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【読書】自由主義とは?

現代社会に浸透し尽くして、もはや当たり前の存在となった自由主義個人の尊厳や言論の自由を支えるこのイデオロギーに対する信頼が世界中で揺らでいる。自由民主主義を脅かす権威主義が台頭し始めている今日だからこそ読んでおいて損はないフランシス・フクヤマ氏の一冊。

要約

  • 世界各地で後退しつつある自由民主主義。その背景には、右左に極端に推し進められた自由主義の亜流(例: 右派新自由主義、左派進歩主義)に対する不満や失望からの自由主義が信頼を失いつつある。

  • トランプやプーチンに代表される権威主義的強いリーダー/strong manの台頭と人心掌握によりその流れは加速、言論の自由さえ失なわれつつある。

  • 政治学入門書といっていいぐらい、当たり前だけど重要なことが書いてあり、私が大学でゼミを持っていたら学生に絶対読ませたい本の一つ。




1.本の紹介

本のタイトルは「Liberalism and its discontents」(2022年刊行)で、邦訳は「リベラリズムへの不満」。

著者はアメリカ人政治・経済学者で、スタンフォード大学でシニア研究員を勤めるフランシス・フクヤマ氏(1952年~、日系三世)。「end of history」が著作としては有名。

フランシス・フクヤマ
フランシス・フクヤマ氏

著者の動画は結構散見されるが、カナダのTVプログラム TVO Todayでゲストとして登場した動画が一番良い。

このTVプログラムの司会者スティーブさんの知識が豊富、むちゃくちゃ勉強している事を伺わせる話し方。フランシスさんに投げ掛ける質問も秀逸、自由主義や関連するテーマや問題について深いところまで掘り下げていて非常に興味深い。

2.本の概要

一人歩きをし始め、今では色々な考えや主張をリベラリズム/自由主義と指すようになった。著者はそれに苦言を呈し、古典的な自由主義のあり方を問い直し、それを擁護する目的で執筆。

自由主義とは
自由主義とは

①そもそも自由主義とは

そもそも自由主義とは、17世紀後半に現れ始めた一つの教義/doctrineを指す。それは、憲法等の法によって政府の権力に制限をかけ、個人の権利を保障する制度作りをすべき、という教義。その原則の元、各個人の平等な権利、法の秩序、自由を尊ぶ政治的考え方である。

よく民主主義と上記の自由主義を混同してしまうが、本来は全く別物。民主主義はあくまで民衆が支配する体制の事であり、普通選挙という形で制度化されている。

著者が古典的自由主義を擁護する理由は三つある。

  • 実用性/Pragmatic: 暴力を規制し、多種多様な個人が平和に生活を送る事を可能とする。

  • 規範/moral: 人間の尊厳や自立/autonomyを担保。

  • 経済性/economic: 私有財産権と自由な商取引を担保することで、経済成長とイノベーションが生まれる。

一方、古典的自由主義の教義・原則一部は極端な解釈が可能であり、それを突き詰めてしまうと、古典的自由主義に対するアンチテーゼ的な亜流教義が生まれる。

②新自由主義/neoliberalism

その一つが新自由主義。人間の自由や自立の原則を、自己責任/personal responsibilityにまで極端に推し進めて解釈。健全な市場機能と人々の自由な取引を担保する手段として規制緩和/deregulationや私有化/privatisation の考えが現れた。

その新自由主義的政策を実施し始めたのは右派のサッチャー(イギリス)やレーガン(アメリカ)だったが、トニー・ブレアやビル・クリントンら左派時代でも支持を得た。

新自由主義的リーダー達(出典: the American prospect

そして新自由主義と密接に関係するのがリバタリアニズム/libertarianismで、個人の自由の最重要視、大きな政府を極端に嫌う考え方。

しかし、これら新自由主義/リバタリアン的政策は、市場原理の過度の信頼、金融市場の過度なリスキングを許し、金融危機や経済格差等、数々の悲劇を引き起こす要因ともなったと結論付けている。

問題は、それらを主張する新自由主義的経済学者が、市場の効率性/Spontaneous efficiencyやリソース配分の最適化/Resource alloaction等、市場や人々の合理性という現実世界ではあり得ない想定をしてしまっていること。なので間違ってないけど不十分ということ。

③アイデンティティー・ポリティクス

人間の自立/autonomyの原則を、人々の選択の自由から選択する能力まで、そして個人レベルではなくグループ/コミュニティ/ジェンダー/人種としての権利というところまで推し進めて考えたのが、進歩主義的左派。

アイデンティティー・ポリティクス
(出典: Hofstra news)

それは、人々の持つ才能や能力をコミュニティの共通財産と考え、利益再分配をすべというコミュニティ主義的な考え方に繋がる。

そしてそれは人間の自立を担保すると言っておきながら、上記の左派原理主義的なレベルまでタンポしようとしない古典的自由主義への批判へと発展する。

それはCritical theoryと呼ばれる現実を客観的に存在するものでなく主観的解釈とするポストモダンな理論で、資本主義階級による政治権力の掌握、一部の人種による支配、西側諸国による他の植民地的支配、マイノリティ・グループの弾圧、そして結局自由主義の行く末は、新自由主義でしかないという批判だ。

そしてそういった左派の主張を、極右のポピュリスト達も取り入れていくこととなる。その一つに科学的見地に対する懐疑的見方であり、そのうらには陰謀論の信奉がある。

④言論の自由の危機

古典的自由主義の原則である言論の自由。これも右派左派過激派に脅かされている。

極右政党やポピュリスト達がまず掌握にかかるのはメディア。テクノロジーの進歩もあり情報が溢れる昨今、人々は目にするニュースを取捨選択。能動的にやる場合もあれば、ニュース提供側がやる場合も。結果、人々は自分の考えに則した情報しか目にしなくなる。そして情報の質も問われない。

言論の自由の抑圧
(出典: Pacific Legal Foundation)

左派は、何らかの差別的発言に対して過度なまでに不寛容になり、それは公的な場だけでなくプライベートにおいても、不適切と判断されうる発言を控えるべき・罰するべきという立場。無論不適切発言はダメだが、人々のプライベートまで言論の自由が縛られ始めたこの状況を懸念。

今後に向けた提言も含め、他にも色々と論じられているが割愛。

3.感想

難しいテーマだが非常に分かりやすくまとめられている。そしてここまで自由主義を突き詰めて考えたことがなかったので、大変勉強になる本。というかこういう本こそ、政治学の入門書と呼ぶべき(政治学入門書は腐るほどあるけど、この本を読む方が全然ためになる)。

著者としては、自由主義的社会を人間社会の一つの到達点としてみている。そして、それは空気のように当然に自然界に存在するものではなく自由主義社会の一員たる我々が意識的に守り抜くべきもの、とインタビュー画像で発言しており激しく同感した。

自由主義とは個人主義に傾倒した西側文化から生まれたものであり、イスラムや中国、インドやロシア等は集団を重んじる文化、西側の物差しを押し付けるべきでないというロシア人研究者の批判。これに対しては、文化的差異については一理あるが、人間誰しもに通じる共通項的なものもあり、それはある程度、教育経済発展が進んではじめて生じるものもあるとしている(例: ロシアや中国でも比較的富裕で教育を受けた中間層の権威主義的体制への不満)

最後に一言

おすすめ。読むの簡単で分量も少なくさくっと読める。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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