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【読書】気候変動って真っ赤なウソ?懐疑派の心情に迫る/ 「世界を騙しつづける科学者たち」から

世を騒がせる気候変動/地球温暖化、最近では地球沸騰などとも呼ばれたりしているが、そんなのは真っ赤なウソだと主張する人々がいる。しかもそれが、著名な物理学者や科学者だったりする。そこら辺の裏事情を掘り下げた一冊。

記事要約

  • 気候変動や地球温暖化など、既に確立された科学的知見に異を唱える懐疑派科学者達、彼らの戦略やそもそもの動機に焦点を当てた作品。

  • 気候変動の問題だけでなく、タバコの有害性や酸性雨、DDT、オゾン層破壊など、今では疑いようのない問題に関しても懐疑派は存在。黒とはっきりしている問題でさえ、政府介入を遅らせてしまう一部の学者やロビイスト達の力は驚嘆。

  • 気候変動懐疑派の言う事が正しいかどうかは私にはわからないが、明日地球が滅びるとしても今日リンゴの木を植え続けるか否か、究極的にはそういう類いの問題。




1.本の紹介

世界各地の異常気象などで気候変動問題に対する機運が世界的に高まる中、それと同じくらいの盛り上がりを見せる気候変動懐疑主義。双方の主張を真面目に聞けば聞くほど、どっちが正しいのか私にはわからなくなる自分がいる。

そしてそもそも科学ってなんだっけ?どこまで信憑性があるものなの?と疑問が止まらなくなり、手に取った一冊。

ハーバードやカルフォルニア大学等米国一流大学で教壇に立つ科学史教授ナオミ・オレスケス(Naomi Oreskes)とNASA・ジェット推進研究所所属研究員エリック・コンウェイ(Eric M. Conway)による共著で、本のタイトルは「Merchants of Doubts How a Handful of Scientists Obscured the Truth on Issues from Tobacco Smoke to Global Warming」(2010年刊行、Bloomsbury Press社)。一年遅れて、邦訳「世界を騙しつづける科学者たち」も出版(2011年刊行、楽工社)。

2.本の概要

タバコの有害性や酸性雨、DDT、オゾン層破壊、気候変動等の影響に関して科学コミュニティーの中で統一見解が存在するにも関わらず、一部の著名な科学者たちは、その研究成果に疑問を呈し、政策決定に混乱を招いていると主張。

これら科学者たちは、科学的研究結果の方法論やデータの信憑性に疑問を投げかけ、引き続き研究調査が必要である旨主張、その立場を利用して保守系シンクタンクや政治家と結託し、意図的に政治論争を巻き起こすという手法を駆使する。

一部の科学者たちとは、原爆開発や宇宙研究にもかかわった著名な物理学者たちのことで実名も挙げられている(ウィリアム・ニーレンバーグ、フレデリック・サイツ、フレッド・シンガー等)。

彼らはいずれも反共産主義者で市場原理主義&自由市場資本主義的者。その思想に真っ向から対立するのが環境規制等政府の介入主義であり、そこに地球温暖化懐疑論を展開する真の動機があると本書は主張している。

3.感想

①どっちが正しいのか、私にはわからない

気候変動が人為的なものであることは世界の著名な学者の集まりであるIPCCの度重なる調査報告で明らかにされているが、それに対する反対意見を言う気候変動懐疑派もいることは確か。気候変動懐疑派というとまず脳裏に浮かぶのがトランプ前アメリカ大統領。

気候変動懐疑派であるドナルド・トランプ前米国大統領
出典:CNN

しかし、著名な科学者や物理学者が懐疑論を唱えるとなると話が違ってくる。この頃日本でもメディアで頻繁に見かける地球温暖化懐疑論、最近では、米国理論物理学者のスティーブン・クーニン(Steven E. Koonin)氏による気候危機説に対する懐疑論が話題になり、日本でも地球温暖化懐疑派代表格のキャノングローバル戦略研究所杉山氏が「「温暖化予測は捏造だ」米国を代表する科学者が喝破」と題する記事で本件を取り上げている。

私は一応、関連業界の環境規制エキスパートとして飯を食っているが、どの科学者が言っていることが正しいのか、わからないというのが正直なところ。科学的研究結果の方法論やデータの信憑性の話まで掘り下げられると、もう大多数の人はついていけない。

②ロビイストの力

本書が言う通り、気候変動懐疑派は一部の偏屈な学者や金に目がくらんだロビーイストの陰謀かもしれない(本書はそこまで言ってないが。。。)ことはさておき、私はロビーイストたちの暗躍に驚愕。

業界は違えど同じ産業界規制エキスパートとして働く者の視点からみると、タバコの健康被害といういわば見解が明白なイシューですら、一部の学者やロビーイストは政府行動に大きなブレーキを掛けさせるほどの力、すなわち黒を白かグレーに持っていく力を持っていることを本書から学んだ。

③結局、気候変動は政治的な問題

欧州での昨今の環境議論を見ると、みんなグリーンなことしか言わない人たちが増えた気がする。欧州委員会の担当官にせよ、欧州議会の政治家にせよ、こういった人々は業界からいかに現実的な議論を展開しても聞く耳持たず。

業界の声に耳を傾ける政治家たち(いわゆる保守派の方々)もいるが、欧州グリーンディールという大きな波には抗えない。きっと、国連下の専門家組織である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)内での議論もそうなのだろうと推測する。

環境規制もある一定レベルを越すと、重箱の隅をつつくような規制となり、コスト高となる。結果、人々の生活に影響を与えることになる(例:ガソリン代、車価格等)。それでも突き進むべきなのか、そこはバランスを取るのか、そこは結局政治が決める話。

結局最後は、ルターの諺だったか、たとえ明日世界が滅びるとしても、今日私はりんごの木を植え続けるのか否かという問題。気候変動/脱カーボンに関しては下記も参照

最後に一言

環境や気候変動懐疑派の人々の考えや思い、行動原理を知りたい人にはうってつけの一冊。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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