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欧州: 脱炭素とEUタクソノミー

脱炭素が盛り上がる中、欧州にて顕著になりつつある原発回帰の動き。持続可能な経済活動と投資を分類する枠組みであるEUタクソノミー法を制定した時にも、原発をどうするか大きな議論になったので、少しふりかえってみる。

記事要約

  • 今日時点で、欧州全体の電力需要の約25%を原発が担っている(なお、フランスは、国内電力需要の7割が原発)。

  • EUは、今後10年間で1兆ユーロ相当のグリーン投資を官民連携で計画。その時に役立つのがEUタクソノミー、何がグリーン投資とされるかわかる。

  • EUとしては、原発・天然ガス推進派加盟国の立ち位置も考慮し、原発を条件付きでグリーン投資とみなすと決定。




1.欧州原発利用潮流

今日時点で、欧州全体の電力需要の約25%を原発が担っている旨、フランスは、国内電力需要の7割が原発の旨、前回説明。

2.EUタクソノミーにおける原発の扱い

EU内で原発の話が盛り上がり始めたのは、持続可能な経済活動の類型を決めるEUタクソノミー/Taxonomyを議論し始めた2018年および2019年。

そもそもEUは、欧州グリーンディール達成のために、今後10年間で1兆ユーロ相当の投資計画(グリーンディール投資計画)を開始。その計画の実施のためには金融セクターの拠出が不可欠(公的資金だけでは足らない)。金融セクターから拠出してもらったとしても、化石燃料関連に投資されたら困る。

ということで、投資家の判断材料となる持続可能性/sustainability(何が持続可能な投資で、なにがそうでないか)に関する欧州基準を作って、投資環境を整えようということになり、話に出てきたのがEUタクソノミー。

持続可能性に関する各国の評価基準のばらつきや、グリーンウォッシング(実質を伴わない環境訴求)防止も狙いで、原子力やガスを持続可能な投資に含めるか否かが議論の焦点となった。

2019年12月に最終合意に至り、2020年6月にEUタクソノミー規則EU Regulation 2020/852発行。経済活動が環境的に持続可能であるとみなされるために、下記4つの主要な条件を規定した。EU域内の企業や金融機関は、この基準に基づいて、情報開示が22年1月から求められている。

  1. 6つの持続可能性評価基準(後述)の1つ以上に貢献する

  2. 上記の6つの環境目標のいずれにも「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm: DNSH)」

  3. 国際連合のビジネスと人権に関する指導原則のような「最低限のセーフガード」を満たしている

  4. EUのサステナブルファイナンスに関するテクニカル・エキスパート・グループ(TEG)が開発した「技術的スクリーニング基準」を満たす。

6つの持続可能性評価基準は下記。

EUタクソノミーにおける6つの持続可能性評価基準のイメージ図
EUタクソノミーにおける6つの持続可能性評価基準(出典:sustainalytics
  1. 気候変動の緩和

  2. 気候変動への適応

  3. 水と海洋資源の持続可能な利用と保全

  4. サーキュラーエコノミーへの移行

  5. 環境汚染の防止と抑制

  6. 生物多様性と生態系の保全と回復

持続可能な経済活動から明確に除外されたのは、石炭や褐炭などの固形化石燃料のみガスや原子力については、著しく環境を害することがないものについては、過渡的だが持続可能な経済活動として認められうる、というあいまいな結論。

これだけじゃ投資家も判断しかねるので、もう少し具体的な、個々の経済活動に関する具体的な指標・尺度(スクリーニング基準)は別途定めることになった。

その第一弾が2021年12月に発効した細則(Delegated Reg 2021/2139)で、エネルギー、運輸、製造業など9つのセクターを対象に、その活動が持続可能な経済活動として判断されうるかいなかの詳細な基準を設定(例:自動車であれば、直接CO2排出量ゼロが基準。CO2排出が50 g/㎞以下のものは過渡的活動として2025年迄認める)。

第二弾が2022年2月、欧州委員会が原子力や天然ガスの扱いを定めた細則案を発表、各種条件を満たせば持続可能か活動と認める旨提案。これは、まだ石炭や原子力、天然ガスに頼らざない国(例フランス、フィンランド、チェコ)も多々あることを考慮した形。

脱原発派(例:ドイツ、オーストリア、ルクセンブルグなどの加盟国政府、欧州議会環境派等)から反対意見が挙がったが、最終的に2022年7月に原子力は過渡的ではあるが持続可能な経済活動として分類され、細則(Delegated Reg 2022/1214)が官報発行された。その後環境派欧州議員(ドイツ人、社会党)がこの決定は無効であるとして欧州最高裁判所に訴えたが棄却されている。

原子力と天然ガスのスクリーニング基準の概要
原子力と天然ガスのスクリーニング基準の概要(出典:電力中央研究所SERC、日経ESG

3.思ったこと

原発を持続可能とするか否か、どの国・地域でも意見が分かれるところ。きれいなエネルギー源/Clean Energyとして、活用を推進する国際機関も多々いる。無論、燃料排気の問題はある。そこも含めどうしていくかは、政治の問題となり、国民の総意ということになる。

日本は原発推進派の自民党が与党ということなので、将来的には原発回帰の路線なのだろう(抗戦している方々も多々いらっしゃるが)。日本を出てしまった私があーだこーだいうことではないし、賛成派と反対派双方とも理があるのが原発問題。でも、想定外の地震が絶えず見込まれるような国で原発というのは、素人目には正直不安(プロは大丈夫ですというのだろうが)。

とりあえず、今後も引き続き、欧州脱炭素の行方を追っていきたい。


併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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