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欧州: 強制労働産品の上市・輸出禁止

2024年3月、EUが、強制労働産品の上市・輸出禁止法案に関して暫定合意に至った。太陽光パネルなどに使用されるシリコン供給に影響を及ぼしそうなので、その概要をサクッと整理。

記事要約

  • EUは、2021年一般教書演説の中で、中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権侵害を念頭に強制労働による製品をEU市場から排除する意向を示す。

  • 同法は、EU域内を流通する各種製品のサプライチェーン上における強制労働の根絶で、EUデューデリ法(CSDDD)と補完し合う形。適用は、法施行から3年後。

  • シリコン/Polysiliconの世界供給35%を人権侵害&強制労働の疑いがある中国・ウイグル自治区が担っており、今後の太陽光パネル供給に影響がありそう。




1. 法規背景としての強制労働

欧州委員長が2021年の一般教書演説の中で、中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権侵害を念頭に強制労働による製品をEU市場から排除する意向を示し、政策制定に向けた気運が高まる。

2021年の一般教書演説
2021年の一般教書演説

2022年にはILOが、強制労働報告書/Global Estimates of Modern Slavery-Forced Labour and Forced Marriageを公表、強制労働に関する実態が明らかになる。本人の意向を無視して労働や結婚を強制された人々は世界で5000万人に上るとの報告内容。その内訳は以下。

出典:ILO報告書、p.20

強制労働の数は2016年‐2021年間に40から50millionに増加、アジア・パシフィック地域での強制労働がダントツに多いが、人口当たりの強制労働者数はアラブ国や欧州が多いのが現状。民間企業による強制労働が6割以上を占める。

出典:ILO報告書、p.24

セクター別ではサービス業がダントツでその次に建築業製造業が来るが農業もかなりのシェアとなる。

出典:ILO報告書、p.31

給与支払い拒否や解雇脅しによる強制労働がダントツに多い。

出典:ILO報告書、p.42

2. EU強制労働法概要

2022年9月に欧州委員会が、強制労働産品の上市・輸出禁止法案を発表コデシに則り欧州議会&EU理事会で議論、2024年3月5日に暫定合意に至った。同法規の目的は、EU域内を流通する各種製品のサプライチェーン上における強制労働の根絶で、サプライチェーン全体での人権遵守や持続可能性担保を義務付けるEUデューデリ法(CSDDD)と補完し合う形(CSDDDは一定規模以上の企業のみ対象)。

※EUデューデリ法概要は以下

同法規の概要は以下で、法の施行開始から3年後に適用開始。

  • 対象となるのはEU域内やEUから輸出される製品の内、採掘、収穫、生産、製造などサプライチェーンのいずれかの段階において、原材料含め部分的にあるいは全面的に強制労働が用いられた製品

  • 中小企業含めそれらを扱う事業者が規制対象

  • 強制労働関与が疑われる製品がある場合、EU加盟国当局(強制労働が域外で実施された場合は欧州委員会)が事業者に対して初期調査を実施。十分な裏付けがある場合は域外国調査を含む正式調査へ移行

  • 法違反がある場合、製品流通の禁止企業に対して製品回収&処分を含む罰則を課す(ないし、強制労働是正すれば、再び販売可能)。

  • 強制労働ハイリスク製品&地域に関するデータベースを欧州委員会が作成。

  • 他、強制労働リスクのアセス基準、追加ガイドラインの発行など

3. コメント

人権や強制労働の問題って改めて大事だなあということに気づかされたのがILO報告書。真面目に報告書やそこに記載されたグラフに目を通すと、ちょっとエグい実態が鮮明にわかる。

無論欧州委員会としては、強制労働を口実に中国や域外製品の締め出し&域内産業育成という目的もあるのだろうが、いずれにせよ人権&強制労働に関わる製品を禁止すること自体が正当であることは変わらない。

EUは対中国の貿易対策を講じることをヘジっていることから、CSDDDも含め、この強制労働禁止法がどう中国からの輸入産品に影響するかは要ウォッチ。特に太陽光パネルに使用される原材料のシリコン/Polysiliconの世界供給35%を人権侵害&強制労働の疑いがある中国・ウイグル自治区が担っており、今後、中国産PVパネルの欧州市場供給が何らかの影響がありそう。

多結晶シリコン/Polysilicon

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