ドイツ:脱炭素現状と政策
脱炭素といえばドイツ、というくらい気候変動対策に前のめりな姿勢を示すドイツだが、その実態はどうなのか。足元を見れば脱炭素反動とも見れる動きが国内で見受けられ、Euro7やCO2規制などEUレベルの環境規制にも待ったをかけるなど、ここ来て足元が揺らぎ始めている感があるドイツ。その現状をサクッと整理してみた。
記事要約
いまだに石炭火力発電が一番大きなシェアを占めているのが、各種再エネが着実に普及しつつあるドイツ発電部門。
エネルギー供給全体でみると、原子力が多いフランスに比べ、石炭、天然ガス、石油といった化石燃料が圧倒的に多い。
野心的な政策目標を掲げるが、脱炭素反動も見受けられるのが現状。
1.ドイツのエネルギー需給傾向概観
人口約8000万人弱、GDP世界第3位の経済大国ドイツ。IEAのHPを参考にドイツのエネルギーミックスを確認する。
①電力事情
まずは電力/発電事情。2023年に脱原発を成し遂げたドイツ。いまだに石炭火力発電が一番大きなシェアを占めているのが、各種再エネが着実に普及しつつある。2022年断面では、石炭が33%、天然ガスが15%、風力が21%、太陽光が10%。結果として、発電で生じる一人当たりのCO2排出量は、G7国内で、アメリカ、カナダ、日本に次いで四番目
※なお、世界全体の電力需給やその潮流はこちらから
②エネルギー転換具合
電力も含めたエネルギー供給全体でみるとどうだろうか。下記は、毎年どれだけエネルギーを供給しているかをエネルギー源毎で表した図。原子力が多いフランスに比べ、石炭、天然ガス、石油といった化石燃料が圧倒的に多い。
※フランスのエネルギーミックスはこちらから
では、一体どのセクターが、石油と天然ガスをたくさん消費しているのか?がわかるのが下記の図。結局どの国を見ても同じ気がするが、石油に関しては、交通部門がダントツ、天然ガスに関しては、家庭部門(例:ガス暖房やキッチンなど)と産業部門(プロセス熱など)、石炭は産業部門。
以上の事から、脱炭素に向け化石燃料の使用を減少させるためには、家庭部門の電力化(例:ヒートポンプとか)、産業部門は代替燃料(水素、電力、他)、交通部門はEV化が求められる(これら課題は、他の国ともほぼ共通)。
さらなる詳細はIEAによるドイツ・エネルギー政策レビュー(2020年版)が詳しい。
2.ドイツの脱炭素戦略・政策のまとめ
ドイツの脱炭素戦略をサクッとまとめると下記の通り。
気候目標:2030 年 65%削減(1990 年比)、2040 年88%削減、2045年気候中立、2050年ネガティブ排出 by 2019 連邦気候保護法(ほかにもセクター毎の排出キャップやそのモニタリングなども盛り込まれた)
再エネ:2030年80%(発電量ベース)、2035年100% by 再生可能エネルギー法 (EEG)
原発:2023年廃止済by原子力法(第13回改訂、AtG)
石炭:2038年までに脱石炭by脱石炭法(2020年、KVBG)。現政権目標は2030年。
これら目標を達成するためにドイツ政府は行動計画を公表してきているが、重要なのが2019年に施行された連邦気候保護法を実施するための計画を記した気候保護プログラム2030。そのコアが、運輸・熱部門のカーボンプライシング「国家排出量取引制度/Das nationale Emissionshandelssystem(nEHS)。環境連邦庁(UBA)の管轄の元、2021~2025 年を導入段階として固定価格で排出権を販売、2026 年からは価格が変動する入札制度へ移行。同年に燃料排出量取引法/Brennstofthemissionshandelsgesetz(BEHG)を採択し、主に暖房や輸送に使用される燃料上乗せするCO2価格を法的に導入。
3.最近の動き&コメント
再エネ重視で突っ走るドイツ、やはり石炭火力を何とかしないと気候中立は難しいのは誰もがわかる話。脱原発をしたこともあり、フランスに比べ一人当たりのCO2排出は高くなっているのが現状。マクロ経済状況の悪化により、風力発電の伸びも最近鈍化傾向。さらには、脱炭素に前向きな現政権も国民の支持を失いつつある上、最近脱炭素反動の動きがみられたばかり。
※ドイツにおける脱炭素反動はこちらから
とにもかくにもまずは石炭火力から。しっかりと閉鎖するか、それか日本のように高効率石炭火力としてしっかりと投資判断するか。古い効率の悪い施設を稼働させておくのが一番よくない気がする。
併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。
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