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【読書】思い込みや偏見のメカニズム/「FACTFULNESS」から

教育、貧困、環境、エネルギー、人口など幅広い分野について、インテリであればあるほどとらわれがちな思い込みとその背景要因を指摘。データや事実に基づき、世界を正しく読み解く習慣を身に付けることが大事であることをあつかったハンス・ロスリング氏の本。

要約

  • 本書は読者に対し13の質問を投げ掛ける。世界全体の小学校就学率であったり、絶対的貧困にある人口数、平均寿命、子供のワクチン接種率等。

  • 知識層であればあるほど、回答率が下がる(間違いが増える)

  • 要因の一つは、知識のアップデート問題。もう一つの要因は、脳の仕組み/本能的感覚/instincts。




1.本の紹介

本のタイトルは「Factfulness: Ten Reasons We're Wrong about the World--And Why Things Are Better Than You Think」(2018年刊行)で、邦訳あり(FACTFULNESS―10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣)。

著者はスウェーデン人医師&公衆衛生学者のハンス・ロスリング/Hans Roslingさん(1948-2017)。2012年、世界で最も影響のある人物100人に選出。

ハンス・ロスリングさん

Ted Talksにも何回も登壇。私が見たのは以下。超面白いのでおすすめ。


2.本の概要

サーカス等でお馴染みの真剣を飲み込む曲芸に対する著者の情熱の話から始まる本書。長年不可能だと思っていたが、ひょんな事からハウツーを学び出きるようになったというストーリーだが、それは本書のテーマでもある人の思い込みや偏見、そしてそれらを改める方法を提示するという本書の目的を反映するストーリーともなっている。

世界の1歳児のワクチン接種率は何%(20%、50%、80%)?。世界の平均寿命は(50才、60才、70才)?低所得国グループ全体で、女子が小学校を修了する割合(20%、40%、60%)?など、本書は読者に対し13の質問を投げ掛ける。世界全体の小学校就学率であったり、絶対的貧困にある人口数平均寿命子供のワクチン接種率等。

興味深いのが、著者が様々なバックグラウンドを持つ人々にこの手の質問を投げ掛けて回答率を分析したところ、知識層であればあるほど、回答率が下がる(間違いが増える)ということ。

その要因の一つは、知識のアップデート問題。知識層の回答を分析すると、例えば絶対的貧困者数等が好例だが、数十年前の情報に基づいて誤回答をしているケースが多々見られる。

もう一つの要因は、脳の仕組みにあるという。人間が進化する過程で、ジャングルでの生存率を高めるような本能的感覚/instinctsを身に付けていった人間の脳。サバイバルで役立つそれらを本能的感覚は、ここ数百年or数十年足らずで大きく変化した人間社会では、事実を正しく認識し行動する上での阻害要因になっているという。

  1. ギャップ本能/gap instinct: 先進国vs途上国、我々vs彼ら等、物事を二つの異なるグループに分けて考える傾向があるが、実際は何事にもグラデーションがあるし二分割は乱暴。例えば国の経済状況、先進国vs途上国ではなく、発展状況に応じてレベル1~4分割して考えるべき。

  2. ネガティブ本能/negative instinct: 悪い出来事や事や情報の方が、記憶に残りやすく、そのため人は物事を悲観的に捉えがちだが、実際はそれほど悪くもない(例: 世界の平均年齢や子供のワクチン接種率等の意外と良い)。

  3. 直線本能/Straight line instinct: 世界人口が好例だが、物事の増加や悪化を直線的に想定しがち。しかし、世界人口がゆっくりとカーブを描くようにピークアウトしていくように、他の物事も直線的な展開にはまずならない

  4. 恐怖心/fear instinct: 人々の4大恐怖は蜘蛛、蛇、高所、閉所。大昔ではサバイバルに役立つ感覚だが、現代社会ではリスクの過大評価に繋がる(例: 飛行機事故への恐怖等)

  5. 一般化本能/generalization instinct: 物事をカテゴリー化し、単純化、勝手に決めつけてしまう傾向。

  6. 運命を信じる本能/destiny instinct: 例えばアフリカ経済は発展しない等の、根拠のない運命論や現状がそのまま続くと考えがち。

  7. 一つの視点で物事を捉えがち/Single perspective instinct: 自由市場や平等など、一つのコンセプトや解決策から物事を見る傾向にあるが、実際はもっと複雑(経済発展やGDPでその国の全てがわかるわけでもない事が好例)。

  8. 問題発生時に人を責めがち/Blame instinct: 環境問題や健康問題の原因を、悪意を持った個人(例: 特定の悪徳企業、嘘つきジャーナリスト、外国人)などに求めがちだが、得てして個人の問題でないケースが多い。

  9. 緊急性本能/urgency instinct: 物事を決断する時に、緊急性プレッシャーを感じた。

これら本能的感覚をコントロールする術を本書は提示しているが、それは割愛。

3.コメント

非常に興味深い内容。私も著者の冒頭の質問に間違えまくった。世界は私が考えるより大部良かったのだ。しっかりと数字やデータを見ることで正しい現状認識をしようということ。

そして人は自分の身の回りや将来のことについてはポジティブシンキングなのに、こと世界情勢とか政治状況になると悲観的になるのは興味深いし、進化論的な説明がつくのだろう。

※人の楽観主義的思考についてはこちら

だが、私の心に一番響いたのは、数字ギークな著者の、数字は大事だがあくまでツールでそれを使うもの次第という言葉、そして数字より大事なものが人にはあるというメッセージ。それは経済発展指標では捉えられない個人の自由や文化といったものの大切さということ。

…some of the most valued and important aspects of human development cannot be measured in numbers at all….the end goal of economic growth is individual freedom and culture, and these values are difficult to capture with numbers.

P. 192

ハンス・ロスリング先生には叡知を後世に残してくれて感謝。安らかにお眠りください。R.I.P.

最後に一言

さくっと読めるのでおすすめ。色々と自分や周りの人の思考や行動をよりよく理解する知的ツールを提供してくれる本。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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