【読書】 昨今の社会的分断の原因はなにか?/「Why We're Polarized」から
各国差はあれど、どの国でも大なり小なり騒がれている社会的分断。日本では主に経済/教育的格差が注目されがちだが、米国ではすでに日常生活の隅々にまで影響を及ぼしている。その原因とプロセスを明快に描き出した一冊。
記事要約
我々のDNAに組み込まれた集団帰属意識/Group Affiliationが、自己/個人利益を超越する集団としてのアイデンティティーを形成(例:スポーツ)。
その集団アイデンティティが政治化したのが、自己を特定の党(集団)への帰属意識である政治的党派性/Political partisanship。
このPartisanshipが、日常生活のあらゆる側面と混じり合い、食べるものから住むところまで進むと社会の分極化/社会的分断となり、集団同士の会話が困難になる。この分極化の負の連鎖を生み出している要因の一つにメディアがある。
1.本の紹介
世界各地で政治・社会的分極化が進み、ポピュリズムの台頭が著しい。なぜ社会はここまで分極化が進んでしまったのか?と疑問に思い、手にした一冊。
本のタイトルは「Why We're Polarized」(2020年刊行)。邦訳は現時点でのなし。
著者は、進歩主義的立場のジャーナリストエルザ・クライン(Erza Klein)。Trevor Noahによる米国人気番組the Daily Showに出演、本の概要を面白おかしく説明している。
2.本の概要
アメリカ政治を題材に分極化や対立、社会的分断の問題を深堀。これらの問題は得てしてバラク・オバマやドナルド・トランプなど、「人」にフォーカスした分析になりがちだが、本書は様々な事例に触れつつ、アメリカ政治社会の構造的問題にフォーカス。
人の脳は、進化論的にも生物学的にも、Group Affiliation/集団帰属意識というものを植え付けられている。この場合の集団とはあくまで小集団の事。そして人は、自分が帰属する小集団が他集団との競争に勝ち残るためには、犠牲を厭わない。このGroup indentity/集団アイデンティティは、自己利益という概念を超越する。スポーツは人の集団帰属意識を刺激する典型例。
政治もスポーツと同様、集団帰属意識を刺激する一種のゲーム。ライバル政党の主張に対し、激しい怒りを覚え、競争に勝つために、同じ集団に所属する人々とタッグを組む。こうして人々のPolitical identity/政治的アイデンティティが形成される。Group affiliation/ 集団所属意識の作用はさらに、所属集団メンバーがどの町に住むべきか、どこで買い物をすべきか、余暇をどう過ごすべきかなど、人々の一般生活にまで及び、すべてをPoliticize/政治化していく。
同時に、他集団に対し不寛容になっていく。アメリカ人家庭を対象とした調査によると、異なる政治立場/affiliationを持つ人を家族として迎え入れること(例:子の配偶者)に対して、60年代では4‐5%が反対だったが、2010年時点では49‐33%が反対という結果になっている。Political partisanship/政治的党派性が、一般生活の奥深く迄影響を拡大してきていることを示している。
一旦社会の分極化が始まると、負の連鎖が始まる。その負のフィードバック・ループ/feedback loop of polarizationに一役買っているのが、メディア。アルゴリズムなどを使い、人々の嗜好や政治的傾向を特定、偏ったニュースを流すとともに、同じ政治的嗜好を持ったコミュニティーに誘う。そこに足を踏み入れると集団的帰属意識が機能しだし、異なるコミュニティーを敵だと見做すようになる。
以上の論理を持ってアメリカ政治を分析。アメリカの大統領制度下では、大統領と議会、どちらが民意を反映しているかの議論になりやすい(特にねじれが生じているとき)上、group affiliationが作用しやすい環境にある。
それが一度作用し出すと、各々が互いを受け入れず攻撃的になるnegative partnershipに陥る。その結果、政党同士互いをライバル政党ではなく政敵と見なし、政党間対話は不可能となる。超党派協力/bipartisan cooperationは難しくなり、各党はどんな手段を使っても選挙に勝とうとする。その結果としてトランプの大統領当選があるとの解釈。さらにアメリカ政治の分析が続くが割愛。
なお、著者が本書で引用したトロント大学哲学者のジョセフ・ヒース(Joseph Heath)の描写が秀逸なので、以下引用。
3.感想
我々のDNAに組み込まれた集団帰属意識が集団アイデンティティー化、それが政治化し、政治的党派性/Political partisanshipへと繋がっていく旨を、わかりやすい言葉で紡いだ良書。著者がジャーナリストということもあるのか、自分の研究というよりも、様々な既存研究を寄せ集めて自分なりのストーリーを描き出すという手法を取っている。
世界中で政治・経済・社会的な分断が起こっている。著者が掘り下げたアメリカ社会では、対話が難しくなっていることは統計的にも指摘されている。Pew Research Centerによる調査(下記の図)でも、米国民の政治イデオロギーの分断傾向を示している。
下記の図は、相対する政党を「競争相手」ではなく「敵/脅威」と見なす傾向が強まっていることを示している。
無論、私の住む欧州でも社会的分極化が進み、現状に不満を覚える市民らの思いを吸収し、過激派ポピュリスト政党(例:極右政党など)が票を伸ばしている。特に争点になるのが移民の問題。低賃金労働者である移民増加により職を失ったと考える人、自分の税金が使われる生活保護などをだまし取っていると考える人が多い。
別記事でも取り上げたが今年は欧州選挙の年。欧州民主主義の未来が問われる。
最後に一言
著者がジャーナリストということもあり、とても読みやすい本なので、とりあえず政治に興味を持ち始めた人にはおすすめ。でも、政治学を学んだことのある人にとっては少し物足りないと感じるかも。
本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。
併せて、他の読書ノートもご覧いただけたら幸いに思います。
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