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【読書】哲学王からの教訓/「自省録」から

古代ローマ皇帝にして、ストア派哲学者として名高いマルクス・アウレリアスの書で、言わずと知れた名著。

記事要約

  • 著者は第16代ローマ皇帝かつ五賢帝最後の皇帝であったマルクス・アウレリウス・アントニヌス (121年-180年)。

  • 第1部は、皇帝マルクス自身がこれまで関わった人々からどんなことを学んだがが箇条書き、第2部から色々と教訓が羅列し始められるが、どれも現代人の私の心にも刺さる言葉が満載。

  • 権力は腐敗する、という格言があり、それは概ね正しいことは歴史が証明しているが、このローマ皇帝だけは例外。




1.本の紹介

本のタイトルは「Meditations/自省録」(170-175年執筆と推定)、著者は第16代ローマ皇帝かつ五賢帝最後の皇帝であったマルクス・アウレリウス・アントニヌス/Marcus Aurelius Antoninus (121年-180年)。当方が購入したのは、Donald Robertsonなる作家による英訳版(2020年刊行)。

本書はどうやら、マルクスがローマ帝国北部にて異民族との交戦中に執筆したというのだから驚き。ちなみに戦争にしていない時のマルクスは、Legal casesや民の嘆願を聞くことに日々忙殺されていたらしい。そんな中書き溜めたノートをまとめたのがこの自省録で、計12部から構成される。

なお、当方が本書を手に取ったきっかけは、以下の動画/スグルー教授による哲学講義。この本に書かれていること、その時代背景、皇帝マルクスの人物像を理解するにはうってつけの材料。

2.本の概要

本書冒頭に、訳者本人による前書きがあり、私のような🔰にもマルクスの世界観に浸りやすい構成になっているのが本書の良いところ。

その前書きによれば、創始者ゼノに始まり、Living in accord with Natureをモットーとするストア派哲学は、①合理的思考を駆使して日々賢く生きること、②賢さ/Wisdomや正しさ/Justice(FairenessやKindness含)をもって他人と接すること、③運命/Fateを受け止め、日々の恐怖や怒りなどを乗り越え賢く正しく生きていくこと、の3点を重視。ストア派哲学はローマ帝国下にて大いに栄え、初代ローマ皇帝もストア派哲学者から教えを受けており、この自省録も、このようなストア派哲学的な観点からの戒めや教訓が記載。

早速本文だが、第1部は、皇帝マルクス自身がこれまで関わった人々からどんなことを学んだがが箇条書きにされている。「祖父ヴェルスからは道徳と怒りからの解放を学んだ」から始まるこの第一部は、彼の父や母、そして家庭教師たちの名前を列記し、彼らから学んだことがいかに大事であったか、そして彼らに出会えたことを神に感謝するという内容。

第2部から色々と教訓が羅列し始められるが、どれも現代人の私の心にも刺さる言葉が満載。第2部から12部迄それぞれ固有の特徴があったり、執筆時の背景が違ったり(というのも一気に書き上げたモノではないはず)するのだろうが、それは専門家に任せるとしてここでは私の心に刺さった言葉をいくつか抜粋。

朝が始まったら、今日一日けしからんやつらに出会うことになるが、下手に怒ったり憎んだりはしないよう、まずは自分に言い聞かせなさい。

Begin the morning by saying to youself, I shall meet with the busybody, the ungrateful, arrogant, deceitful, envious, unsocial….. , I can neither be injured by any of them, for no one can fix on me what is ugly, nor can I be angry with my kinsman, nor hate him. For we are made for cooperation…

Book Two, p. 15

他人の事を考えて自分の大切な時間をロスするのはやめよ

Do not waste the remainder of your life in thoughts about others, …

Book Three, p. 25

死とは自然なモノとして受け入れるべし

Death is such as generation is, a mystery of nature; composition out of the same elements, and a decomposition into the same; and altogether not a thing of which any man should be ashamed, for it is not contrary to the nature of a reasonable animal, and not contrary to the reason of our consititution.

Book Four, p. 36

あたかも何万年も生きられるかのように行動すべきではない。死は身近にある。

Do not act as if you were going to live ten thousand years. Death hangs over you. While you live, while it is in your power, be good.

Book Four, p. 37

Do not disturb yourself. make yourself all simplicity. does anyone do wrong? it is to himself that he does the wrong…. in a word, your life is short. you must turn the present to profit by the aid of reason and justice. be sober in your relaxation. 

Book Four, p. 40

Soon, very soon, you will be ashes, or a skeleton, and either a name or not even a name. … and the things which are much valued in life are empty and rotten and trifling, and [like] little dogs biting one another, and little children quarelling, laghing, and then straightway weeping. But fidelity and modesity and justice and truth are fled. 

Book five, p. 59

…Consider whether you should not rather blame yourself, because you did not expect such a man to error in such a way.

Book Nine, p. 122

I have often wondered how it is that every man loves himself more than all the rest of men, but yet sets less value on his own opinion of himself tha n on the opinion of others. 

Book Twelve, p. 155

3.感想

色々と時代背景や皇帝マルクスの人物像に迫った上でこの本を手にすると、正直圧巻の一言。当時絶対的な権限を持っていたローマ皇帝のマルクス・オーレリウスが密かに付けていた自分用ノート、そこに書かれているのは人々への感謝とストア派哲学的観点から自分への戒め。

上述のスグルー教授の講義にもあるが、彼ほどの絶対的権力を持てば、贅沢三昧したり、おいしいものを食べたり、好きな女性を手に入れたりと何でもできたはず。そして気に入らない人がいれば、即刻処刑する、なんてことも。。。

しかし彼はそんなことには興味を示さず、むしろ自戒の意味を込めて、こうすべきああすべきと淡々と行動規範のようなものを書き下ろしている。しかも日々戦争と政治に忙殺されている中、その合間の時間を使ってこういったものを書いている。

権力は腐敗する、という格言があり、それは概ね正しいことは歴史が証明しているが、このローマ皇帝だけは例外。まさにソクラテス/プラトンの言う哲学王政/Philisopher Kingを体現した皇帝。

そんな素敵なローマ皇帝に対し、私は恥じ入るばかり。偉人に触れる毎、同じホモサピエンスなのになぜここまで個体差が出るのだろうといつも思う。私は仕事や子育てに追われ、時間がないと言い訳をして怠惰な生活を送っているし、他人の眼を気にしたり、他人の行動に対してイライラしたり。私も人生ちょうど折り返し地点、ソクラテスの言うan examined life、それを実践するマルクス・アウレリウスの生きざまを参考に人生後半戦を戦っていこう、と思わされる素敵な一冊だった。

最後に一言

なお本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


あわせて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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