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欧州:再エネと原発

脱炭素が盛り上がる中、欧州にて顕著になりつつある原発回帰の動き。最近行われたEU再生エネルギー指令(RED III)改定時にも、原発の取り扱いが議論になったので、その一部始終を振り返った。

記事要約

  • 今日時点で、欧州全体の電力需要の約25%を原発

  • 再エネ指令改定(RED III)時、目標の一つである産業部門使用の水素グリーン化目標原発電源由来の水素を押し込んだフランス。

  • さらに、現在議論されているネットゼロ法案でも、原発がネットゼロ技術として盛り込まれている。




1.欧州&フランスの原発利用

今日時点で、欧州全体の電力需要の約25%を原発が担っている旨、フランスは、国内電力需要の7割が原発。詳細は下記。

2.再エネ目標と原発

欧州における再エネ目標値設定は、古くは1990年代にさかのぼる。当初はまだIndicative target/参考目標値だった。それが法的目標値になったのが2009年の20% by 2020。当時かなり議論が盛り上がったのを覚えている。2030年までに32%という政策票目標が採択されたのが2018年。(さらなる詳細は割愛、タイムラインは下記参照)

EUにおける再エネ政策の歴史
EUにおける再エネ政策の歴史(出典:欧州委員会HP

そして2021年7月、に欧州委員会が再エネ指令改定案(REDIII)を発表、2030年目標としてEU全体エネルギー・ミックスのうち32-40%を再エネでまかなうことが提案された。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受け、2022年5月、欧州委員会がREPowerEU Planなる戦略ペーパー(欧州委員会コミュニケ)を発表、ロシア産ガスからの早期脱却を目指し、2030年再エネ目標を45%に引き上げようよと提案

同年9月に欧州議会も大賛成したが、加盟国側は意見が分かれ(仏らが反対)、2022年3月に最終的に42.5%で合意(なお、22年時点で欧州全体の再エネシェアは22.1%)。

原発電力を使った水素生成モデルのイメージ図
原発電力を使った水素生成モデル(Photo: Scharfsinn/Shutterstock.com)

そのまま法案が可決されるかに見えたが、最後の最後でフランス政府が他の原発推進派とともに理事会の議論をブロック

REDIII 案には実は、上述の2030年再エネ目標の他、産業部門で使用する水素のグリーン化目標(2030年までに42%、2023年までに60%をバイオ由来の再生可能燃料にする)があるが、そこに原発電力由来の低カーボン水素を考慮せよとの主張を展開したのだ。

結局、原発推進派に考慮する形で合意に至り、最終的にREDIII(Directive 2023/2413)が官報発行に至り、REDIIIが発行。

現在、主戦場は2023年3月に欧州委員会が提出したネットゼロ産業法案(NZIA)に移っている。ネット・ゼロ実現のための技術への投資環境を整え、域内で生産能力拡大させることが狙い。11月に欧州議会が修正案を採択、そこに原発もネットゼロ技術として盛り込まれた。加盟国側では意見が割れていたが理事会案採択に至り、2023年12月に三者協議に突入、2024年2月迄の暫定合意を目指している。現状、2030年目標(脱炭素に向けた戦略技術の40%を欧州域内で確保)、原発も考慮する形で議論が進んでいる

3.コメント

再エネは欧州連合が注力している分野の一つ。世界的にみても欧州は、中国に次いで再エネ導入を頑張っている地域となっている(規模は違えど)。しかし、現状のペースでは2050年迄の脱炭素に足りないとIEAが言っており(詳細は下記から)、またEUグリーンディールとの整合性を担保するためにも、再エネ目標値を引き上げた形。

無論、国によっては再エネ一辺倒というのは色々な理由で厳しい。環境負荷はあれど、適切に放射性廃棄物を処理することで、原発を低炭素電源としてカウントしたい、という原発推進派の攻勢が見られる。EUタクソノミーの原発分類もその一つ。そしてNet zero産業法案も原発含む方向なので、欧州としては原発ありきの脱炭素となりそうだ。

そして原発回帰は世界全体の兆候でもあることが、IEAの電力2024報告書からも顕著。日本のPolicy makers達がこの動きをどう見るのか(いろんな意味で日本での原発は厳しそうではあるが)。

とりあえず、今後も引き続き、欧州では原発回帰旋風が吹き荒れそうな予感。


併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。

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