国家低炭素戦略/National Low-Carbon Strategy for 2050(SNBC)

2015年フランス・エネルギー転換法の政策目標
2015年フランス・エネルギー転換法の政策目標(出典:フランス政府 HP

2019年、エネルギー・気候法/Energy and Climate Lawを制定(上述エネルギー転換法の改正)、2050年気候中立目標とCO2削減85% by 2050(90年比)、石炭発電停止 by 2022等が規定された。さらに2020年上述国家低炭素戦略を改定潤沢な資金を盛り込んだ対コロナ経済復興策も併せて、建物セクターのリノベ推進、EVシフトが優先課題とされた。

フランス:エネルギー・気候法政策目標
フランス:エネルギー・気候法政策目標(出典:Atlante HP)

2023年、エネルギー・気候戦略/French Strategy for Energy and Climateを公表。最終エネルギー消費の削減(-30% by 2030 from 2012)、石炭電源廃止by 2027、原発&再エネ拡大などを盛り込んだ。なお同年前半にはフランス2030/France 2030と題する大規模な国家投資計画を打ち出し脱炭素技術への投資加速を謳っている。

3.最近の動き&コメント

2024年初めに公表したenergy sovereignty billというフランス国内法案が欧州界隈を騒がせている。この法案に2030年に向けた再エネ目標が入っていないのが問題とのことだ。欧州レベルでは、フランス政府も(しぶしぶながら)合意する形でREDIII改定により42.5% by 2030を盛り込んだばかり(詳細は以下)。

上述のエネルギー・気候戦略(2023)にも再エネ目標は盛り込まれてはいるのだが、あくまで戦略であり法律/lawではないのでよろしくない、というのが現地Laywerの意見。さらに、同戦略の再エネ目標値は、最終エネルギー消費に対して何%という欧州法規に準じた形で記載されていないのも問題だという。これが、原発ありき&再エネ軽視という批判につながっている。

コロナを経て原発ありきの脱炭素戦略に大きく回帰したフランス政府。欧州レベルの政策決定でも、原発起源の電力を低炭素電源としてアグレッシブに押し込んできている。その一例は投資対象が脱炭素系テクノロジーか否かの判断基準となるEUタクソノミー(詳細は以下)。

というわけで、日本ではドイツやEUばかりで、あまり話題に上らない気がするフランスだが、実は真面目に脱炭素に取り組んでいる。ドイツと違うのは、再エネありきではなく、しっかりと国内産業(例:原子力産業)などを鑑みつつ、フランス独自の脱炭素の道を進んでいるというところ。

脱炭素するうえで、再エネが第一とか原発はだめとかいう人々も少なからずいるが、私は個人的には脱炭素するなら手段を選んでいられない気がするのだがどうだろう。とにもかくにもまずは石炭火力から。しっかりと閉鎖するか、それか日本のように高効率石炭火力としてしっかりと投資判断するか。古い効率の悪い施設を稼働させておくのが一番よくない気がする。


併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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